889:タルウィミーニ・3-4
「うーん、どうしようかしらね。これ」
「ふははははっ! なんか一周回って楽しくなってきた!!」
「「ユングルルルウウウゥゥゥ!!」」
私は呪詛の剣をブラクロの邪魔にならないように何十本と放った。
結果、ブラクロの邪魔にはならなかったが、虹蛇に呪詛の剣が当たっても一方的に切られてしまうためにダメージを与える事も出来なかった。
一応、虹蛇が膨らんだ瞬間や、平面に突き刺すように工夫もしたし、剣に拘らずに環境ダメージ狙いの範囲攻撃も試みたのだが、結果は変わらずだ。
今もブラクロと虹蛇は、迂闊に第三者が踏み込んだらあっという間にみじん切りにされそうなやり取りを繰り広げている。
「エゼ……間に合わないわね」
「「ユルルルルウゥゥ!!」」
「うおっ! 危なっ!?」
と言うか、あまりにも攻防が激しすぎるので、邪眼術による支援もしづらい。
虹蛇が膨らんだタイミングで伏呪の使用をほぼ諦め、詠唱キーではなく動作キーによる攻撃を行っているのだが、やはり伏呪無しでは火力が出ない。
それにだ。
「支援する側としては『気絶の邪眼・3』が入らないのが致命的なのよね……」
幾つかの状態異常に対する虹蛇の耐性は妙に高く、耐性を抜くことに特化しているはずの『気絶の邪眼・3』は完全無効化、『深淵の邪眼・3』と『飢渇の邪眼・3』は入った直後に治療されてしまうなど、一気にこちら側を有利にできるような邪眼術がだいたい入らない。
まだ試してはいないが、『魅了の邪眼・3』と『石化の邪眼・2』も無効化される事だろう。
おかげで、私が出来る事がかなり限られてきている。
「「ユグッ!?」」
「チャアアァァンス!」
と、ここで虹蛇の身体が不意に膨らみ、厚みを持たないはずの体に厚みが生まれ、その動きが鈍る。
どうやら『小人の邪眼・2』の伏呪に含まれる巨人化が効果を示したらしい。
そのチャンスを見逃すブラクロではなく、手にした剣で切り付け、ダメージを与える。
うーん、流石はブラクロ、だいぶテンションも上がってきているようだ。
「……」
とは言えブラクロなので、いつ崩れてもおかしくはない。
早いところ、私個人でもできる対抗策を見つけたいところだ。
「ギャラリーが多いのがアレなのよね……」
私は観客席に少しだけ意識をやる。
そこには複数の偽神呪、『七つの大呪』、他にも複数体のカースが存在している。
私の所有している手札の中で最も強烈で、この場を確実に切り抜けられるものと言えば、ルナアポを使う事だろう。
だが、彼ら……一部はそうではないが、将来的には敵対する可能性が存在しているものたちが観覧している中でルナアポを使う?
それはルナアポがこのような場で用いるには少々どころではなく反則臭いものである点を除いたとしても、今後の為にはならないだろう。
適当な物品による『竜活の呪い』も同様。
「となると……」
ではそれらを使わないとなると?
一つはこのままブラクロを助けること。
虹蛇に毒は効いているし、『毒の邪眼・3』と伏呪付きの『小人の邪眼・2』で支援を続けていれば、いずれは倒れるはずである。
だがブラクロがブラクロなので不安であるし、消極策でもある。
だからこの選択肢は選ばない。
けれど、それ以外の選択肢となるとだ……。
「とりあえず『不明の呪い』」
私は『不明の呪い』によって、自分の右手を認識しづらくする。
その上で右手から呪詛の槍を生成。
ルナアポほどの異様さを持つならば隠せないが、普通の呪詛の槍なら『不明の呪い』の効果でとりあえず姿を隠せるようだ。
「宣言する。虹蛇、貴方が私に認識されないように姿を隠そうとも、私の鉄紺の蔓は捉えた貴方を決して離さない」
発動できるだけの呪法を発動し、呪詛の槍を剣のように構え、手元で穂先を超高速で回転させ始める。
これで準備完了。
後はその時が来るのを待ち、狙いすまし続ける。
「おっ、何か狙ってるな! タル! だったら上手いことやれよ!」
「「ユグッ!?」」
「ブラクロェ……」
が、ブラクロが私が何かを狙っていると言ってしまったために、虹蛇の注意が先程よりも多くこちらに向けられることになってしまう。
ああこれがブラクロクオリティか……突発的に発動するこれといつも付き合っているのだと思うと、ザリアたちには本当に頭が下がる思いである。
だが悪い事ばかりではない。
私に注意を向ける必要が生じたので、虹蛇によるブラクロへの攻撃頻度は明らかに落ち、逆にブラクロからの攻撃頻度と精度は明らかに上昇している。
これならば、私の一撃は必要ないかもしれない。
「あっ、ヤベッ」
「「ユグルウゥ!」」
フラグだった。
ブラクロの剣の当たり所が悪かったのか、虹蛇の攻撃がブラクロの剣に当たって切り裂かれ、おまけに片腕まで切り飛ばされてしまった。
こうなれば、そう長くは保たないだろう。
「「ユゴッ!?」」
「pmal『暗闇の邪眼・3』!」
だが、その直後に虹蛇の身体が巨人化によって膨らんだ。
私はその一瞬を逃さずに呪詛の槍を限界速度……音の数倍の速さで飛ばし、虹蛇に突き刺し、『暗闇の邪眼・3』を撃ち込んだ。
「うおっ!?」
「「ユグオオオオオォォォッ!?」」
一度『呪法・感染蔓』が効果を発揮し始めれば、効果範囲外に出る以外に逃れる術はない。
膨らんでも小さくなっても鉄紺色の蔓は追いかけ続け、虹蛇の身体を焼いていく。
「ブラクロ!」
「分かってるよ!」
だが私はこれだけではダメージが足りないと判断した。
だからブラクロに声をかけ、ブラクロも残った腕に真っ黒な剣を握って虹蛇に迫り、一閃。
「「……!?」」
虹蛇の身体は赤の頭から紫の頭に至るまで綺麗に体を両断された。
「……。ブラクロ、最初からその剣を使えば良かったんじゃないの?」
「いや、これタルの試練だろ。俺が好き勝手しすぎるのもどうかと思ってな」
「それもそうね。助かったわブラクロ」
「おう」
そして虹蛇の身体は本来のサイズに戻った上で風化していった。




