912:タルウィペトロ・3-2
「えーと、それじゃあ先にソースと言うか、要になる液体から作りましょうか」
『用意されている素材が既にヤバいでチュねぇ』
では作っていこう。
まず、準備したのは、『ダマーヴァンド』の毒液、黒招輝呑蛙の油、ズワムの油、『琥珀化の蜂蜜呪』の琥珀蜜、私の血、偶像ライムを含む『ダマーヴァンド』産の各種植物、それからラスト一個となった凧形二十四面体の蛋白石である。
ぶっちゃけた話として、今回の『石化の邪眼・2』の強化の主体となるのはこちらだろう。
「液体を混ぜ合わせてー、植物を刻んでー、凧形二十四面体の蛋白石を粉々にしてー」
『宝石は食べ物じゃないと思うんでチュけどねぇ』
「確かに食べ物ではないけれど、古代には真珠を酸で溶かして飲んだ話があるし、現代でも金箔は食べるじゃない。あれだって鉱物であり、食べ物とは言い難いわよ」
私は液状のものを混ぜ合わせていく。
なお、黒招輝呑蛙の油と私の血以外の液体は同量ずつ混ぜ合わせるが、私の血は少なめ、黒招輝呑蛙の油だけは極少量である。
呪いのレベルが違うので当然だが。
で、液体を十分に混ぜ合わせたところに、『ダマーヴァンド』産の各種植物を刻んだものを投入し、蛇界の竜呪の翼によって効果が大幅に増したミキサーにかけ、均一になるように混ぜる。
そうして匂いだけでも甘く、美味しそうになったそれに対して、粉末状になるまで砕いた凧形二十四面体の蛋白石を投入し、軽く混ぜ合わせる。
「うーん、綺麗な虹色ね」
『もはや、たるうぃカラーと呼ぶべきな気がするでチュ』
「まあ、虹と私の関わりは深いから、妥当ね」
出来上がったのは虹色の甘ったるい液体。
ただ、ソースとするにはちょっと多すぎる。
となると……まあ、ちょっと方針転換で。
「肉をカットするわよー。凧形二十四面体に。ルナアポを使って」
『もう好きにすればいいと思うでチュ』
私は名もなきカースの蜜肉を取り出すと、ルナアポを使って、直径20センチ程度のトラペゾヘドロン型に切り分ける。
ルナアポは流石の切れ味で、部位の差など感じさせないぐらいに、細胞の類を潰して味を損なうようなこともなく、鮮やかに切ってくれた。
なお、特に得られた情報は無い。
「で、これを先程のソースの中で煮ます。芯に火を通すために『灼熱の邪眼・3』も使います。効果があるかは分からないけど『集束の邪眼・3』も使います」
『ふむふむでチュ』
無事に切れたところで、先ほど出来た液体の中に投入。
火にかけてじっくりと煮ていく。
なお、肉の形状が形状なので、芯にまで火を届かせるべく、『灼熱の邪眼・3』を使用。
出て来た灰汁はしっかりと取り除くし、肉の中にまでソースが良く染み入るように火の調節も怠らない。
それとこれは思いつきだが、分子の粒径を小さくできるかもしれないと言う事で、『集束の邪眼・3』をソースにだけ使用、染み入る速度が早くなるようにしてみる。
『これは……甘露煮になるんでチュかね?』
「系統として一番近いのはそうなると思うわ。肉のサイズとか、味付けとかが色々と違うと思うけど」
そうして煮込むことおよそ3時間。
甘露煮としてはとても短いかもだが、鍋から肉を取り出し、皿に盛り付ける。
肉は……うん、綺麗な照りのあるライムグリーンに染め上がり、トラペゾヘドロンと言う形も相まって、とても食べ物には見えない。
しかもライムグリーンと先程は言ったが、瞬間的には別の色に変わっているようにも見える。
まあ、気にしないでおこう。
「さ、呪うわよー」
『でチュねー』
では呪怨台に乗せよう。
「私は第三の位階、神偽る呪いの末端に触れる事が許される領域へと手を伸ばす事を求めている」
この辺についてはもはや手慣れたものであり、いつも通りに呪怨台へと虹色の霧が集まっていく。
「手にするを望むは、虹色の封印。蛋白石の衣にて、あらゆるものを封じ込めると共に、封印を解こうとするものへと幾万の災いをもたらす殺生石」
呪詛の霧にライムグリーンが混ざりこんでいくが、それと同じくらいに虹色も濃い。
「私の石化をもたらす石灰緑の目よ。深智得るために正しく啓け」
ライムグリーンの結晶体と虹色の結晶体、その両者が重なり合うように生じ、呪怨台を中心としてトラペゾヘドロンの形を形成。
出来上がると、ゆっくりと呪怨台の中心に向かって縮んでいく。
「望む力を得るために呪いを喰らう。我が身を以って虹毒の石を口にし、飲み込み、溶かし、取り込む。琥珀にする力の一端を継承する」
気が付けば呪怨台はまるでそれ全体がオパールになってしまったかのように固まっている。
だがそう見えるだけだ。
内側では、大量の呪いが渦巻いている。
「宣言。石灰緑を元にして生み出される虹石よ。我が呪いを以ってその呪いを強固にすると共に、我が試練として牙を剥け。noitulid『石化の邪眼・2』」
各種呪法を乗せた上に、ルナアポも利用した『石化の邪眼・2』を発動。
呪怨台を包み込んでいたオパールのような見た目の呪いが、内側からあふれ出たライムグリーンと虹色が入り混じった蔓によって粉砕され、その内に秘されていた肉の塊が露わとなった。
では鑑定。
△△△△△
呪術『虹石の邪眼・3』の甘露煮
レベル:50
耐久度:100/100
干渉力:150
浸食率:100/100
異形度:19
呪われた素材を用いて作られた肉の甘露煮。
覚悟が出来たならば、よく味わって胃の中に収めるといい。
そうすれば、君が望む呪いが身に付く事だろう。
だが、心して挑むがいい。
封じられていた猛威が、門が自ら開かれると言う機会を見逃すはずもないのだから。
さあ、貴様の力を以って踏み砕くがいい。
▽▽▽▽▽
「うん、美味しい。凄まじく美味しい。これなら幾らでも食べられそうだわ。後、米を用意しておくべきだったわね。なんというか、凄く箸が進む味なのよ」
『もはや名称が変わっている事は完全にスルーでチュねぇ……』
どうやら問題なく出来ているようだ。
戦闘準備は問題なし。
念のためにだが、ゲーミングジャーキーも持ち込んでいる。
掲示板への書き込みもやったし、録画も開始している。
肝心の肉はとてつもなく美味しい。
『CNP』内でこれまでに食べた食事の中でも、一、二を争うぐらいかもしれない。
「ごちそうさまでした。じゃあ行ってくるわね」
『頑張るでチュよー』
そうして無事に食べ終わると同時に、私はザリチュをその場に残しつつ、虹色の霧に包まれて移動した。




