927:タルウィブリド・3-8
「貴様は爆発オチで済ませないと気が済まないのか」
「大量のエネルギーを一瞬で発生して放出させると、必然的に爆発と言う現象になるから仕方がないわね」
『虚像の呪い』の効果が終わり、数百度……もしかしたら千度を超えるような空間で暑さに耐えること数秒。
呆れ顔の『悪創の偽神呪』が姿を現し、周囲の熱が急速に弱まっていく。
そして、溶岩のように沸騰している地表から足場がせり出てきて、『悪創の偽神呪』はそちらに着地。
私も続いて足場に降りる。
「一応聞いておくけど、今回の相手だった乱雲光髄の外天竜呪は『虹霓鏡宮の呪界』には追加されないのよね」
「追加出来るわけないだろう。一体倒すだけで何度世界が滅びるか分かったものではない。私を過労死させる気か」
「追加されない方が嬉しいから、安心して頂戴」
どうやら乱雲光髄の外天竜呪は今回限りのようだ。
うん、本当に良かった。
なにせ現在の周囲だが、私たちが居る足場を除いて地平線の先まで構造物は何もかもが消し飛び、地表は溶岩と化して熱を放ち、空は巻き上げられた土砂によって僅かな日差しもないと言う、この世の終わりとしか言いようのない光景になっているからだ。
こんな化け物が何匹も出てきたら、『虹霓鏡宮の呪界』が消し飛んでしまう。
「と、忘れていたな」
「あら? 私は死んだはずだけど……」
「ザリア」
「報酬を渡すために私が生き返らせた」
「あ、ありがとうございます」
と、ここで『悪創の偽神呪』が指パッチン一つでザリアを復活させる。
流石の偽神呪である。
「とは言え、アレの素材は流石に渡せないがな。危険すぎる」
「「デスヨネー」」
なお、今回のザリアへの報酬は乱雲光髄の外天竜呪の素材ではないらしい。
まあ、ルナアポによる『竜活の呪い』使用中の私でも扱えるか怪しい素材であるし、ザリアの側としてもそんなものを貰っても困るだろうから、妥当な判断だろう。
「文句はないようだな。では、これで試練は終了だ。そして13の邪眼を参の位階に上げる試練もこれで終わり。中々に楽しませてもらったぞ。『虹霓境究の外天呪』タル」
≪呪術『出血の邪眼・3』を習得しました≫
≪タルのレベルが49に上がった≫
そうして私たちは元の世界に戻された。
「いやー、流石に疲れたわね。録画は……アッハイ」
『運営判断で停止させられているでチュねぇ』
元の世界に戻ってきた私は、とりあえず録画していた映像がどうなっているかを確認しようとした。
が、映すと拙い物が色々とあると判断されたのか、録画は試練開始と同時に途切れていた。
うん、判断そのものは至極妥当と言うほかない。
「まあいいわ。進入許可は出して、性能の確認ね」
『でチュねー』
仕方がないので、掲示板には新しい眼宮への進入許可だけ出しておき、私は『出血の邪眼・3』の性能確認を行う。
△△△△△
『出血の邪眼・3』
レベル:50
干渉力:150
CT:1s-5s
トリガー:[詠唱キー][動作キー]
効果:対象周囲の呪詛濃度×3+5の出血を与える
伏呪
トリガー:[詠唱キー]
効果:この呪術の効果によって生じたダメージを受けたものに毒(与ダメージの25%)、灼熱(与ダメージの25%)、沈黙(与ダメージの25%)、恐怖(与ダメージの25%)、暗闇(与ダメージの25%)、石化(与ダメージの25%)を与える。
貴方の目から放たれる呪いは、敵がどれほど堅い守りに身を包んでいても関係ない。
全ての守りは破れずとも、相手の守りの内に直接傷を潜ませ、別の傷が刻まれた時に開くのだから。
そして、開かれた傷は更なる傷を近くに居るものへともたらすのだから。
注意:使用する度に満腹度が1減少。
注意:伏呪使用時には更に満腹度が1減少。
注意:レベル不足であるが、何かしらの理由によって性能低下は起きていないようだ。
▽▽▽▽▽
「最後の一文が怖い」
『何かしらの理由ってなんでチュかねぇ……なんなんでチュかねぇ……』
性能は大きく上がっている。
与える出血そのものも、伏呪に付随する状態異常の種類も増えている。
使用後CTが1秒伸びているが、これについては準備のCTが3秒短縮されているのだから、実質的に必要な時間は減っているし、何なら味方の攻撃に直前で無理矢理合わせる事も可能になったのだから、強化で問題ないだろう。
怖いのは最後の一文だが……。
「真なる神の仕業かしらねぇ……」
『まあ、可能性があるならそこでチュよねぇ……』
大丈夫か否かを慎重に見極めつつ使用する事になりそうか。
『で、この後はどうするでチュ?』
「デメリットの解消待ちもあるけど、それが終わり次第、とりあえずはザリアと合流。シロホワのバフをもらった上で仮称出血の眼宮に入りましょう。乱雲光髄の外天竜呪が実装されない以上、それに似てはいても別の竜呪が配備されているはずだから、この未知を見逃すわけにはいかないわ」
『そして、そこで新たな竜呪の肉を回収できれば……と言う事でチュか』
「ええそうね。次の『劣竜式呪詛構造体』のアップグレード。もしかしたら名称から劣の一文字が取れる可能性もあると思うわ」
さて、『出血の邪眼・3』取得のための準備に結構な時間がかかり、そろそろログアウト時間も近いのだが、今回に限っては眼宮と竜呪の確認を急ぎたい。
と言う訳で、『竜活の呪い』のデメリットが終わるタイミングで、私たちは『虹霓鏡宮の呪界』へと向かう事にした。
05/25誤字訂正