9:ドロップルール-2
「ふんぬっ……よしっ!」
毒噛みネズミの死体を回収することに成功した私は、セーフティーエリアまで死体を運んでから解体作業に移ることにした。
理由は単純で、あの場でそのまま作業をしていると、ほかのオフィスから毒噛みネズミがやってきそうな気配がしたからだ。
なお、鉄筋付きコンクリ塊もきちんと回収はしてある。
「さて、今の状態は……」
私は毒噛みネズミの死体に向けて『鑑定のルーペ』を用いる。
△△△△△
毒噛みネズミの死体
レベル:1
耐久度:65/100
干渉力:100
浸食率:100/100
異形度:1
毒噛みネズミの死体。
適切に処理する事で様々な素材を得る事が出来る。
全身に呪詛による毒が回っている。
▽▽▽▽▽
「耐久度の自然減少は起きていない。若干減っているのは引き摺ったせいで毛皮が傷ついたとかかしらね。ああでも、引き摺った覚えがない場所で傷ついているところもあるし、毒が回っていない場所は普通に風化した?」
戦闘中に見た毒噛みネズミの血のように急速に耐久度が減るようなことは無い。
しかし、死体をよく観察してみると、爪の先や尻尾の先、毛皮の一部や体内の骨と筋肉に欠けがあるような感じがする。
「んー……貯め込める呪いの量には限りがあって、浸食率がそれを表している。浸食率が100になると完全に呪われて、この場に満ちている風化させる呪いの影響を受けなくなる。曖昧な部分は多いけど……とりあえず呪いを利用して敵を殺せば、風化させずに済む。という認識でいいのかしらね」
一番いいのは浸食率だけを上げる様な呪いだろうか。
そんな呪いを使える方法が見つかれば、素材回収が滾りそうだ。
「じゃ、解体しましょうか」
私は毒噛みネズミの首筋にある傷口に再度、毒噛みネズミの前歯を差し込む。
そして、ナイフのように前歯を使う事で、毒噛みネズミの体を開く。
「ああなるほど。呪い方が足りないと、外気に触れた瞬間にこうなると」
開かれた毒噛みネズミの体から内臓を主とした一部のパーツが風化して消え去っていく。
また、外からも確認できた通り、一部の骨や筋肉も風化していた。
まあ、手に入らない物は仕方が無いと言う事で、私は毒噛みネズミの体を解体していく。
すると毛皮に骨、心臓、当然ながら前歯も手に入った。
「あ、満腹度減って来てる」
で、肉も当然のように手に入った。
そして、私の満腹度は此処までの戦闘と探索で50を下回っていた。
「……」
火は無い。
起こす手段も見当たらない。
極めて新鮮な肉だが、ネズミの肉で、しかも毒に汚染されているのだから、マトモな肉ではないだろう。
しかし、満腹度が0になると空腹と言う状態異常になって、碌に動き回れない上にHPも減っていくらしい。
で、セーフティーエリアには飲み放題の回復の水が存在する。
「ふっ、異形の化け物らしい行動じゃない」
私は意を決して毒噛みネズミの生肉に齧りつく。
無駄にハリがあって、プリプリしている。
そして不味い!
噛めば噛むほど不味い!
毒(10)、食中毒(10)!
気分が悪い!
腹が痛い!
HPが勢いよく減る!
回復の水をがぶ飲みする!!
こっちも不味い!
でも、全回復!
ならば続けて食う!
毛皮の裏側にひっついてる肉を剥がして、食う!
毛皮の処理と満腹度の回復で一石二鳥!
毒(5)、食中毒(5)!
さっきより少ないけど再びの回復の水!
治った!
≪称号『生食初心者』、『ゲテモノ食い・1』、『毒を食らわば皿まで・1』、『鉄の胃袋・1』を獲得しました≫
変なのが大量に来た!?
食った量は全体の半分ほど!
ならばまだ食う!
満腹度が全快だけど、残しておいても意味が無いから食う!
どうせリアルに帰ればこの痛みは消える!
自分が食えると認識し、食うと決めた以上は命ある限り食う!
それが私の選択!
なんか、少しだけ味がマトモになった気がする!
毒(9)、食中毒(9)!
毒も少しだけ軽くなった?
ならば、無理やり上げているこのテンションのまま食う!
食う!
ひたすら食う!
肉の一欠片も残さず食いつくす!!
ついでだし心臓も食う!
他に比べれば多少は体に良さそうだから食う!
クッソ不味いわ!
