930:ブリドパレス-3
「まあ、毒が弱点として記載されている時点で、これが正着なんでしょうけどね。etoditna『毒の邪眼・3』」
「「「ですよねー」」」
では、卵雲の竜呪を死体が残るように倒してみよう。
まずは鑑定結果から読み取れる対処法を、順当に試してみた。
「毒が入ったのを確認。スタック値は……相変わらずね」
「呪法はそんなに使ってないよなぁ……」
「それでこれかぁ……」
と言う訳で、『呪法・方違詠唱』、『呪法・極彩円』、『呪法・逆残心』の三つだけを乗せた『毒の邪眼・3』を卵雲の竜呪へと撃ち込む。
与えた毒のスタック値は3,654。
卵雲の竜呪のHPが5,300ちょっとだったので、2回の毒ダメージ……つまりは20秒で倒せる計算か。
「……。念のために構えておくぞ」
「周囲の卵雲の竜呪にも気を付けるように、何が起きるかは分からないわよ」
こうなると問題になるのは毒のダメージによって起爆するか否かであるが……。
「10秒経過」
「スタック値の低下を確認」
「鑑定。HPは減っています」
「つまり、毒ダメージなら反応しない、と」
「「「ふぅ……」」」
どうやら爆発しないようだ。
万が一に備えて構えていたロックオたちも含めて、全員が安堵の息を漏らす。
「で、これで撃破ね」
「そうなるな」
そして更に10秒が経過し、二度目の毒ダメージによって卵雲の竜呪のHPが尽き、それまでは認識阻害によって朧気にしか見えなかった卵雲の竜呪がはっきり見えるようになると共に、命が尽きたことを示すように表面が完全に真っ黒なものになった。
「これは私が回収していいわよね」
「ええ、タルが倒したものだから、構わないわ」
倒した卵雲の竜呪はドゴストに収納しておく。
「さて、これで倒し方はほぼ確定かしら」
「そうね。タルのやり方から状態異常の種類とかを抜いて考えるなら、ダメージを与えない範囲状態異常によって、卵雲の竜呪の認識阻害を妨害。姿が見えるようになったら、毒の付与だけを行う。と言うところかしら」
「そうなるかしらね。まあ、他にも方法はあるでしょうけど」
「まあ、無いとは言わないわ」
基本的な倒し方については確定した。
ただ、効率や安全性を無視するならば、他にも倒す方法はあるだろう。
具体的には無差別に毒をばらまく、ザリアの出血のスタック値を開放させない攻撃、何かしらの即死攻撃、この辺だろうか。
「さて、もう10秒早められるかどうか試しておきましょうか」
「そうね。試してみてもいいんじゃないかしら」
まあ、色々と試してみればいいだろう。
と言う訳で、まずは安全にできると言う事もあり『呪法・破壊星』込みの『毒の邪眼・3』を試してみたのだが……。
「「「……」」」
まあ、見事に爆発した。
どうやら殻への衝撃自体が良くないらしい。
なお、離れた場所にいた卵雲の竜呪に試したので、こちらの被害はない。
「さ、さーて、この眼宮自体の鑑定もしておかないといけないわねー」
「ソウネー」
それはそれとして、眼宮の鑑定である。
△△△△△
虹霓鏡宮の呪界・出血の眼宮
限り無き呪いの世界の一角に築かれた虹霓に輝く城。
離宮の一つ、出血の眼宮、そこは見えざる危険ばかりの世界であり、大いなる竜の始まりが微睡む世界でもある。
ひしめくは竜と出血の力に満ちた竜の呪いであるが、彼らが孵るには莫大な時間と呪いが必要になるだろう。
呪詛濃度:26 呪限無-中層
[座標コード]
▽▽▽▽▽
「ああ、卵だけあって、孵化する可能性はあるのね」
「けれど莫大な時間と呪いが必要となると……プレイヤーが手を出せるかは怪しい気がするわね」
「マトモな手段でどうにかしようと思ったらそうね」
どうやら卵雲の竜呪は条件を満たせば、孵化するらしい。
孵化して成長したら、やはり乱雲光髄の外天竜呪のようになるのだろうか?
もしもそうなら、実に怖ろしい話である。
まあ、プレイヤーが孵化させようと思うなら、時間加速のようなものが付いた孵化装置を作った上で、膨大な量の呪いを注ぎ込む必要があるのだろうけど。
「そう言えば此処のギミックは……」
「あの霧のようね」
なんにせよ、この場でやるべき事として残っているのは、ギミックの調査ぐらいなものである。
そして、そのギミックだが、どうやら向こうからやってきたようだ。
「実に嫌らしい仕掛けね……」
「そうね。ただでさえ相手の位置が分からず、マップ自体も複雑なのに、それに加えてこのギミックは悪意を感じるわ」
出血の眼宮のギミックは異常に濃い霧だった。
呪詛の霧による視界阻害ならば、私の異形度の前では有って無きが如しなのだが、この霧は純粋な物理現象であるらしく、私の視界も閉ざされてしまった。
それこそ、目から50センチも離れれば、ほぼ見えないほどに霧が濃い。
おまけにこの霧に合わせて卵雲の竜呪の再配置なども行われているようだ。
この霧の中で、卵雲の竜呪と言う機雷が屯する、ビル街と言う複雑なマップを移動するとなったら……まあ、どうなるかは考えるまでもないだろう。
現に割と近い場所から幾つも爆発音が聞こえてきているし、かなり危険な状態である。
「霧が晴れたわね」
「そうみたいね」
「とりあえず私は離脱するわ。頑張ってね。ザリア」
「分かったわ。タル」
やがて霧が晴れ、卵雲の竜呪が大増殖している光景が目に入ってくる。
予想通りに密度は高いが、『瘴弦の奏基呪』の力で姿が見えている状態ならばどうとでもなるだろう。
と言う訳で、私は『瘴弦の奏基呪』をその場に残すと、一人で卵雲の竜呪を狩りつつ出血の眼宮から脱出したのだった。