940:アンエクスプロード・リージョン-4
「あはははははっ!」
「「「ーーーーー!?」」」
私の笑い声が周囲一帯に響き渡る。
それに合わせるように竜呪たちの悲鳴のような声も響き渡る。
「いやぁ、良いわね。実に良い」
『竜息の呪い』の射出方法3、それは射出物を効果を保ったまま粉末状にしてから、ブレスとして勢いよく吐き出す、ただそれだけのものだ。
ただそれだけのものであるから、専用のカートリッジや特殊なアイテムでも使わない限りは大した威力は出ないし。使っても『竜息の呪い』そのもの威力と言うよりは補助効果の積み重ねで威力が出ているように見せかけているのに近い。
だが今回使ったようにルナアポを使った場合は別だ。
ルナアポは圧倒的なまでの干渉力を有している。
その圧倒的な干渉力を有したまま粉末状となって、周囲に叩きつけられるのだ。
すると何が起きるのか。
「一時的になら満腹になりそうなぐらいの情報が流れ込んでくるわぁ……」
まあ、簡単に述べるならば……それはブレス状のやすりとでも言うべきものと化し、触れたものを削り飛ばし、消し飛ばし、未知を奪い取って既知あるいは白紙へと変える必殺のブレスとなるのだ。
おまけに今回ブレスとして放ったのは、実はただのルナアポではなく、ドゴストへの収納の際に私の手のひらを傷つけつつ収納する事で血を付けた、私の血がべっとりとついたルナアポ。
すると当然ながら『竜息の呪い』にも私の血が混ざる事となり、ブレスに触れた竜呪に対してさらなる苦痛と状態異常を与えるような代物になっている。
「そして、生き残った貴方たちも実に素晴らしいわ」
「「「ーーーーー!!」」」
だが、竜呪たちの群れと言うのは、この程度で殲滅できるような集団ではない。
私のブレスを見て、竜呪たちは咄嗟に動いていたのだ。
牛陽や虎絶のようなブレスを避ける事など絶対に出来ない巨体を持つものを肉の壁とし、その壁の向こう側で残る竜呪たちも一塊となって、私のブレスを凌ごうとしたのだ。
それはどうせ死ぬのであれば少しでも価値のある死を求めるかのような動きであり、己が命の輝きを最後まで生かそうとする考えでもあり、それを咄嗟に行えたことだけでも称賛に値する。
そして、その行動によって、蛇界や兎黙と言った小柄な竜呪たちは生存に成功。
ブレスの余波が落ち着くと同時に、ルナアポを通して得た情報に酔いしれている私に向かって一直線に詰めてきている。
「でもごめんなさい。そこまで負荷がかかるものでもないのよ。citpyts『出血の邪眼・3』」
「「「!?」」」
だが見えているし、体も動く。
なので素早く伏呪付きの『出血の邪眼・3』を撃ち込み、呪詛の剣による攻撃も行って起爆。
向かってきた竜呪たちを怯ませ……ネツミテの先端に再生成したルナアポを一閃。
まとめて始末する。
「そして残念ね。ええ、本当に残念……」
さて、実質的には今のが最後の抵抗と言えただろう。
既に周囲には動く竜呪の影はなく、死体が転がるばかりとなっている。
毒を受けていた妓狼の副官も体が半ば以上欠けた上で転がっていて、死亡を確認。
群れは完全に壊滅したと断言していいだろう。
「まさか、この場から逃げられると思っているだなんて、本当に残念で仕方がないわ」
が、まだ生き残りが居る。
あのブレスを凌ぐための肉の盾の中心部に居たものが、生き延びた他の竜呪を私に差し向ける事で目を逃れようとしたものが、自分が生き残れば群れの再構築は可能であると逃げ出したものがいる。
「ねぇ? そうは思わない? 群れの長だった妓狼の竜呪さん?」
そう、この群れの長であった、妓狼の竜呪。
奴は眼宮個体の鼠毒の竜呪の背に乗ると、魅了の力も使う事で限界以上のスピードでこの場からの離脱を図っていた。
私はその様子を、ザリチュが妓狼の竜呪の懐に仕込むことに成功した眼球ゴーレムによって見ている。
眼球ゴーレムによって見ている以上は『転移の呪い』によって目の前に飛ぶ事も可能であるが……どうせならこうしておこうか。
「citnagig『集束の邪眼・3』」
私は、私と妓狼の竜呪の間にある空間に向けて『集束の邪眼・3』を発動。
呪法も残っている眼球ゴーレムも全て使った上での発動だ。
その効果によって私と妓狼の竜呪の間の空間は一気に集束していき……。
「はい、捕まえた」
「ー!?」
私の手の内に妓狼の竜呪の首が収まる。
そのまま私は手に力を込めて締め上げると同時に、ルナアポを使って妓狼の竜呪が乗っていた鼠毒の竜呪は始末しておく。
これで正真正銘、残すは群れの長だった妓狼の竜呪ただ一体だ。
「た……あ……」
群れの長だった妓狼の竜呪は、女王様風の衣装が乱れる事も厭わず、爪が割れる事も構わず、私の手から逃れようと自分の首ごと手を掻きむしっている。
しかし、それで手の力を緩める私ではないし、掻きむしられたことによって出て来た私の血によって妓狼の竜呪は傷ついていく。
さて、このまま締め続けていれば、その内死ぬとは思うが……まあ、無駄に苦しめる必要もないだろう。
「ふんっ!」
「!?」
と言う訳で手へと一気に力を込めて首の骨を握り潰すと共に、耳の穴と背中から呪詛の剣を刺し込み脳と心臓を破壊。
妓狼の竜呪を始末した。
『いや、たるうぃ、流石にそれはどうかと思うでチュよ……』
「え?」
『無自覚でチュかー、そうでチュかー、たるうぃだから仕方がないでチュねー……』
なお、その直後になぜかザリチュから心底呆れたような言葉をかけられた。
うーん、解せない。
まあいいか、それよりも死体の回収を急ぐとしよう。
これだけあれば、ザリチュたちの強化も支障なく出来るはずである。
06/06誤字訂正
06/07誤字訂正