899:カースウォー-3
「「「ーーーーー!」」」
「少し流れが変わってきたでチュねぇ」
「そうみたいね」
さて、戦争開始からおおよそ20分ほど。
竜呪たちと蜂カースたちによる戦いはまだ続いている。
だが流石に物量差が出て来たらしく、少しずつ竜呪の側が優勢になってきているようだ。
まあ、ゲートと言う送り込める人員を絞る口がある以上は、妥当な結果とも言えるが。
「まあ、それはそれとして、敵のバリエーションが案外あるわね」
「それは確かにそうでチュね」
蜂カースたちは見ている限りだと、プレイヤーや今の竜呪たちのように役割を持っているようだ。
装備と追加の異形が個体ごとに異なるので判別は難しいが、体の大きさと立ち回りで判別すれば、どういう役割なのかは見えてくる。
具体的には、大きな体を生かして最前線に出てくるタンク、中型で積極的に突撃するアサルト、小型で隙をつくように襲い掛かるアサシン、尾の針を銃の様に飛ばすスナイパー、口から蜜を吐き出して傷を癒すヒーラー、大まかな分類ではあるが、こんなところだろう。
「「「ーーー!?」」」
「む」
「変わったのが出てきたでチュね。直ぐ倒されたでチュが」
と、ここでアサシンとは異なる、全身を蜜に変えて襲い掛かるスライムのような個体が現れ、兎黙の竜呪が呑み込まれた。
だが、直後に恒葉星の竜呪の起点指定攻撃が炸裂し、スライムは焼き払われた。
「うーん、恒葉星の竜呪の能力で蜂カースたちは撤退が出来ないから、その影響で向こうは情報を得られず。故により強力なカースを送り込み始めた、と言うところかしら?」
「知らせがないのは無事だから、あるいは強力な個体で無理矢理情報を得る、と言う事でチュか? むみねうしんむでチュよ?」
「そうなのよねぇ。相手の頭がお察しレベルならともかく、ムミネウシンムがそんな愚かな判断をするとは思えないのよねぇ」
スライムの登場に始まり、これまでに見た覚えのない蜂カースたちが現れてきている。
ゲートをくぐった後に巨大化して、牛陽の竜呪程ではないが巨大な体躯を持つフォートレス。
尾部を無数に持ち、針を当たるを幸いに撒き散らすガトリング。
アサルトやスナイパーと言った個体を生み出すマザー。
仮称ではあるが、そう呼ぶに相応しい能力を持つ蜂カースたちだ。
うーん、私個人としては下策に思えてしまう動きだ。
私が竜呪たちの指揮をとれるなら、蛇界の竜呪か暗梟の竜呪を密かに向こうへと送り込んで、情報収集に専念させるところなのだけれど……。
ムミネウシンムはそういう個体を持っていない?
いやぁ、ちょっとあり得ない気がする。
「他ルートでチュかね?」
「困った事にその気配もないのよねぇ……」
ならば私の視界にあるゲート以外にも侵入口を出現させたか、あるいは陸路で侵入を試みるかと思ったが、そういう様子も見られない。
また、防衛対象である『ダマーヴァンド』の核については、エヴィカの護衛のように見える形で眼球ゴーレムを置いて不審人物が近づかないように警戒しているのだが、こちらにも引っかかるものは無し。
「ザリチュ。一度狙ってもらえるかしら」
「恒葉星の竜呪に見つからないようにって結構大変なんでチュけどねぇ……」
うん、情報が足りない。
と言う訳でザリチュによって鼠ゴーレムをゲートの向こう側へと送り込むことを画策する。
とは言え竜呪たちは私の味方ではないので、見つからないように慎重に進ませる。
「タル」
「あらザリア、来てくれたのね」
「そりゃあ来るわよ。戦争なんて只事じゃないもの」
と、ここでザリアたちが到着する。
「うわぁ……」
「何だアレ……」
「完全に怪獣大戦争だあ……」
「これ、俺たちの出番あるのか?」
「あそこに踏み込むとかただの自殺では?」
ザリアについてきたプレイヤーたちが口々に好きなことを言っているが、気にしないでおく。
「で、状況は?」
「そうねぇ」
とりあえず事情説明。
と言っても、野生の竜呪たちを戦力として利用していると言うだけだが。
うん、野生の竜呪なのだ。
なので、場合によっては竜呪たちが敵に回る可能性はあるし、あまりこの場で騒いでいると両方から襲われかねないのが実情である。
「で、こっちからも聞きたいことがあるんだけど……検証班居る?」
「タル様、私が居ます」
「よろしい。じゃあ確認。『蜂蜜滴る琥珀の森』は今どうなってる?」
そしてプレイヤーたちが来てくれたなら、私とは別方面からの情報収集をお願いするのは当然のこと。
だから私はストラスさんに質問する。
「えーと、『蜂蜜滴る琥珀の森』ですが、こちらで把握している限りでは戦争開始と同時に内部への侵入が不可能になったそうです。それに合わせて内部で暗闘を繰り広げていたPKとPKKが外へと同時に出されて、激しい戦いになっているようです」
「ふうん……」
ムミネウシンムはPKたちを外に出した、か。
彼らを戦力として用いる気はないと言う事だろうか?
彼らを追い出すために戦争を起こしたと言うのは……流石に無いか、それなら挑むのは私ではなく別の呪限無だろう。
「よし、侵入成功でチュ」
「よくやったわ、ザリチュ」
と、此処で鼠ゴーレムがムミネウシンムの呪限無であろう『蜜底に澱む呪界』への侵入を果たしたらしい。
私の視界にゲートの向こう側の光景が入ってくる。
「うげぇ……」
「チュアァ……」
そして思わず変な声を上げてしまった。