898:カースウォー-2
「さて奥地でチュねぇ」
「ええそうね」
『虹霓鏡宮の呪界』の奥地。
各眼宮に奥地へ向かう通路が存在しており、収奪の苔竜呪を倒すことによって侵入する事が出来るエリアである。
出現する竜呪は各眼宮に出現する竜呪が強化されたもので、しかも現状では11種類の竜呪が連携を取って襲い掛かってくる。
地形も各眼宮の地形が入り混じっており、敵が居なくても探索の難易度は高い。
これらの要素が組み合わさった結果として、掲示板ではラストダンジョンあるいは殺意しかない場所扱いである。
「人がいるでチュが、退避を呼びかけるでチュか?」
「そのままでいいわ。彼らも戦力として使うつもりだし」
まあ、そんな場所であっても、腕試しを兼ねて挑んでいるプレイヤーは少なからず存在している。
うん、腕は悪くない。
巧みな竜呪たちの連携を前にしても、きちんと抗えている。
抗えているだけで、勝てるかどうかは別だが。
では彼らについては置いておいてだ。
「それともう一つでチュ。相手が繋ぐ場所を選べるんでチュか?」
「ああ、その事。そっちは問題ないわ。本当は選べないんでしょうけど、相手の侵入場所の選定に関するロジックを解析して、『ダマーヴァンド』の防護をちょっと弄ればいいだけだから」
「そうでチュかー。なんというか、これだけでも、今後たるうぃに挑むカースが居なくなりそうな話でチュねぇ」
私はザリチュの言葉に応えつつ、『ダマーヴァンド』全体を覆う膜のようなものを弄っていく。
それと同時に『ダマーヴァンド』に対する戦争行為を受け入れる。
≪『ダマーヴァンド』と『蜜底に澱む呪界』が接続され、戦争状態に突入しました≫
インフォメーションが流れた。
それも私だけでなく『ダマーヴァンド』内にいる全てのプレイヤーに対してインフォメーションが流れたらしい。
竜呪たちと戦っているプレイヤーたちが揃って動きを止めてしまい、その隙を見逃さなかった虎絶の竜呪によって薙ぎ払われている。
いや、流れたのはプレイヤーだけでなく竜呪もか。
敵の指揮官である男性個体の妓狼の竜呪が訝しげに周囲を見回している。
≪両呪界を繋ぐゲートが開かれます≫
「開き始めたでチュね」
「ええそうね」
うん、これなら私の思う通りに行きそうだ。
今の私は魅了の眼宮から奥地に入って直ぐの場所にあった高台に居る。
そして高台から見える範囲の端に私の支配を受け付けない呪詛が出現し、呪憲の応用で拡大して見てみれば、小さな穴のようなものが開かれていた。
あれが『蜜底に澱む呪界』とやらに繋がるゲートだろう。
≪戦争を開始します≫
そうしてゲートが直径10メートル程にまで広がったところで新たなインフォメーションが流れた。
「「「ーーーーー!!」」」
ゲートから大小、装備、体の異形が様々な、けれど全体としては蜂をモチーフにしていると分かるカースたちが飛び出してくる。
「「「ーーーーー!!」」」
「「「ジュアアアアァァァァァッ!?」」」
「ふむ、早速ね」
「でチュね」
蜂カースたちはゲート近くに居た鼠毒の竜呪たちに襲い掛かる。
蜂カースたちの武器や牙は鋭く、鼠毒の竜呪たちの鱗を突き破り、その首を落とすあるいは心臓を破壊することによって殺害する。
そして、最初の蜂カースたちが鼠毒の竜呪を襲っている間にも、ゲートからは後続の蜂カースたちが次々に出てくる。
流石はムミネウシンム、部下の統率はきちんと取れているらしい。
「「「ゴガアアァァッ!!」」」
「「「ーーーーー!?」」」
が、そこまでだ。
ゲートを起点に広がろうとした蜂カースたちを包囲するように竜呪たちが突撃していく。
仲間を殺された鼠毒の竜呪が先駆けて蜂カースに噛みつき、爪を振るい、尾で薙ぎ払い、火を浴びせる。
続けて牛陽の竜呪がその圧倒的な体格に十分なスピードを乗せたまま突撃して薙ぎ払う。
で、その背に居た虎絶の竜呪、兎黙の竜呪、蛇界の竜呪が背から飛び降り、近くに居る蜂カースへと襲い掛かる。
そして、背に居るままの恐羊の竜呪と恒葉星の竜呪が援護射撃を行い、妓狼の竜呪がそれを指揮する。
姿が見えないのは……渇猿の竜呪、暗梟の竜呪、淀馬の竜呪か。
いや、渇猿の竜呪は盾として働いているようだ、時々壺部分の姿が見えるな。
暗梟の竜呪も奇襲によって敵にトドメを刺しているようだ。
淀馬は知らん、期待もしてない。
とにかく、竜呪たちの連携攻撃によって、次々に蜂カースたちは打ち倒されていく。
「ふむ……やっぱり石化能力持ちではあるのね」
「みたいでチュねぇ」
「ふふフ、とても派手ですネ」
だが、蜂カースたちもただやられるだけではないようだ。
死の直前まで抵抗を続け、耐久力に難がある近接系の竜呪である鼠毒、兎黙、蛇界には少しだが被害が出ているし、一部の牛陽、虎絶、渇猿の身体には石化が見られる。
どうやらムミネウシンムの部下らしく、石化能力持ちであるらしい。
邪火太夫はスルーする。
「さて、暫くはここでこのまま傍観させてもらいましょうか。情報収集が滾るわぁ」
「分かったでチュ」
こちらの竜呪は私の指揮下にはない。
けれど戦力としては十分、なので、このまま緒戦は任せてしまっていいだろう。
私は他の侵入口が出現していないか気を払いつつも、観戦を続ける事にした。
04/25誤字訂正