867:ヘヴィパレス-2
「ふぅ、無事に……」
恒葉星の竜呪は倒された。
最初に現れた一体が、であるが。
そう、最初に現れた一体が倒されただけだ。
そして、今回この眼宮に突入したプレイヤーは百名を超えており、眼宮突入時に出現する竜呪は、突入したプレイヤーの数に影響を受けている可能性が高い。
で、此処から想像できる通りに……私の視界には五体ほどの恒葉星の竜呪がドームの外から中へと突入しようとする姿が見えていた。
この分だともう数秒で引力が発生して、逃げる事が出来なくなることだろう。
「増援襲来!」
「全員構えろ!」
「数が多いわよ!」
と言う訳でだ。
「ザリア!」
「タル! 援護を……あっ」
私はザリアに向けて笑顔でサムズアップ。
そして、何か言いたそうにしているザリアを尻目にしつつ、ドームの外へと脱出した。
『ええっ、いいんでチュか……たるうぃ……』
「大丈夫大丈夫。ザリアなら何とかするわ。たぶん」
私の体がドームの外に出ると同時に、ドーム内の喧騒が全く聞こえなくなると共に、ドーム内の様子を窺う事も出来なくなった。
やはりドームの内外で空間が完全に隔絶されているようだ。
「さて、恒葉星の竜呪は……見える範囲では居ないわね」
『みたいでチュね』
さて、ドームの外だが、空気、重力、呪詛は問題なく存在している。
ただ、下として定義できる一点が存在しないためだろう、重力の方向が一番近い構造物に向かっていくようになっている。
となると、全方位に広がっている足場の一番外側、そこからさらに外へ向かって飛んでいき、足場から離れすぎてしまうと、強制死に戻りの類が発生するのではないだろうか。
なんとなくだが、そのラインとなる場所で呪詛支配が途切れている感じがある。
「じゃあ、先に眼宮の鑑定ね」
『でチュねー』
では、ザリアたちが居るドームから離れつつ、情報収集を進めよう。
△△△△△
虹霓鏡宮の呪界・恒星の眼宮
限り無き呪いの世界の一角に築かれた虹霓に輝く城。
離宮の一つ、恒星の眼宮、そこは異常な重力に満ちた世界であり、星々が降り注ぐ世界でもある。
ひしめくは樹と重力の力に満ちた竜の呪いであり、彼らは獲物と見定めたものを決して逃がそうとしない。
呪詛濃度:26 呪限無-中層
[座標コード]
▽▽▽▽▽
「恒星の眼宮と書いてヘビィパレスね」
『概ねいつも通りのフレーバーでチュねぇ』
「そうね。概ねはいつも通りね」
『そうでチュ。概ねでチュ』
鑑定結果のフレーバーテキスト部分は掲示板へ挙げておく。
まあ、ほぼいつも通りの内容だが。
問題はそのいつも通りの中で、この眼宮のギミックに関わりそうな部分だ。
「星々が降り注ぐ……ねぇ」
『恒葉星の竜呪の攻撃の事ならいいでチュが、そうでないなら不穏でチュねぇ』
「そうね。恒葉星の竜呪の事ならいいけど、そうでないと不穏よねぇ……」
私はドームから伸びている足場の一つに着地すると全方位を見る。
星々は輝いている。
煌々と、キラキラと、絶え間なく、淀みなく、陰りなく輝いている。
降り注ぐような星は見えず、何処までも穏やかで静かな空間が、宇宙が広がっている。
この状況下で星々が降り注ぐ?
何故だろうか、凄まじく嫌な予感と言うか、破滅的な空気を感じずにはいられない。
「とりあえず恒葉星の竜呪を一匹狩って、安全圏で解体、鑑定、『劣竜式呪詛構造体』のアップグレードを済ませたら、一度退きましょうか」
『でチュね』
まあ、やる事に変わりはない。
と言う訳で私は恒葉星の竜呪を探すべく、まずはドームの外を飛び回ってその姿を探す。
「あ、本当に嫌な予感がしてきた……」
『本当でチュねぇ……』
だが見つからない。
幾つかのドームを横目に通り過ぎて飛び回ったのだが、一体の恒葉星の竜呪も見つからない。
こうなってくると、恒葉星の竜呪はドームの中に出現すると考えるのが妥当であり、それについては問題ない。
だが同時にこう考えもしてしまう。
ドームの外は恒葉星の竜呪が生きられないような危険空間。
と言う風にだ。
「っ!?」
『な、何か来るでチュよ! たるうぃ!!』
そう思ったのがフラグだったのか、あるいは単純に時間が来たからなのか、とにかく何かがこちらに向かってくる気配を……いや、重さを私は感じた。
そして、一番近くのドームに向かって全力で飛んで行こうとする私の目が捉えたのは、無数の隕石が煌めく軌跡を残しつつこちらに向かってくる光景。
隕石の大きさは比較物と対象との距離が分からない事から不明。
だが、その数と隕石と言うものが持つイメージから考えれば、直撃した時にどうなるかは考えるまでもないだろう。
「いいいいいっ!?」
『チュアアアアァァァッ!?』
私の考えは正しかった。
私がドームの中に入り込むと同時に、隕石の雨が襲来。
進路上に存在していた足場を木っ端微塵にし、ドームを激しく揺らし、安全圏に居なかったものへ容赦のない破壊を撒き散らしていく。
外に居た場合にどうなっていたかなど考えるまでもない威力だった。
「これが此処のギミックと言う事ね……」
『厄介でチュねぇ……』
やがて隕石の雨は止み、ドーム同士を繋ぐ足場が再生されていく。
ただし、破壊前とは大きく異なる形で。
どうやら、隕石の雨による破壊と、通路のランダムな再構築、これらが組み合わさる事で眼宮全体の迷宮化が行われる、と言うのが、恒星の眼宮のギミックであるらしい。
「まあ、頻度とかを覚えれば何とかはなると思うわ。それよりも目の前の敵と行きましょうか」
『でチュね』
「シャアアァァッ……」
そして、私がドームの中に入ったからか、恒葉星の竜呪が一体姿を現した。




