891:ミーニパレス-1
「あらザリア、待っていたの?」
「ええ、私たちは待ってたわ。検証班含めて気が早いのがもう幾らかは入っていて……何人かは既に死に戻りしたみたいね」
「尊い犠牲のもとに未知が明らかになっていくわね……」
「ソウネー」
仮称小人の眼宮の前には何人かのプレイヤーが集まり、情報収集と会議を行っているようだった。
その中にはザリアたちの姿があり、先ほどまで一緒に戦っていたブラクロも万全の態勢で居る。
「ザリチュ」
「掲示板はいつも通りの阿鼻叫喚で、マトモな情報は無いでチュねぇ」
「そうなの?」
さて先遣隊の情報は?
と思ってザリチュに探ってもらったのだが、私の耳に入れるほどの情報はないようだ。
「あ、でも少しだけ情報が入り始めたでチュね。『面倒くさい』とか、『タルウゥゥ!』とか、『マップ構造に関しては淀縛を上回る糞具合』とか、書かれているでチュね」
「へー」
「淀縛以上……」
「……。アレ以上か」
「ギミックと構造、その両方が、と言う事ですよね」
「加えて敵もだろうな。あの虹蛇、かなり面倒くさかったし」
いや、タッチの差だったらしい。
ザリチュは私の性格をよく分かっているので、敢えて詳細なギミックなどは話していないようだが、掲示板には結構な情報が入り始めたようだ。
なので、ザリアたちは自前で掲示板を確認し、対応するための準備を始めているようだ。
「まあいいわ、行きましょう。行けば分かるわ」
「まあ、それはそうよね」
「でチュねー」
「では、いつも通りの支援をしますね」
「「「ヒャッハー!!」」」
まあ、実物を見れば早い。
と言う訳で、シロホワの支援をもらった上で、私、ザリアたち、それにザリア分隊こと『肩棘』の面々が一緒に鏡の扉をくぐって、仮称小人の眼宮へと進入する。
「ぐふぅ!?」
「げふっ!?」
「……。こう来たか」
そして進入した直後に、私たちの距離が一気に縮まり、おしくらまんじゅうの様になってしまった。
私は最初に突入したので、集団の外側寄りに位置しており、被害は少ないが、集団の真ん中の方に居た面々は……死んではいないが、ダメージは受けていそうだ。
で、何が起きたのか?
タイミングからして、私の『集束の邪眼・3』と同じ効果が目一つ分だけ発動したはず。
となれば、このおしくらまんじゅうも『集束の邪眼・3』の効果によるものと考えられる。
「ああうん、何となく分かったわ」
私はおしくらまんじゅう状態から離脱すると、周囲を警戒しつつ考察を重ねる。
『集束の邪眼・3』は対象空間ごと小人を与える。
となれば、『集束の邪眼・3』の小人効果をシロホワのバフで防いでしまったのも原因の一つと言えるか。
私たちはシロホワのバフで縮まなかった。
けれど空間はシロホワのバフを受けていなかったので縮んだ。
結果として、私たちの間の空間だけが縮んで、おしくらまんじゅうになってしまったのだろう。
うん、私が自分で敵に使うよりも、分かり易い結果が出たかもしれない。
「さて周囲は……」
では次。
いつもの眼宮の仕様であれば、この眼宮の敵である虹蛇が襲い掛かってくるはず。
だがそれまでにはしばらく時間がある。
なので私は周囲の地形を確認。
「あー、これは確かに面倒くさいと言われるかもしれないわねぇ」
「どういう事でチュ……ああ、確かに面倒そうでチュねぇ……」
見た目としては、床も壁も天井も木で作られた立体迷路だろうか?
いや、巨大な木を横倒しにして、それの内部を適当にくりぬいたと言うべきか?
とにかく全てが木で作られており、そうして木で作られた諸々には不規則に無数の穴が開いていて、それによって迷宮が形作られている。
問題は……そうして不規則かつ無数の穴が繋がっている先が見た目通りとは限らないという事だ。
「どうしたのよタル」
「ザリア、もしかしたらもう分かっているかもしれないけど、この眼宮、かなり面倒くさいわよ。たぶん一度はぐれたら、中で合流するのは無理」
「相当な言い方ね」
「相当な言い方をするだけのギミックがあるのよ」
具体的に言うと、それぞれの穴にそれぞれ別の仕掛けがある。
そして、仕掛けの内容としてはだ。
先に進んでも進んでも実際には進んでいない無限ループ。
空間的に離れている場所に繋がっているワープゾーン。
穴があるように見えるが、実際にはない、あるいはその逆となる幻覚。
とりあえず把握しているだけでもこれだけはある。
うん、この感じだと、一方通行や時間制限の類もあると考えておいてもいいだろう。
「と、そろそろ来るわね」
「でチュね」
「総員戦闘準備! 直接武器を合わせるのはなるべく控えるように! 壊されても知らないわよ!」
「「「ヒャッハー!」」」
「ユルルルル……」
と、ここで虹蛇が姿を現した。
私の認識では穴が存在していないと捉えている場所から、赤い方の頭を先頭にして這い出てくる。
この眼宮のギミックが私の認識能力すら誤魔化すのか、あるいは虹蛇が自分の能力でもって私には通れないと判断しているような場所からでも現れる事が出来るのか……どちらもあり得そうなのが困りものである。
「鑑定成功! 敵の名前は蛇界の竜呪です!」
「「ユングルウゥゥッ!!」」
そして誰かが虹蛇の正式な名前を告げると同時に、蛇界の竜呪は口を開けながら、こちらへと真っ直ぐに向かってきた。




