884:アウター-2
『とりあえず面倒なのが来たのは分かったでチュ』
「そうね。実際面倒な代物ではあるわ」
さて、ゼンゼが放ち、ムミネウシンムが返した呪いが私の元にやってきたので、ルナアポで情報収集をしつつ何もさせないように停滞させている。
で、この呪いが解放されると、解放された場所の周囲にいるものへ、継続ダメージ、無視は出来ないがそれなりな威力の各種デバフ、強烈な石化、以上の三つを与えてくる。
と言うのが、現状を正しく示したものである。
「何が厄介と言えば、裏の裏まで考えると、幾つものパターンが考えられる事なのよねぇ」
『幾つものパターンでチュか?』
「ええそうよ」
『そうなんでチュかぁ』
しかし、少々想像力を働かせた場合、この呪いについて確定しているのはたったの三つだ。
つまり……ゼンゼが放った、ムミネウシンムがそれを弾く際に強化した、効果を発揮したらどうなるか、これ以外についてはあらゆる状況が想定できる。
なので、ゼンゼとムミネウシンムが協力している可能性。
両者は敵対しているが、ゼンゼが何かしらの手段で呪い返しの先を自分ではなく私にした可能性。
両者敵対、ムミネウシンムが弾いた呪いが偶然こちらに飛んできた可能性。
とりあえずこの三つぐらいは考えておいていい。
『でも、とりあえず素直に返せばいいんじゃないでチュか?』
「そうもいかないのよ」
まあ、両者の関係性がどうであっても、実のところ私には関係ない。
どっちも敵であることには変わりないからだ。
ただ、だからと言って、呪いを適当に返していいかと言われると、それは話が変わってくる。
「私はゼンゼにも、ムミネウシンムにも、この件に関わりのない第三者にも呪いを弾き返すことは出来る。けど、私が認識しているゼンゼの位置が正しいとは限らないのよねぇ」
『あー、なるほどでチュ。面倒でチュねぇ……』
私にはこの呪いをどうするか、無数の選択肢がある。
そして、そこにゼンゼとムミネウシンム、両者の化かし合いと言うか、騙し合いと言うか、とにかく両者の攻防も絡んでくるし、関係性も絡んでくる。
「本当にどうした物かしらねぇ……」
とりあえず第三者に飛ばすのは無い、やむを得ずやるならともかく、他の処理手段を持つ私がやるのは、ただの迷惑行為だ。
ムミネウシンムに飛ばすのは、ゼンゼとムミネウシンムの関係性がどうあれ、ゼンゼを喜ばせるだけな気がする。
ゼンゼに飛ばすのは、一番丸く収まりそうだが、ゼンゼならムミネウシンムまたは私からの呪い返し対策はしているだろうし、その呪い対策がどんなものかは私たちからは分からず、場合によってはゼンゼを大喜びさせるような結果になりかねない。
『ちなみに一番怖いパターンはどんなものでチュ?』
「ゼンゼとムミネウシンムが協力して、表面上は敵対しているように見せかけつつ私に呪いを飛ばす。ここで私が呪いを返せなければそれでよし。呪いを返した場合には、行き先が誤魔化されて、聖女ハルワや『サクリベス』に致命的な被害が出るパターン。つまり、二人にいいように利用された場合ね」
『あー、ぜんぜならそれぐらいは出来そうでチュねぇ……』
なお、他のパターンとしては、これで他プレイヤーからムミネウシンムに対する感情を悪化させることで戦いを起こそうとする場合も考えられるし、私が認識していない情報の組み合わせの結果として、何かしらの利益を得る事が可能であるパターンもあるだろう。
実に厄介な話である。
「仕方がないわね」
うーん、こうなると一番安全な処理方法はこうなるだろうか?
と言う訳で、私は右手に持ったルナアポの刃先を私の眼前へと持ってくる。
「私の元には何も来なかった。そうしてしまいましょうか。raelc『淀縛の邪眼・3』」
『まあ、それが妥当でチュか』
で、『淀縛の邪眼・3』を呪いに対して照射。
呪いが持つ干渉力を大幅に下げる。
その上でルナアポを呪いから引き抜き、左手で呪いを掴む。
「すぅー……ふんっ!」
それから気合を入れ、呪いを握り潰した。
「ん?」
呪いは確実に握り潰した。
私の身にも、周囲にも被害は出ていない。
しかし、何か違和感と言うか、やらかした感覚がある。
「あー……」
『何があったんでチュか? たるうぃ』
「あー、そのね。ザリチュ。いやどうも……」
『歯切れが悪いでチュねぇ……。本当にどうしたんでチュか?』
そうしている内に私が何をやったのか、正確なところが伝わってくる。
で、その結果を述べるならばだ。
「どうにもあの呪いには、ゼンゼもムミネウシンムも、誰の下に行ったのかを探るための術式みたいなものが含まれていたのよね。で、その繋がりを利用して私が握り潰した呪いが伝わったみたいで……」
『ふむふむでチュ』
「ゼンゼは頭部が爆散。ムミネウシンムは目が一つ潰れたわ。で、その下手人が私だと二人に伝わったわね」
『……。まあ、別にいいんじゃないでチュか? そんなの元々でチュよ』
「まあ、それもそうなんだけどね」
ゼンゼとムミネウシンムが施した防護策を無視して、手痛いダメージを与えたようだった。
まあ、どっちも元々敵と言えるから、問題はないか。
「じゃ、私はログアウトするわ」
『分かったでチュー』
と言う訳で、私はログアウトした。
私がログアウト中に何かがあっても、まあエヴィカたちが何とかする事だろう。




