936:ヤノミトミウノハ-1
「楼主様ー……封鎖ー……完了しましたー」
「ありがとうね。エヴィカ」
さて、噴水の前にやってきた私は、まずは他のプレイヤーの安全確保も兼ねて、人払いを行った。
これで何かトラブルがあったとしても、被害は最小限に抑えられる事だろう。
「ではー……逃げてますねー」
「ええ」
『いよいよでチュねぇ』
ではやっていこう。
「さてと……ふむふむ……」
私は噴水の根元、杯が設置されている場所へ呪詛支配を向けるだけでなく、ルナアポの刃先も向けて、情報の読み取りを行っていく。
その結果としてだ。
『どうでチュか?』
「完全にカース化しているし、自律もしているわね。呪詛による防壁を張っているわ。ああなるほど、これで解除にしくじるとゼンゼのように永久石化を浴びせられることになるわけね」
『えーと、大丈夫なんでチュ?』
「『竜活の呪い』発動中……でも結局は私の方が格上だし、油断をしていなければ大丈夫ね。油断したら私も永久石化させられるでしょうけど」
『とんでもない危険物じゃないでチュか……』
中々に危険な状態になっている事が確認できた。
いやぁ、まさか13層からなる呪詛の防壁を張っていて、解除には繊細かつ柔軟で素早い呪詛操作を求められ、その内の一つでも解除にミスすれば不可避の反撃を喰らうとは……中々に凶悪である。
「ハイ解除できたわ」
『流石でチュねー……』
まあ、私には問題ないレベルだが。
呪詛支配の精度については言うに及ばず、ルナアポによる補助も入っているし、一応ではあるが主なので当然なのだが。
「さて、鑑定してみましょうか」
そうして噴水の中から取り出されたのは、13の輝く宝石によって彩られた蘇芳色の杯。
溢れ出す液体は最初は虹色だが、直ぐに先が見えない深緑色に変化し、10秒ほど経つと向こうが見えるいつもの色へと変化していく。
では鑑定してみよう。
△△△△△
『毒憑きの宝杯呪』ヤノミトミウノハ
レベル:タルのレベルと同じ
耐久度:100/100
干渉力:タルの干渉力と同じ
浸食率:100/100
異形度:タルの異形度と同じ
『虹霓境究の外天呪』タルが所有する宝杯型のカース。
『虹霓境究の外天呪』タルの所有するダンジョン『ダマーヴァンド』の核であると同時に、『ダマーヴァンド』に連なるダンジョンと呪限無の基点でもある。
禍々しき輝きを放つ13個の宝石と虹色の液体は、資格ある者を変化の路へと招き、資格無き者を不変の路へと追いやる。
この杯の底には、呪限無の深淵へ赴くための路が秘されているが、その路を開くためには所有者としての資格だけでは足りないようだ。
自己意思を有しており、『ダマーヴァンド』の守護と維持を第一にとしており、主への忠誠心はない。
しかし、反抗する気もまたないようだ。
注意:正規の手順以外で接触を試みたものが居た場合、永久石化攻撃を行う。この効果をプレイヤーが受け、防げなかった場合、キャラクターをロストする。
注意:異形度19以下のものが、生成から1秒以内の毒液を飲むと、毒(1,000)、灼熱(10,000)、気絶(100)、沈黙(1,000)、出血(1,000)、干渉力低下(1,000)、恐怖(1,000)、乾燥(1,000)、暗闇(1,000)、魅了(畏怖)(100)、石化(蛋白石)(1,000)、幸運値低下(1,000)が耐性を無視して付与される。
注意:異形度19以下のものが、生成から10秒以内の毒液を飲むと、毒((20-対象の異形度)×100)が付与される。
注意:異形度19以下のものが、生成から10分以内の毒液を飲むと、13%の確率でランダムな呪いを恒常的に得て、異形度が1上昇します。
▽▽▽▽▽
「『毒憑きの宝杯呪』ヤノミトミウノハ……ね」
『第一級危険物どころじゃないでチュねぇ……』
「まあ、私でも取り扱いを間違えたら、危険なものだものねぇ」
うん、ヤバい事しか書いていない気がする。
とりあえず生成から1秒以内の液体は最終兵器の類と言う事になるだろう。
仮に飲ませるとなれば、相手の口に直接ヤノミトミウノハを突っ込むようなことになるだろうが、それに成功すれば、相手の耐性を無視して私の使える主要な状態異常を、圧倒的なスタック値でもって付与できるのだから。
まあ、『ダマーヴァンド』の維持の方が圧倒的に重要なので、そんな機会があるとは……あっても次回のイベントのように消費しても問題がない事が確定している場面ぐらいか。
「ま、私へ反抗する意思がなく、『ダマーヴァンド』を維持する事を優先してくれると言うのなら、何も問題ないわ」
『それは……そうでチュね』
後気になるのは、ヤノミトミウノハの底に呪限無の深淵へと赴くための路が隠されていると言う点か。
なんとなく、なんとなくだが……その路を利用する事によって、奴の居る場所へと赴くことが出来るように思える。
ただ、今の私でも資格が足りないとなると、その路を開くために必要な要素が何処かに隠されている事になるだろう。
その隠されている何かがありそうなのは……『虹霓鏡宮の呪界』の奥地、その中心部だろうか。
「さて、今は戻しておきましょうか」
『でチュね』
なお、今回の鑑定結果は『竜活の呪い』を使っていない状態であるので……まあ、ゼンゼが手を出してしまった時のヤノミトミウノハのスペックについてはお察しである。
とりあえず今後も、厳重に封印すると共に、手を出したらどうなっても知らないぞと言う宣言を出しておくべきだろう。
「それじゃあ『虹霓鏡宮の呪界』、その奥地へと行きましょうか」
『中心を目指すんでチュか?』
「その前よ。まずは奥地の竜呪を一通り倒して、素材を回収。ザリチュたちの強化をするわ」
『それは楽しみでチュねぇ……』
と言う訳で、後始末を終えた私は『虹霓鏡宮の呪界』の奥地へと魅了の眼宮経由で向かう事にした。