925:タルウィブリド・3-6
「ーーーーー!」
乱雲光髄の外天竜呪が頭の突起物を輝かせ、突起物それぞれの色と同じ色の結晶体が六つ、突起物の真横に出現する。
そして、六つの結晶体は乱雲光髄の外天竜呪から離れ、六方に散らばると共に地表に向かってゆっくりと落ちて行く。
『タル!』
「私が対処するわ! ザリアはそのまま行って!!」
その光景に私は背筋を凍らせた。
ザリアも同様だったのか、声を張り上げる。
あの結晶体がそのまま地表に落ちた場合にどうなるのかが、これまでの戦闘と、結晶体の間を円を描くように駆け巡る大量の呪詛を見た事で、理解できてしまったからだ。
「ドゴスト!」
なので私は素早くドゴストの口を結晶体の一つに向けさせ、その口から伸びるように呪詛の壁で砲身を形成。
そして、ドゴストの中に生成したルナアポを収納し、動作キーによって『竜息の呪い』を発動。
螺旋回転を加えられ、通常よりも直進性と貫通力が高まったルナアポが射出される。
真っ直ぐに飛んで行ったルナアポは……。
「ぐっ……」
結晶体を破壊する。
だが同時に、ルナアポの効果によって、あのまま結晶体が落ちて行った場合の結果が、私の脳裏へと強制的に送られてくる。
見えたのは、六方向から桁違いの大きさの爆発が起きたことによって、内側にあったもの……つまりは私やザリア、この場にある空気などが強制的に核融合されて、さらに大きな爆発が発生する凄まじい光景。
「バッカじゃないの!? 呪いを利用しているとはいえ、この広域を丸ごと爆弾に変える、爆縮式の核融合とか当たり前のように使わないで欲しいんだけど!?」
私は思わず叫ぶ。
叫ばずにはいられなかった。
対処を間違えたら即死するような攻撃ばかり撃ち込んでくる相手なのは分かっていたが、それでも叫ばずにはいられなかった。
幸いにして六つの結晶体の内の一つでも欠ければ、最初の爆発すら起きないようになっているので、私の対処は正解だったようだが、それでも叫ばずにはいられなかった。
『せいっ!』
「ーーーーー!?」
「と、支援を再開しないといけないわね。citpyts『出血の邪眼・2』」
と、ザリアが乱雲光髄の外天竜呪が放つマイクロ波や爆発する爪を掻い潜って接近。
出血を与える攻撃と、出血を発動させずにダメージだけを与える攻撃を織り交ぜて振るい、乱雲光髄の外天竜呪にダメージと出血のスタック値を重ねて行っている。
私も呪詛の足場の準備と、『出血の邪眼・2』による支援を再開し、少しでも乱雲光髄の外天竜呪に大ダメージを与える準備をする。
「……。このままじゃ間に合わないわね」
『まあ、そんな感じの色でチュよねぇ』
だがこのままでは間に合わなさそうだ。
乱雲光髄の外天竜呪の突起物は攻撃の度に色合いが鮮やかになっていっている。
それはそのまま突起物に溜まっているエネルギーの量を示しており、全ての突起物に限界までエネルギーが溜まれば、最初に使われた核融合モドキがさらに威力を増して放たれることになるだろう。
そして、そうなれば私たちは跡形もなく消し飛ぶに違いない。
だから、少しでも早く出血のスタック値を貯めて、乱雲光髄の外天竜呪を撃破したいのが、私たちの状況。
しかし、現状だと……途中で『呪法・感染蔓』込みの『出血の邪眼・2』を撃ち込んだとしてもなお、乱雲光髄の外天竜呪は倒せなさそうだ。
「ザリア、出血のスタック値付与の回転率を上げる事は可能?」
『出来ないとは言わないけど、かなり厳しいわ。それと上げられると言っても、倍になったりはしないわよ』
「分かったわ。だったら、今のペースを崩さないで」
ではどうやって出血のスタック値を増やすか。
ザリアに頼るのは、残念ながら無理そうだ。
今もマイクロ波から逃れ、傷を癒し、再び突撃しているような状況で、既にかなりの無茶をしているようだ。
最後の一撃を強力にするのも無理がある……と言うか、乱雲光髄の外天竜呪の性質を考えると、最後の一撃はザリアに撃ってもらう必要があるだろう。
ザリアなら、付与した出血の効果を跳ね上げる手段も持っているだろうし、そういう意味でも最後の一撃は既に固定されていると言っていい。
「……。はぁ、『虹霓境究の外天呪』としての役割を果たせと言うのは、そう言う事ね」
つまり、与える出血のスタック値そのものをどうにかして増やさなければいけないと言う事だ。
そして、そのスタック値を増やす方法について、私には心当たりがあった。
「『虹霓境究の外天呪』……私の役割は、虹霓……つまりは人間が観測可能な範囲である既知の領域を広げる事にある。では、この場における未知とは?」
『タル。何があるかは分からないけど、早めに頼むわ!』
「ーーーーー!」
ルナアポによる攻撃を相手に当てる事で与える事が可能な専用デバフ、理解、だ。
相手を理解すればするほど、私はより多くの干渉を相手に対して行えるようになるし、相手からの干渉は跳ね除ける事が出来るようになる。
これを利用すればいい。
「幾らでもあるわね。乱雲光髄の外天竜呪が如何なる存在であるのか、その叫びは如何なる意味を持っているのか、如何なる原理原則でもって核融合モドキと言う圧倒的な力を行使しているのか、何処までが乱雲光髄の外天竜呪の身体であるか否か、視認領域外の光線をどのように放っているのか、未知は幾らでもある。後はどうやってそれを明かしていくか。さあ……暴いていきましょうか!」
『っ!?』
「……」
私は乱雲光髄の外天竜呪を少しでも理解するべく、大量の呪詛を浴びせかけた。