892:ミーニパレス-2
「「ユングルウゥゥ!!」」
虹蛇改め蛇界の竜呪が紫色の方の頭を先頭にし、頭に生えた螺旋状の角を槍として突っ込んでくる。
「散開!」
対するザリアたちは蛇界の竜呪と直接体をぶつけ合うのは危険だと判断している事、人数が多い事から、散開して避ける方向で動くようだ。
「む……」
で、蛇界の竜呪とザリアたちがそう動く以上、先んじてザリアたちから離れていた私の下を蛇界の竜呪が通っていく。
そうなれば、蛇界の竜呪の能力によって空間が回転させられるというか、撹拌される。
が、やはり試練個体に比べると、今この場に居る個体は能力が控え目であるらしい。
私は『座標維持』の効果でそもそも強制移動を受け付けないのだが、感じる圧力が小さい。
「おおっ?」
「んん?」
「ちょっと浮く程度だな」
他プレイヤーも同様の意見のようだ。
そして、突進は対応不可能な速さではなかった。
なので何人かが明らかに壊れても問題のなさそうな武器で殴り掛かったり、敢えて正面に立って盾を構えるプレイヤーも居る。
「「ユグウッ!?」」
「硬ったぁ!?」
「ぶべあっ!?」
「あ、でも、一撃でスッパリとはされないな。アイツ生きてるわ」
「武器も無事だな」
結果としては……攻撃は普通に通用するが、どうやら体表の硬さについては他の竜呪とは比べ物にならないようだ。
それと蛇界の竜呪の攻撃を普通の防御で耐えるのは流石に無理があるらしく、盾を貫通された上で吹き飛ばされている。
ただ、こちらが攻撃をするにせよ、攻撃されるにせよ、試練個体ほどに細く鋭くはならないため、接触したものは何でも切り裂いたり貫いたりとはいかないようだ。
で、攻撃を何度か受けた蛇界の竜呪は空間を撹拌しつつ、来た軌道を遡って、元の位置に戻る。
「ふむふむ、なるほど。とりあえずetoditna『毒の邪眼・3』」
「「ユグゥ!?」」
毒も普通に入る。
うーん、なんというかこう……試練個体と比較して、目に見えて分かるレベルで弱体化されている気がすると言うか、他の竜呪たちと比べて弱体化の幅が大きい気がする。
いやまあ、今ここで試練個体と同レベルの個体が出てきたら、大惨事にしかならないので、それでいいとは思うのだけど。
「なんというか、驚くぐらいに弱体化している気がするな。ま、弱くなっている分には構わないか」
「「ユグッ!?」」
と、ここでブラクロが両手に剣を持ち、蛇界の竜呪へと側面から突っ込んでいく。
そして、剣を振り下ろし……
「「ユングウゥ!!」」
「うおっ……ら?」
「へー……」
「そういう事も出来るんでチュね」
ブラクロと蛇界の竜呪の間に十数メートルもの距離が出現したことで空振りとなった。
どうやら蛇界の竜呪が空間を吐き出すことによって、空間を発生させたようだ。
だが、この発生した空間は呪いによって一時的に発生した物であり、異常な空間でもある。
よって直ぐに是正が始まるわけだが……
「まあいい、そ……」
「「「あ……」」」
「「ユグ?」」
「兄ぇ……」
「流石ブラクロね。いろんな意味で」
「でチュねぇ……」
是正が始まった瞬間にブラクロの姿が消えた。
どうやらこの眼宮のギミックと蛇界の竜呪の能力が干渉しあった結果として、空間異常の是正後のブラクロの位置が変な場所になってしまったようだ。
「「「ヒャッハァ! ブラクロの仇だ!!」」」
「「ユグー!」」
まあ、いずれにせよだ。
今の蛇界の竜呪はストックしていた空間を吐き出してしまっている。
それはつまり今のような回避手段を取れないという事であり、他の能力の使用にも大きな制限がかかっている可能性が高いということ。
他プレイヤーがチャンスと見るのは妥当な判断だろう。
「「ユグゥ……」」
で、こちらの数が数なので、その後の顛末は割とあっさりとしたものとなった。
敢えて特筆して語るべき点としては……。
口から白い霧のようなブレスを吐くことで小人化を狙ってくる。
蛇界の竜呪がきちんと細くなれば切断力は大きく増すが、側面から叩けば問題はない。
十分に小さくなったプレイヤーが居ると丸呑みを狙って来て、呑まれると即死。
体が輪を描くと、その内側の空間が一気に小さくなるため、危険。
ブラクロは生きていて、床下からの奇襲によって蛇界の竜呪にとどめを刺した。
この辺だろうか。
「タル。この蛇界の竜呪だけど……」
「ザリアたちで分ければいいわよ。私は私でソロ狩りをして、一頭丸ごと回収するから」
「いいの?」
「ええ、問題ないわ。ザリアたちのおかげで、どう戦えばいいかはだいたい分かったしね」
「そう、ならこっちで貰うわね」
さて、眼宮侵入に伴う竜呪への対処はこれで終わり。
此処からは各PTごとに分かれて探索する事になる。
ブラクロの証言で一方通行の類が存在する事は確認できたし、ワープゾーンもある事を考えると、ここで分かれれば眼宮内で再合流を果たせる可能性は皆無と言っていいだろう。
「じゃ、またね」
「ええ、またね」
私はそんなことを考えつつも、ザリチュと一緒に手近なワープゾーンへと飛び込んだ。