914:タルウィペトロ・3-4
「スクナ!」
「心配ない。一桁台の石化だけだ。自分から跳んだしな」
地竜から噴き出したライムグリーン色の霧を受けたスクナは大きく吹き飛ばされ、しかしきちんと着地はした。
けれど霧が直撃した部分の皮膚が少しだけオパールになっているようだった。
なるほど、石化効果付きの反撃と言うところか。
スクナは自分から跳ぶことで被弾量を抑えたようだが、反応が遅れていたら、今の反撃だけでも全身が石化して、戦闘不能になっていたかもしれない。
「ブモオオオオオォォォッ!」
「おっと、しかしこうなると面倒くさいわね……それでも仕掛けるしかないけど。『灼熱の邪眼・3』」
「そうだな。もう少し情報が必要だ」
走り続けている地竜がこちらへと向かってきて、私とスクナは再び回避行動を取る。
そうして無事に回避したところで、私は『灼熱の邪眼・3』を呪法無しで撃ち込む。
すると地竜は紅色の呪詛の霧を噴き出して加速するが、ダメージを受けたような様子は見られない。
「ブウモモオオオォォ!!」
「やっぱり面倒くさいわ。この竜呪」
「そのようだ。仕掛ける際には相応の考えが必要そうだ」
で、加速した地竜が突っ込んできたので、私とスクナはまた回避行動を取り、呪詛の霧が収まって多少減速したところで意見を交わす。
しかしこれで地竜の能力は少し分かった。
地竜は攻撃を受けると、受けた攻撃の性質に応じた呪詛の霧を……いや、ガスを噴き出す。
毒付きの攻撃なら毒のガスを、灼熱付きの攻撃なら灼熱付きのガスをと言う風にだ。
その際には状態異常を治す効果もあるらしい。
また、状態異常を伴わない攻撃なら、石化の追加効果が生じるようだ。
で、噴き出すガスの形状は、私の邪眼術のように内部に直接なら任意の箇所から加速に用いるように、普通に甲殻を傷つける形なら傷ついた場所から反撃として用いるように、と言う感じだろう。
「……。絶対にこれだけじゃないでしょ」
「だろうな。突進と合わせて、弱いとは言わないが、これだけとは思えない」
「ブブモオオォォモオオォォ!!」
うん、眼宮個体の地竜ならともかく、試練個体でこれだけと言うのはちょっと考えづらい。
スクナの言う通り、戦闘開始から今までずっと止まらない突進と自動迎撃能力の組み合わせは弱くはないし、厄介ではある。
けれど、避ける事が十分に可能な速さでしかない突進と、何かしらの対策を立てれば無いも同然になりそうな自動迎撃能力だけ、と考えたら、試練個体としては足りないだろう。
「次は私が仕掛ける」
「分かったわ」
「ブモオオオォォ!!」
それにしても本当に止まらない。
この地竜のスタミナは文字通りに無尽蔵なのだろうか?
まあ、それはそれとして、スクナは刀をインベントリに収めると、紫色の穂先を持つ槍を取り出して手に持つ。
「ふんっ!」
「ブミョウ!?」
そして地竜の突進を紙一重で避け、地竜の横っ腹に鋭い突きを繰り出し、まるで水面に突き入れたかのように抵抗なく突き刺す。
「ブ、ブモオオォォ!!」
「ふむ、槍なら十分間に合うな」
「まあ、スクナならそうね」
で、噴出した石化ガスが届く前に離脱。
スクナはあっさりとこなして見せたが、たぶん普通のプレイヤーでは間に合わないだろう。
使ったのが蛇界の竜呪の紫角を利用した槍と言う事もあるだろうが。
「あー、厄介さ増大ね」
「そのようだ」
「ブモオオオォォォ!」
さて攻撃を受けた地竜は、傷口からライムグリーン色のガスを噴き出しつつ、それでもなお走り続けていた。
だが少しずつ噴き出すガスの量が減っていき、やがてはガスが止む。
問題は傷口が塞がっただけでなく、減ったHPまで回復している様子が見られる点。
どうやら、地竜は体格に見合うだけのHPと、竜呪に相応しい再生能力を併せ持っているようだ。
追撃が難しい突進と自動迎撃を考えると、厄介な話である。
「まずは乾燥を試すわ。ytilitref『飢渇の邪眼・3』」
「分かった」
「ブンモオオオォォ!!」
ではどうするか。
とりあえず思いつくのは一撃必殺の類だ。
とは言え、私のスペックで伏呪付きの『沈黙の邪眼・3』で即死を狙うのは単純に難しい。
『出血の邪眼・2』で出血を溜め込むのはスクナが居るのに加えて、邪眼術自体の位階が足りるかもわからず、上手くいくかは不明。
『石化の邪眼・2』は何処かで狙うべきだが、CTの都合上、試すのは後回し。
と言う訳で、まずは乾燥を試してみた。
「ガスは出ていないが……むんっ! 駄目そうだな」
「みたいね」
「ブブモオオオォォ!!」
だが効果はないようだ。
無効化されたのか、すぐさまガスとして噴出したのかは分からないが、直後に繰り出したスクナの攻撃の手応えに変化はなかったようだ。
「ブ……ブタレットオオォォ!!」
「うわっ、面倒な事を」
「ほう、そう来るか」
けれど、この攻撃が何かしらのトリガーを引いてしまったのか、あるいは何か他の条件を満たしたのか、地竜の行動が少し変わる。
地竜がただ走り回るだけでなく、背を激しく横に揺らしながら走り始め、甲殻をばらまき始めたのだ。
そして、ばらまかれた甲殻は風化して消滅するのではなく、その場で周囲に向けて虹色のガスを勢いよく吹き出し始める。
そのガスは、触れたものに様々な状態異常をもたらすガスだった。