890:タルウィミーニ・3-5
「見ている側として言わせてもらうならば、どちらも手を抜き過ぎだと言わせてもらおうか。『虹霓境究の外天呪』タルと『うっかり屋』ブラクロ」
「何その称号!?」
「何だよその称号!?」
試練終了と言う事で『悪創の偽神呪』が現れた。
それはいいのだが、ブラクロの称号、ちょっと待って欲しい。
確かにブラクロはうっかり者ではあるが、それが称号になっているとはどういう事だろうか?
しかも、者ではなく屋って……いったいどれだけのうっかりをすれば、そんな称号を得られるというのだろうか。
欲しいとは思わないが、未知として気にはなる。
「え、何をどうすればそんな称号が……」
「いや、どうでもいいだろ。俺の方は。それよりタルの称号の方こそどうなっているんだよ。なんだよ、外天呪って」
「禁則事項も多いから、黙秘させてもらうわ」
「じゃあ俺も黙秘で」
あ、思わず口に出ていた。
まあ、こちらから出せる情報は無いので、情報の入手は諦めるとしよう。
「話は済んだか? では続きだ。正直なところ、手を抜いたのは構わない。貴様らの今の実力を考えたならば、妥当なところだからだ。だが、『うっかり屋』ブラクロはともかく、貴様の実力が甘く見られるのは問題だと言わせてもらうぞ。『虹霓境究の外天呪』タル」
「む……だったら何かするべきかしら?」
「ああ、何かはするべきだ」
話を戻して。
どうやら観客たちの一部が、今回の試練で目覚ましい活躍をしたとは言い難い私の事を甘く見ているようだ。
なので、この場で一発ぐらいかましておけ、と言うのが『悪創の偽神呪』の意見であるらしい。
まあ、私としても有象無象クラスが何かを仕掛けてくるのは面倒でしかないし、『悪創の偽神呪』が許してくれるならやってしまおうか。
「そうねぇ……」
「おっ、何をするんだ?」
では、『不明の呪い』も生きている事だし、『呪憲・瘴熱満ちる宇宙』も利用して、よほど鋭いものでなければ分からないように素早くルナアポを生成、ドゴストに収める。
その上で観客席を一瞥し、偽神呪及び『交信の大呪』の位置を確認、撃ち込んでも安全なところ……うん、熊の仮面をつけている大呪のアバターが居るところがちょうど良さそうだ。
「じゃあこうしましょうか」
「おっ?」
はい、と言う訳で動作キーで『竜息の呪い』の射出方法1を発動。
射出物は当然ながらルナアポ。
傍目から見れば、ほぼ最小限の動作で、前兆なく観客席に向けて攻撃を行う。
結果は?
「「「ーーーーー!?」」」
射出されたルナアポは観客席に向かって高速で飛んでいき、着弾。
着弾点を中心に衝撃波が撒き散らされ、観客席が破壊され、その場にいた者たちの悲鳴が闘技場全域に響き渡る。
「お、おう……」
「「「ザワザワ……」」」
「ふむ、いい威力だ」
合わせてブラクロ、観客席にいるカースたちがざわつき始める。
その様子は何処か怯えているようでもあり、こちらの事を値踏みしているようでもある。
全くざわついていないのは、偽神呪たちくらいだろうか。
「もう一発くらい必要かしら?」
「いいや、必要ない。これで十分だ」
「コレを連発できるとかひでぇな……」
私は二発目を撃とうとする動作だけ見せる。
が、必要ないと言われたので、止めておくことにした。
「では、これで試練は終了だ」
「分かったわ」
「おう、楽しかったぜ。じゃあな」
そうして試練は終了。
ブラクロが切られたはずの腕を上げつつ別れを告げ、消える。
≪呪術『集束の邪眼・3』を習得しました≫
「ちょっと待ち……気づくのに遅れたわね」
そして私も戻された。
『戻ってきたでチュ……何かあったんでチュか?』
「戻ってきたわ。事情としては……理不尽なうっかり屋に入れるべきツッコミを入れ損ねただけよ」
『ああ、ぶらくろがゲストだったんでチュね』
「うっかり屋だけで通じるのが実にブラクロね」
ブラクロが何時腕を治したのか、私にはそれが認識できていない。
なんだかしてやられた気分である。
「はぁ、とりあえず掲示板にいつもの処理をして、それから性能の確認をしておきましょうか」
『分かったでチュ』
私とブラクロの称号など、出すべきでない幾つかの情報について編集を終えた上で、私は掲示板へいつも通りに虹蛇の情報と仮称小人の眼宮への進入許可を書き込んでおく。
では、肝心の性能確認といこう。
△△△△△
『集束の邪眼・3』
レベル:45
干渉力:150
CT:30s-90s
トリガー:[発動キー]
効果:対象空間内に小人(対象周囲の呪詛濃度)を与える。相手の許諾がある場合は必ず成功する。
伏呪
トリガー:[発動キー]
効果:この呪術の効果によって生じた小人のスタック値が減少する度に、中確率で巨人(対象の異形度)、高確率で恐怖(対象周囲の呪詛濃度)を与える。
貴方の目から放たれる呪いは、敵がどれほど堅い守りに身を包んでいても関係ない。
全ての守りは破れずとも、相手の守りごと小さくしていってしまうのだから。
そして、縮んだ体は不規則に揺らめき、不自由と恐怖を招くのだから。
自分で自分にかけた場合には、好きなタイミングで小人の解除が可能。
注意:使用する度に満腹度が3減少。
注意:伏呪使用時には更に満腹度が1減少。
▽▽▽▽▽
「えーと、使用後CTが減って、小人の付与が確率ではなくなったわね」
『それと対象が対象空間内になっているでチュね。どういう事でチュ? これ』
「さあ? 試してみないと分からないわね」
とりあえず順当に強化はされたと思う。
後は、対象の部分が対象ではなく対象空間になっている事だが……想像通りなら、面白い事になっているかもしれない。
「『虹霓鏡宮の呪界』に行って、確かめてきましょうか」
『分かったでチュ』
まあ、まずは試してみよう。
と言う事で、化身ゴーレムを作成した上で、私は『虹霓鏡宮の呪界』へと向かった。
04/17誤字訂正
04/18誤字訂正