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『Curse Nightmare Party』-邪眼妖精が征くVRMMO  作者: 栗木下
12章:『泡沫の大穴』

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881:ボーダー-2

「はぁ……」

 ルナアポで虹霓竜憧の鏡怪呪を切り裂いた事によって流れ込んできた情報らしきものは大きく分けて二つだった。

 一つは虹霓竜憧の鏡怪呪が如何なるものであるのか。

 それは『泡沫の大穴』が如何なる場所であるかを示すものであり、如何にして前文明が崩壊に至ったかであり、彼らの足掻きが如何なるものであるかを示すものである。


「まったく……」

 前文明、最大の過ちは……負の感情をエネルギー源とする事に成功してしまったことだった。

 これに万が一と言う名目のもとに蓄えを出来るだけ多くしたい生物としての本能が組み合わさった結果、人々はより多くの負の感情が世界に満ちるように動いてしまった。

 それはそう言う人間を優遇すると言うより、そう言う人間を排斥するついでにエネルギー源として搾り取ると言うものだったが、いずれにせよ自分以外は誰がどうなっても構わないと言う思想が世に満ちると言う結果を招いた。

 そう、淀みが世界に満ちた。


「さて……」

 世界に満ちた淀みは呪いに変換された。

 人が扱える限界を超えた呪いは世に溢れ出した。

 溢れ出した呪いは、自分のものでなければ全てを食い尽くし、利用しつくし、己が物として貪る『風化の大呪』として変質し、世に満ちた。

 それは平たく言えば呪詛災害とでも呼ぶべきものであり、圧倒的な物量によって文明はあっという間に崩壊していった。

 そして、そんな崩壊に抗うべく、他の大呪たちが姿を現し、アジ・ダハーカのような存在が生じ、偽神呪たちが確立し、それでも崩壊は止まらず、最後に『交信の大呪』が現れて、『泡沫の大穴』と言う世界の中でも飛びぬけて深く、呪いが濃く、法則すら歪んで、本来なら繋がらぬものに通じてしまう場所が生じる今に繋がる。

 まあ、この流れについては私にとってはどうでもよい所だ。


「どうしたものだろうな?」

 結局のところ、世界を救うのは私の役目ではない。

 それは他の誰かの役目であり、私はそれを遠くから眺めた方が楽しい。

 仮に私に役目があるとするならばだ。

 逃亡と侵略、前文明の淀みに満ちた性根に従って製造運用され、この世界に多大な負荷をかけつつ、己たちだけが助かるために外なる世界を目指さんとするもの……『心動力式世界救済機構界境掘削竜』アジ・ダハーカ、奴を撃滅する事。

 その上で、異なる方向性から虹霓の境を、新たな領域を、未知なる世界を健全に広げ、この世界の現状と将来、数多の思想を、ほんの僅かに変える事。

 こうなるだろう。


「貴様が愚かである事は知っていた。しかし、これほどまでに愚かであるとは思わなかったぞ」

 だから私はもう一つの見えているものに目を向ける。

 そこに立っているのは、現実の私と人型形態の『悪創の偽神呪』を足して二で割ったような姿の女性。

 だが邪火太夫とは似ても似つかぬ姿をしている。

 纏っている雰囲気は朧気で、儚い。

 なのにはっきりとして、呪いとは異なる力を帯びているように見える。


「いや、私の性質と極端に薄まった血、それに海月共の技術が合わさった結果か。偶然か意図的な物か、なんにせよ面倒な事だ。全否定して眠ったと言うのに出てくる羽目になった」

 たぶん、彼女こそが私の内にあった神であり竜。

 リアルの私の根本に座する一柱。

 本物の化け物。

 黄金色の瞳に、麦わら色の髪、蘇芳色の不織布の衣を身に着けた、名も力も否定して眠りについた、在らざるものとなった神。

 『悪創の偽神呪』に混ざっている神格に限りなく近いが別の神だろう。


「選べ。拒絶するか、否定するか、知らぬままでいるか、抗うか、止めるかを」

「……」

 真の神と私の間には明確な境界が幾つも存在している。

 この境界を超える事は私にとっての分水嶺になるだろう。

 だからこそ私は躊躇いなく前に進んだ。


「私は未知を求めている。未知を明かすことを求めている。未知を切り開くことを求めている。拒絶はしない、否定もしない、知らぬままでいる事なんて出来ないし、抗わずにいる事も出来ない。止めるなんてもってのほかよ」

 躊躇いなく前に進み、ルナアポで境界を切り払って、超える。

 人の域を外れ、切り開き、外なる天より来た呪いにして、外なる天へ行く呪いとなる。


「好きにしろ。私にはどうでもよい事だ」

 そうして真の神は姿を消した。


「オオ怨オオオギ偽ギギイイイヤ嫌ヤアアァァアァ暗アァ!?」

 それと同時に虹霓竜憧の鏡怪呪の姿が視界に入ってくる。

 私の主観では十数分の出来事であったが、客観的には一瞬の出来事であったらしい。

 私は得た情報を思い出しつつ、ルナアポを虹霓竜憧の鏡怪呪の身体から引き抜き、距離を取った。


「あー……よく考えたら、抗うを選択しているのね。私。まあ、何とかはなるでしょう」

 虹霓竜憧の鏡怪呪は受けた傷が深く、痛みに悶えているようだった。

 まあ、そちらについてはどうでもいいか。

 虹霓竜憧の鏡怪呪に何かしらの隠し玉があるならばともかく、そうでないなら、次の一手で終わらせることが可能なのだから。

 むしろ問題は、先ほどの邂逅で選んでしまった事の方か。

 ほぼ間違いなくこの先に影響してくる事だろう。


「ヨヨヨ夜ヨオオ怨オオク苦ククモモ悶モオオオ怨オォォォ!!」

「うるさいわね……『竜活の(エサエルセド)呪い(セルブ)』、狂記外天:森羅狂象・序文-ルナアポクリフ:オルビスインサニレ・キューケン」

 だが、深く考えている時間が無いらしい。

 私は苛立ちを隠すことなくルナアポを生成し、ドゴストに収納、その上で『竜活の呪い』をルナアポを消費する事で発動。

 虹色の閃光が周囲を包み込んだ。

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― 新着の感想 ―
[一言] ここで出てきたのって贋魔竜呪のタルウィなのか? この地点では残念さは微塵も出てないけど...
[一言] 真なる神がリアルのタル、アンラ・マンユの親で ゲーム内のタルの親がベースとなった羽衣、アンラ・マンユ、真なる神、アンラ・マンユの親が真なる神かな、というか真なる神はアンラ・マンユの子供という…
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