919:ペトロパレス-2
「さて、解体と鑑定の時間ね」
「でチュねー」
虹石の眼宮から帰ってきた私たちは直ぐに虹亥の竜呪の解体に取り掛かる。
なお、虹石の眼宮と奥地では虹亥の竜呪が走り回り続け、それに巻き込まれたプレイヤーたちが阿鼻叫喚の書き込みを掲示板にしているようだが……いつもの事である。
「うーん、見ているだけでも美味しそうと思えるわね」
「甲殻は虹色でチュが、肉は普通に赤と白なんでチュねぇ」
と言う訳で、さっくり解体完了。
手に入ったのは、甲殻、牙、骨、肉、胃袋、爪の6種類。
少ないように思えるが……虹亥の竜呪には皮膚や鱗と呼ぶべき部分が存在しない事、『遍在する内臓』に似た呪いによって胃袋以外の内臓がない事、地竜なので翼が無い事などが影響しているようだ。
で、個人的に気になった鑑定結果については、やはり肉だろう。
後は胃袋と甲殻。
詳細はこんな感じ。
△△△△△
虹亥の竜呪の肉
レベル:40
耐久度:100/100
干渉力:135
浸食率:100/100
異形度:20
虹亥の竜呪の体を構成する肉。
濃厚な呪いと旨味を秘めた肉であり、無尽蔵にも思えるスタミナの秘密でもあるが、人が食べれば一口で呪いそのものと化すだろう。
この世ならざる存在である竜の肉は、この世ならざる美味でもある。
注意:異形度19以下の存在が食べると、100%の確率でランダムな呪いを異形度が20になるまで複数個、恒常的に得ます。
注意:異形度19以下のプレイヤーが鑑定すると、石化(蛋白石)(100)を与える。
注意:周囲の呪詛濃度が15以下の空間では存在できない。
▽▽▽▽▽
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虹亥の竜呪の胃袋
レベル:42
耐久度:100/100
干渉力:140
浸食率:100/100
異形度:20
虹亥の竜呪の胃袋。
内部に取り込んだあらゆるものを溶かし、自らを構築する呪詛に変換する危険物であり、肉ではあるが食用には適さない。
この世ならざる存在である竜の内臓は、この世の法に従うとは限らない。
注意:異形度19以下の存在が食べると、100%の確率でランダムな呪いを異形度が20になるまで複数個、恒常的に得ます。
注意:異形度19以下のプレイヤーが鑑定すると、石化(蛋白石)(100)を与える。
注意:周囲の呪詛濃度が15以下の空間では存在できない。
注意:内部に取り込まれたアイテムは呪詛に変換される。
▽▽▽▽▽
△△△△△
虹亥の竜呪の甲殻
レベル:40
耐久度:100/100
干渉力:135
浸食率:100/100
異形度:20
虹亥の竜呪の全身を覆う虹色の甲殻。
鉱石として考えると強度は低めだが、衝撃に反応して危険なガスを生じさせる性質を持っている。
この世ならざる存在である竜の甲殻は、加工出来ずとも勲章となり得る。
注意:異形度19以下のプレイヤーが鑑定すると、石化(蛋白石)(100)を与える。
注意:周囲の呪詛濃度が15以下の空間では存在できない。
▽▽▽▽▽
「胃袋、これって迂闊に扱うと虹亥の竜呪を復活させることになるのかしら」
「たぶんなると思うでチュ」
胃袋は、実質的な復活部位とも言えるだろう。
ただ、試練の時の事を考えると、上手く扱えば無限に虹亥の竜呪の素材を得られることになるのではないだろうか。
まあ、私だとそんなことをして増やすよりも、虹石の眼宮に行って狩ればいいだけの話なので、やる事は無いのだが。
「甲殻は天然のトラップのようなものね」
「虹亥の竜呪自身は反応装甲としても使っていた感じでチュねぇ」
甲殻は……ガスの秘密ではある。
ではあるが、私としてはとりあえずは宝石のように飾っておくのみである。
「肉は素晴らしいわね。では早速……」
「ああ、いい香りが漂ってきたでチュねぇ……」
最後に肉だが、これはもう素晴らしいとしか言いようがない。
見た目からして特上の豚肉であることに疑いの余地はなく、脂と肉の比率は適切と言うほかないもの。
豚肉であることから念のために火はしっかりと通しているが、生でもいけるのではないかと勘違いしてしまいそうなぐらいだ。
では火を通すべきではないのか?
そんな事は無い。
火を通せば、周囲に食がとてもよく進みそうな匂いが満ちていく。
その匂いたるや、飲食不要であるはずのザリチュですら悦に浸ってしまうほどである。
「焼肉丼でいただきましょうか!」
「解体中に炊いておいて正解だったでチュね!」
はい、と言う訳で、そのまま焼いただけのもの、自家製のタレを絡めて焼いたもの、その両方を用意し、二つ用意した炊き立てのご飯へとそれぞれ乗せていく。
そして……
「モグモグモグモグモグモグモグモグモグモグモグモグモグモグモグモグモグモグモグモグモグモグモグモグ……はぁ……素晴らしいわぁ……」
二つとも無言で食べ続け、完食した。
うん、適度な脂の甘み、とろけるような感触、肉の旨味、肉の歯応え、どれをとっても素晴らしい……。
本当に特上の肉と言っていいだろう……。
≪呪い『劣竜式呪詛構造体』、『遍在する内臓』がアップデートされました≫
「あ」
「どうしたでチュ?」
「『遍在する内臓』もアップデートされたわ。効果は……まあ、頑丈にはなったでしょうね」
「ますます死ににくくなったんでチュかぁ……」
どうやら効果的にも特上だったらしい。
『劣竜式呪詛構造体』だけでなく『遍在する内臓』までアップデートされるとは、予感がないわけではなかったが、少し驚いた。
「さて、エヴィカとハオマにも肉のおすそ分けをしてきましょうか」
「二人が食べる分には問題ないでチュが、念のために呪詛抜きはしておくでチュよ。たるうぃ」
「分かってるわ」
さて、これほどの肉を独り占めすると色々と言われそうなので、おすそ分けをしておくとしよう。
そうすれば、ログアウトするにもちょうどよい時間だろう。