886:タルウィミーニ・3-1
「ログ……うわぁ」
『なんか沢山あるでチュぅ……』
水曜日のログインである。
前回のログアウトからリアル時間で考えて20時間ぐらいは経っているのだが、そうしてログインした私を待ち構えていたのは、大量の呪いだった。
「とりあえずルナアポー」
見た目は昨日襲来した、ゼンゼ発ムミネウシンム経由の呪いと変わらない。
そして、私のログインを感知したのか、こちらへと寄ってきている。
と言う訳で、私はルナアポを取り出し、全ての呪いを突き刺しまとめていく。
『やる気ないでチュねぇ』
「だって中身がほぼ同じで、量が増えただけだもの。つまらないわ」
ルナアポの効果で呪いの中身が私に伝わってくる。
えーと、昨日との差は……ムミネウシンムを経由せずに直接こちらに飛んできている事、石化効果が無くなった事、これぐらいか。
これを昨日と同じように返すのは……私のログインを知らせる警報装置として使われそうな気がする。
ゼンゼなら昨日と同じ轍は踏まないだろうし。
「今回はちゃんと処分しましょうか。noitulid『石化の邪眼・2』」
『固まったでチュね』
とりあえず『石化の邪眼・2』でゼンゼの呪いを石に変えてしまう。
そして、呪怨台に乗せて、無害化した上で砕き、消滅させる。
石化した呪いを利用すれば色々と悪さは出来るかもしれないが、興味がないのでスルーする。
反撃したい時はそのまま握り潰せばいいだけの話だし。
『さて、これからどうするでチュか?』
「とりあえずいつもの確認はするわね。その後は虹蛇の贋魔呪の死体を使って『小人の邪眼・2』の強化はする予定よ」
『分かったでチュ』
では、ゼンゼの呪いの処理が終わったところで、いつもの作業だが……ムミネウシンムが妙におとなしい事以外には特に気にするようなことはなかった。
なので素直に『小人の邪眼・2』の強化に移る事にする。
『さてどう作っていくでチュか?』
「そうねぇ……」
さて材料だが、虹蛇の贋魔呪の死体、小さな硫黄の火の残り火、黒招輝呑蛙の油、ズワムの油、『ダマーヴァンド』の毒液、私の血液、魅了の眼宮で売っているにじひかりと言う品種の米、それと各種香草に恒葉星の竜呪の舌である。
そして今回はそこまで拘ったものにする気はない。
「とりあえず虹蛇の贋魔呪の死体の内臓を上手く抜いてっと」
私は虹蛇の贋魔呪の死体から内臓を抜く。
ただし、腹を裂いてではなく、口から取り出す形でだ。
これによって、虹蛇の贋魔呪の死体は一本の筒のようになる。
「甘く炒めた米を投入してっと」
そこへ腸に肉を詰めてソーセージするかのように、毒液で炊き、私の血と香草と小さな硫黄の火の残り火と恒葉星の竜呪の舌を混ぜ合わせ、炒めた米……にじひかりを詰めていく。
そうして見た目だけなら、大きな獲物を飲み込んで丸々と太ったような見た目になった。
「口と末端をきちんと閉じた上で、これを油で揚げます」
『姿揚げの一種になるんでチュかねぇ。これ』
これを黒招輝呑蛙の油とズワムの油を混ぜ合わせたもので、芯までしっかりと火が通るように揚げていく。
「ハイ出来上がり。まあ、今回は簡単なものね」
『まあ、簡単と言えば簡単かもでチュねぇ』
と言う訳で完成。
見た目としては虹蛇の姿揚げと言うところである。
恐らくだが、骨までしっかりと揚がっているので、骨ごと食べられるはずだ。
なお、目が白いトラペゾヘドロンになっているが……もはや、私もザリチュもスルーである。
「じゃ、呪怨台ねー」
『でチュねー』
では呪怨台で呪っていこう。
「私は第三の位階、神偽る呪いの末端に触れる事が許される領域へと手を伸ばす事を求めている」
『虹霓境究の外天呪』となったからだろうか?
『呪憲・瘴熱満ちる宇宙』の制御も『七つの大呪』への干渉も以前よりしやすく、呪怨台の上に集まる呪詛の霧はこれまで以上に綺麗な虹色になっている。
「手中に収めるを望むは、夢幻の如き揺らめき、変幻する身と知っている新たな世界をもたらす。虹色すら色変わる光」
呪詛の霧に白が少しずつ混ざっていく。
そして何故だが、再度何かが揚がるような音が聞こえ始める。
「私の揺らめく世界をもたらす白の目よ。深智得るために正しく啓け」
気が付けば呪詛の霧が熱を帯び始めている。
飛び散る油が白い結晶体と化し、呪詛の霧の外に出ては中へと戻っていく。
「望む力を得るために私は揺らめく虹を飲み込む。我が位置を絶対のものと保ちつつも、虹霓の域を揺らめかせ、改めて定める事で己の力とする」
やがて白と虹色が混ざり合った呪詛の霧が少しずつ呪怨台の上へと呑まれ始めていく。
合わせて油が揚がる音も止んでいく。
では、仕上げだ。
「宣言しましょう。虹のごとく揺らめく白き星よ。新たなる世界をもたらせ。citnagig『小人の邪眼・2』」
各種呪法と伏呪を発動した『小人の邪眼・2』が発動。
呪詛の霧が白一色に染まり、それからすぐに飲み込まれ、呪怨台の上には虹色の蛇をそのままの姿で揚げた料理が残された。
△△△△△
呪術『集束の邪眼・3』の姿揚げ
レベル:50
耐久度:100/100
干渉力:150
浸食率:100/100
異形度:19
呪われた素材を詰め込み、揚げて、出来上がった姿揚げ。
覚悟が出来たならば、よく味わって食べるといい。
そうすれば、君が望む呪いが身に付く事だろう。
だが、心して挑むがいい。
揺らぎ続ける門を正しく捉えられる事を前提として聳えているのだから。
さあ、貴様の力を私に見せつけてみよ。
▽▽▽▽▽
「ハイ出来上がり。じゃあ、早速食べましょうか」
『でチュねー』
名称が変わってしまっているが、他は特に問題なく完成したので、戦闘準備を整えた上で私は姿揚げを食べ始める。
うん、ちゃんと骨ごとバリバリと食べられるようになっているし、チャーハンをイメージして作った中身も中々に美味しい。
「ごちそうさまでした」
『頑張ってくるでチュよー』
そうして食べ終えると同時に私の周囲は虹色の霧に包まれ、移動する事になった。
04/13誤字訂正
04/14誤字訂正




