879:バブルホールL-6
「随分と縮んだでチュねぇ」
「こっちが本来の大きさなんでしょうね。たぶん、虹蛇の贋魔呪自身が大きくなる、私たちを空間や次元ごと縮める、と言うのを組み合わせていたんだと思うわ」
さて戦闘は終わった。
とりあえずは虹蛇の贋魔呪の死体を鑑定してみよう。
△△△△△
虹蛇の贋魔呪の死体
レベル:50
耐久度:100/100
干渉力:150
浸食率:100/100
異形度:19
虹蛇の贋魔呪と言う名前を持つ強大なカースの死体。
虹色の体表の内側は幾重にも空間が折り畳まれており、見た目からは想像がつかないほどに広く、重い。
魔を正しく扱う心得がないものには決して見せるべきではないだろう。
注意:このアイテムを異形度19以下のものが見ると発狂する。
▽▽▽▽▽
「危険物ねぇ。しかも重要な情報は無いと言ってもいいし」
「あ、そうなんでチュか」
「そうなのよ」
まあ、『小人の邪眼・2』の強化には使えるだろう。
と言う訳で、ドゴストに収納しておく。
「で、たるうぃ」
「何かしら?」
「虹蛇の贋魔呪との戦い。その最後の方でやっていた攻撃のすり抜け、アレは何だったんでチュか? 『虚像の呪い』ではないでチュよね」
「ああ、あれね。簡単に言えば、『座標維持』のちょっとした応用よ」
「何処のシステムでチュか。全然意味が分からないでチュ」
と、此処で虹蛇の贋魔呪との戦いで気になった事があるらしいザリチュが尋ねて来た。
で、私はとりあえず簡単な説明で返したのだが……お気に召さなかったらしい。
もうちょっと詳しく説明して欲しいと顔が言っている。
「真面目に答えるなら、虹蛇の贋魔呪が来るはずだった私の座標、それを少しだけずらしたのよ」
「いや、意味が分からないでチュ。と言うか、どうやったらそんな事が出来るんでチュか」
「そこはだから『座標維持』のちょっとした応用。私視点で正確に述べるなら、私自身は同じ座標に居続けていて、虹蛇の贋魔呪が居る座標の方がずれたの」
「あ、もういいでチュ。ざりちゅには理解できないことが理解できたでチュ……」
あ、ザリチュが諦めた。
ちなみにだが、虹蛇の贋魔呪相手だと、あの座標ずらしは一度しか通用しない手である。
なにせ虹蛇の贋魔呪自身が、そういう座標に干渉する能力を持っているのだから。
二度目以降だと、適当に座標をずらしても、合わせられて直撃するだけだろう。
まあ、勝ったのだから問題はない。
「で、たるうぃ。これからどうするでチュか? 他の球体は出現しないようでチュが」
「そうねぇ……」
さてこれからどうするか。
前の階層に戻るための階段は出現しているが、周囲の空間は白一色のままであり、他の球体は姿を消したままである。
ルナアポ情報では、何度でも挑めると言う話だったはずなので、恐らくだが再び挑めるようになるまで一定の時間を置く必要があるとか、そんなところだろう。
「此処にもう一度来るのも面倒だから、もっと根源的な部分に挑みましょうか」
「チュア? えーと、此処が『泡沫の大穴』の底じゃないんでチュか?」
私はルナアポを構え、自分の状態を確かめていく。
それと同時に、虹蛇の贋魔呪から奪った情報を改めて精査していく。
「ええそうよ、此処は『泡沫の大穴』の底で、この先は無いわ。それはこの大穴のシステム上、贋魔呪を超える存在を生み出せないから、覆せない部分ね」
「じゃあ、根源とは何処でチュ?」
「単純な話よ」
虹蛇の贋魔呪は13の頭に分かれる事が出来た。
それぞれの頭は見た目上は胴体も尾も完全に分離していたが、次元や座標をしっかりと見ていけば、一つの胴体に収束していた。
そして、一つの胴体はよく観察すれば、尾の部分が切り離されたようになっている。
つまり、この胴体が繋がっていた先が、まだあると言う事だ。
「私が訪れる『泡沫の大穴』と言うダンジョンを作っているもの。13の表象の陰に隠れる真なる贋魔呪。私の根本よ」
「えーとでチュ?」
うん、見つけた。
挑むには……まあ、こうすればいいか。
「呪詛支配……『呪憲・瘴熱満ちる宇宙』の展開と収束……私の血と肉……」
「……。とりあえずざりちゅは覚悟を決めておくでチュよ、たるうぃ」
私は自分の体に強固かつ繊細な呪詛支配を行う。
そして『呪憲・瘴熱満ちる宇宙』の構造を模倣し、先ほど見つけたそれへと転写していく。
ルナアポで腹を裂き、流れ出た血と僅かな肉をそれへと流し込んでいく。
だが、これだけではまだ足りない。
それを表出させるには、私の持つ全ての邪眼術を同時に叩き込んだくらいの呪いが必要になる。
であるならばだ。
「『inumutiiuy a eno、yks nihuse、sokoni taolf、nevaeh esir。higanhe og ton od。禁忌・虹色の狂眼』」
使うべき邪眼術は『禁忌・虹色の狂眼』以外にあり得ないだろう。
「こ、これは……いったいなんでチュか……」
「さあ来るわよ。堕ちた神が、私の根本が、写し取られた者が、認められていないものが!」
私の13の目から虹色の光が放たれ、それへと飲み込まれていく。
白一色だった空間が、虹色に揺らめく空間へと戻っていく。
空間を裂くように虹色に輝く無数の手と淀みに満ちた目で構成されたそれが出てくる。
裂いた空間の端を掴んでそれが這い出てくる。
「ーーーーー……」
「チュオッ!?」
「敢えて名付けるならば……虹霓竜憧の鏡怪呪、と言うところかしら」
そして私がごく自然に思いついた名前を言った瞬間だった。
「オ怨オ怨オォォォォォ!!」
虹色に輝く無数の手、淀みに満ちた無数の目、それらの間に深い深い底無しの穴のような無数の口、これらをまとめ合わせて、六本足六枚翼六本角の東洋龍のような長い胴体を持った姿になり、周囲に衝撃を伴う咆哮を放った。
04/06誤字訂正
04/07誤字訂正