「ふう。御馳走様でした……お腹痛い」
毒噛みネズミの死体と格闘する事およそ一時間。
私の前に転がる毒噛みネズミのパーツからは、一切の肉が消え去った。
『CNP』に腐敗と言う要素があるかは分からないが、とりあえずこれで毛皮や骨が腐ることは無いと思う。
≪タルのレベルが2に上がった≫
「ひたすら肉を齧ってただけでレベルが上がるってどういうことなの……」
と、食後の回復の水を飲んだところでファンファーレのようなものが鳴って、レベルが上がったことを知らせる文章が流れる。
何故、ただの食事で上がったかと私は頭を捻るが、少し考えれば答えは出た。
「ああそうか。『CNP』のレベルは正確には呪詛親和度。呪いにどれだけ慣れ親しんだか。となれば、重要なのは呪いを使う事であり、私は毒噛みネズミの前歯と言う呪われた物品を使って、肉を削いでいた。それが経験値として計上されたのね」
しかしこれ、逆に言えば呪いを使わずに戦っていたら、どれほど戦ってもレベルが上がらない事になるのではないだろうか。
例えば鉄筋付きコンクリ塊でただひたすら殴り飛ばすとか。
「……ああ。別にレベルが上がらなくても大して問題は無いのか」
私はレベルアップの成果と先程得た称号の効果を調べるために、自分に『鑑定のルーペ』を使う。
そして鑑定結果から、直ぐにレベルが上がらなくても問題が無いのを悟った。
△△△△△
『呪限無の落とし子』・タル レベル2
HP:1,009/1,010
満腹度:100/100
干渉力:101
異形度:19
不老不死、虫の翅×6、増えた目×11、空中浮遊
称号:『呪限無の落とし子』、『生食初心者』、『ゲテモノ食い・1』、『毒を食らわば皿まで・1』、『鉄の胃袋・1』
所持アイテム:
壊れないボロ布の上着、壊れないボロ布の下着、鑑定のルーペ、鉄筋付きコンクリ塊、毒噛みネズミの前歯×3、ケーブル×8、毒噛みネズミの骨……etc.
▽▽▽▽▽
「HPも干渉力も誤差の範疇でしか上がってないわね」
HPはたったの10、干渉力も1しか伸びていない。
HPは頭を破壊されれば即死し、急所をやられれば容赦なく大ダメージな『CNP』においては、10伸びた程度ではたぶん大した意味はない。
干渉力は恐らく係数のようなものなので、こちらもやはり1伸びたところで大した差はないだろう。
「まあ、考えてみれば、レベル5の毒噛みネズミも倒し方さえ分かっていれば余裕だったものね……」
レベル差が20とか30になれば、流石に差は大きくなるかもしれない。
しかし、そんなレベル差になっても恐らくは立ち回りと呪いの使い方で、容易に逆転できるのではないだろうか?
そんな気がして仕方が無い。
「ああでも、強力なアイテムを扱うのにはレベルを上げる必要があるから、上げる意味はあるのか。面白いわね」
まあ、上げて損になるものではないので、上げられるだけ上げておこう。
そして、相手のレベルが上でも臆さないように心構えを整えておこう。
「と、所持アイテムについては素材の類は表示しないようにしておきましょう。数が多すぎて酷いことになりそう」
とりあえず表示の設定を調整。
ステータスの所持アイテムに映るのはきちんとした装備品だけにしておこう。
邪魔だし。
「さて、後は称号ね」
調整が終わったところで、新たに得た四つの称号の内容を確認する。
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『生食初心者』
効果:効果なし
条件:生の食べ物を一定量以上食べる
生で食べるのも中々いいものだ。
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『ゲテモノ食い・1』
効果:不味いと判断される食べ物の味が良くなる(微小)
条件:一般的でないと判定される食べ物を一定量以上食べる
普通でない食べ物も案外行けるものだ。
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△△△△△
『毒を食らわば皿まで・1』
効果:経口摂取した毒の効果が弱まる(微小)
条件:有毒の食べ物を一定量以上食べる
毒がある? 知った事か。
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△△△△△
『鉄の胃袋・1』
効果:食中毒の効果が弱まる(微小)
条件:食中毒を起こす食べ物を一定量以上食べる
私の胃は丈夫なのだ。
▽▽▽▽▽
「……。まあ、表示はしないでおきましょう」
効果は悪くない。
そして初心者とか1とか付いているので、上位称号もあるのだろう。
微小であっても効果があるのは確認したし、今後に期待だ。
他プレイヤーに見せるなら格好いい『呪限無の落とし子』にしておくが。
「さて、折角頑張ったわけだし、骨や皮で色々と作りましょうか」
毒噛みネズミの解体によって得る物は色々とあった。
しかし、得られるものはまだある。
なので私は毒噛みネズミの毛皮を手に取ると、加工を始めた。