877:バブルホールL-4
「さて、まずは鑑定ね」
「ユルルルル……」
私は虹の蛇に『鑑定のルーペ』を向け、鑑定を行う。
△△△△△
虹蛇の贋魔呪 レベル??
HP:???/???
有効:?
耐性:?
▽▽▽▽▽
「名前しか分からないわねぇ」
『名前だけでも分かるならマシじゃないでチュかねぇ』
虹の蛇の正式名称は虹蛇の贋魔呪と言うらしい。
偽神呪程の力は持っていないだろうが、偽神呪と対を成すような存在であると考えてもいいはずだ。
そして虹蛇の贋魔呪は舌を何度もチラチラと出し、鳴き声を上げつつ、こちらの様子を窺っている。
「ングル!」
「っ!?」
虹蛇の贋魔呪が動く。
一瞬で私の目の前に現れ、その口を大きく開いている。
口の中の様子は先程ザリチュが呑まれた時と変わらないが、ザリチュの姿は見られない。
「ふんっ!」
「ユグッ!?」
私は即座に『気絶の邪眼・3』を発動。
虹蛇の贋魔呪の動きが止まった一瞬の間に口の外に移動する。
「thgil『恒星の邪眼・3』!」
「ウグオッ!?」
そして伏呪付きの『恒星の邪眼・3』を呪法も込みで目10個分叩き込む。
なお、『恒星の邪眼・3』を選んだのは、今の私が置かれている状況がよく分かっていないからだ。
だから虹蛇の贋魔呪の能力として想定されるものの影響下にあっても、効果を十分に見込めるものとして、『恒星の邪眼・3』を選んだ。
「ユグ……ルルル……」
で、効果はきちんと現れたらしい。
虹蛇の贋魔呪の挙動スピードが明らかに落ちている。
「ザリチュ」
『化身ゴーレムは生きているでチュし、絶賛暴れてもいるでチュ。けれどどこに居るのかは分からないでチュねぇ。さっき口を開いた時も、化身ゴーレム視点では外の明かりなんて見えなかったでチュから』
「そう」
流石はザリチュ、私が知りたい事を一気に教えてくれた。
しかしこうなってくると、本当に今の状況が掴めない。
周囲に大きさを比較するものがないため、私が縮んでいるのか、虹蛇の贋魔呪が大きくなっているのか、亜空間生成や別次元干渉と言った能力を持っているからザリチュの姿が見えないのか、色々と可能性は思いつくが、正確なところまるで分からないのだ。
「ルナアポ!」
「ユグルッ!?」
だからこそのルナアポだ。
錫杖形態のネツミテの先端にルナアポを生成、槍のようにし、『呪憲・瘴熱満ちる宇宙』も混ぜ込んで火力を上げ、虹蛇の贋魔呪の鱗に突き刺す。
これで虹蛇の贋魔呪に専用デバフである理解が付与されると共に、虹蛇の贋魔呪に関する情報が私の中に流れ込んでくる。
「っう……」
「ユルルルルングルウゥ!!」
『来るでチュよ! たるうぃ!!』
問題はこの情報が流れ込んでくるのが、量によっては苦痛……と言うよりは眩暈のようなものを伴う事か。
どうしても動きが止まってしまう。
そして、その間に虹蛇の贋魔呪は一度距離を取り、それから私の方へと口を開けながら突っ込んでくる。
しかし、その攻撃への対処よりも、私は流れ込んできた情報の処理を選んだ。
何故ならばだ。
「虹の蛇、虹霓とは可視領域、光は虹の外にもある。光は波にして粒子。座標コードは9桁6つ。三次元。空間を構築するものとは。この世界の構造。複数層のレイヤー。偽神呪、大呪、贋魔呪……外天呪」
そこにはこの先の戦闘を考えるにあたって、極めて重要であろう情報が幾つも含まれていたからだ。
「ユルングッアッ!」
「『転移の呪い』」
虹蛇の贋魔呪が口を閉じると同時に私は『転移の呪い』を使用。
攻撃の範囲外へと転移する。
そう確実に転移したはずだ。
「なるほどね。とりあえず其処に見えているのと、実体の大きさは全くの別物なのね」
だが私の左足は食い千切られていた。
まあ、問題はない。
「ユゲッ、ユゴッ……ドラシ……」
『あーあ、たるうぃなんて食べるからでチュよ』
「本当ね。私の体なんて今や毒の塊みたいなものなのに」
『毒で済まないとは思うでチュ』
私の左足を食い千切った虹蛇の贋魔呪だが、劣竜血の効果によって幾つもの状態異常を受けているからだ。
そして劣竜瞳の効果も発揮され始めており、少しずつだがランダムノーコストで発動した邪眼術によって虹蛇の贋魔呪にデバフを重ねていく。
で、私の左足は既に再生を始めており……今、治った。
「『竜息の呪い』」
「!?」
邪眼術は『恒星の邪眼・3』のCTの都合上、まだ使えない。
だが今の私なら、邪眼術に頼らずとも十分な火力を発揮する事は可能。
と言う訳でネツミテについていたルナアポを消したら、素早く再生成し、ドゴストに投入、『竜息の呪い』の射出方法1でもって虹蛇の贋魔呪に向けて放つ。
轟音と共に放たれたルナアポは虹蛇の贋魔呪に向かって真っすぐに飛んでいき……。
「ユルグガァ!?」
虹蛇の贋魔呪の胴体を貫き、大量の血と体内の呪いを撒き散らす。
うん、分かってはいたが凄まじい破壊力である。
「でもまあ、この程度で死ぬような存在ではないわよね」
「ユルルルッ……」
だが虹蛇の贋魔呪はやはり一筋縄でいく存在ではないらしい。
その傷口は既に塞がっており、見えているだけでも七つの頭が鎌首をもたげてこちらを見ている。
そう、見えているだけでも七つの頭だ。
「さて、果たして頭は幾つあるのかしらね? 後、化身ゴーレムはどこかしら?」
『見た目では、全く分からないでチュねぇ』
「「「ユルルルルゥ……」」」
気が付けば虹蛇の贋魔呪は赤、橙、黄、緑、水色、青、紫の体表を持った七体の蛇に分かれており、私の感覚を信じるならば、目に見えない虹蛇の贋魔呪も数体は確実に居るようだった。
「「「ングルゥ!!」」」
そして、全ての虹蛇の贋魔呪が口を広げ、私の方へと向かってきた。
04/04誤字訂正