893:ミーニパレス-3
「で、どうやってたるうぃとざりちゅの二人だけで狩るんでチュ?」
「どうと言われても……普通に狩るだけよ」
「「ユルル……」」
ザリアたちと分かれて暫く。
幾つかのワープゾーンと一方通行を抜け、無限ループと幻覚を回避しつつ私たちは奥へと向かっていく。
で、蛇界の竜呪と遭遇した。
「普通にでチュか」
「普通によ。etoditna『毒の邪眼・3』」
「「ユグウッ!?」」
まあ、申し訳ないが、蛇界の竜呪に今更私たちが苦戦をする事はない。
試練個体のような圧倒的な攻撃力と防御力を併せ持つならばともかく、普通個体では苦戦する要素がないのだ。
と言う訳で、普通に毒を入れて、恒葉星の隕鉄剣を握るザリチュが前衛として牽制し、私が後衛として『灼熱の邪眼・3』や『暗闇の邪眼・3』を撃ち込んでダメージを稼いでいく。
「「ユグウウゥ!」」
勿論、蛇界の竜呪もただやられるがままではなく、ザリチュを倒すべく反撃は行っている。
だがしかしだ。
「何かやったでチュかー?」
「まあ、砂を斬ったり突いたりしてもねぇ」
「「ユングゥ!?」」
蛇界の竜呪が持つ攻撃の内、強力と言える攻撃は斬撃と刺突であり、この二つは実際には砂でしかない化身ゴーレムにはほぼ通らないのだ。
ぶっちゃけ化身ゴーレムと蛇界の竜呪の相性が良すぎる。
「「ユグウゥ……」」
と言う訳で、蛇界の竜呪はあっさり狩れた。
そして蛇界の竜呪の死体はドゴストに入れておく。
「この場で解体しないんでチュね」
「淀縛の眼宮と同じぐらい奇襲される確率が高くて、収奪の苔竜呪との遭遇可能性が淀縛の眼宮以上であると容易に想像できるのが此処だもの。流石に止めておくわ」
今回はこの場で解体し、食べられるものを食べて、『劣竜式呪詛構造体』のアップデートを進めるようなことはしない。
この眼宮の仕様上、入り口に戻る事は容易くないし、予期せず収奪の苔竜呪に遭遇する可能性もそれなりにあるからだ。
いやまあ、仮に遭遇してしまっても、今の私ならばルナアポを使った『竜活の呪い』からの『竜息の呪い』で収奪の苔竜呪くらいは粉々に消し飛ばせると思うのだが……それは最終手段と言うか、それを前提に行動するのは周囲への被害と言う観点からどうかと思うので、やはり収奪の苔竜呪に関しては別の機会にするとしよう。
「そう言えば、この眼宮の鑑定をしてなかったわね」
「あ、言われてみればそうでチュね」
と、此処まで考えたところで、この眼宮の鑑定をしていなかったのを私は思い出した。
と言う訳で、『鑑定のルーペ』を使う。
△△△△△
虹霓鏡宮の呪界・集束の眼宮
限り無き呪いの世界の一角に築かれた虹霓に輝く城。
離宮の一つ、集束の眼宮、そこは不均一な集束により揺らめく世界であり、幻のような世界でもある。
ひしめくは蛇と集束の力に満ちた竜の呪いであり、彼らは刺し断ち呑む。
呪詛濃度:26 呪限無-中層
[座標コード]
▽▽▽▽▽
「あ、小人の眼宮じゃなくて集束の眼宮なのね」
「恒星の眼宮もそうだったでチュねぇ。こうなると恐怖の眼宮が深淵の眼宮になっていないのが不思議でチュね」
「そこはタイミングの問題じゃないかしら? 恐怖の眼宮は『虹霓鏡宮の呪界』が出来た時から存在している眼宮なわけだし」
「そういう事なんでチュかね」
はい、鑑定完了。
だが特に気にするような鑑定結果は含まれていない。
まあ、こうして眼宮の中を見て回っていても、そんなに気になるものがあるわけではないし、納得の結果ではある。
「「ユルルル……」」
「次のが来たでチュね」
「そうねー」
では、襲い掛かってくる蛇界の竜呪を撃破しつつ、集束の眼宮の探索を進めていくとしよう。
「「……」」
で、探索する事一時間ほど。
倒した蛇界の竜呪は10匹オーバー。
すれ違ったプレイヤーの数は十数名。
収奪の苔竜呪との遭遇はなし。
と言う感じであると共に……出口が見つからずに私とザリチュは集束の眼宮の中をさまよい歩くことになっていた。
「失敗したわね。入口に眼球ゴーレムを置いておくべきだったわ」
「でチュね。リスクを考えても置いておくべきだったでチュ」
うん、素直に認めよう。
現在私とザリチュは迷子である。
すれ違うプレイヤーたちも大多数は迷子である。
今となってはもう遅いが、『転移の呪い』を利用した脱出手段も講じておくべきだった。
よからぬものを招いてしまうリスクを考えてもなおだ。
「これはこれまでの眼宮で一番のクソですわー」
「出口は何処……此処……?」
「『じゅかい』繋がりで出口が分かりませんってか。はっはっは」
「いやお前ら、此処はタルの眼宮だからな。そういう発言は控えて……」
「自分でも言っちゃうけどクソ眼宮よねー。此処」
「タアアアアアァァァァァル!?」
「悪いけれど、たるうぃはこういう存在なんでチュよ」
そんなわけで、偶々同じ方向へと歩いていくプレイヤーに同調して、愚痴っておく。
だがそれでも感覚的には少しずつ最初の方へと戻ってきている感覚はある。
「ああ、ようやくたどり着けたわね」
「でチュねぇ」
「「「おおっ……」」」
そうして私たちは何とか無事に出口へとたどり着き、脱出を果たしたのだった。
探索時間二時間と言う中々の長期戦だった……。




