864:タルウィヘビィ・3-3
本日は四話更新になります。
こちらは三話目です。
「隙間は……あるっ!」
首だけ竜の背後で展開された宇宙空間から、真っ赤に燃え盛る隕石が無数に飛来する。
その軌道は直線的なものもあるが、首だけ竜の体を避けるようにカーブしているものもある。
そこから私は首だけ竜の攻略法を一つ思いつくが、残念ながら今はそれどころではない。
首だけ竜が居る場所を始点として、扇状に120度ほどの領域を対象とした攻撃が降り注ごうとして言うのだから。
「おおー……流石は楼主様ー」
後ろには退けない、首だけ竜の引力によって、それは出来ないようになっている。
横に飛んで範囲外に出るのは距離がありすぎる、引力によって直線軌道ではなく、首だけ竜を中心とした公転軌道を描かされるからだ。
だから私は前に出る。
前に出て、隕石の隙間へと体をねじ込み、首だけ竜の側面に向かって飛んでいく。
「ジョクガァ!」
「っう!?」
首だけ竜の目が輝くと共に、体が重くなる。
『空中浮遊』の呪いが阻害され、両足が地面に着かされ、地面表面の砂利が足裏に不快な感覚を与えてくる。
それと同時に翅の動きが弱まり、翅を動かしても体が前に進まなくなる。
どうやら重力増加の邪眼の類を首だけ竜は持っていたらしい。
で、その重力増加の作用によってか、降り注ぐ隕石の精度も上がる。
「舐めないで欲しいわね!」
仮にここで足を止めれば、無数の隕石に押し潰され、一瞬で試練失敗となるだろう。
なので私は自分の足で前に駆け続け、背後から無数の爆炎と轟音が放たれる中で首だけ竜へと近づいていく。
「シャアッ!」
「っ!? 隕石攻撃に集中しなさいよね!」
首だけ竜との距離が残り30メートル程になったタイミングで、首だけ竜から紫色の光線……重力ブレスが放たれる。
重力ブレスは飛来する隕石を巻き込み、その進行方向を捻じ曲げ、隕石を巻き込んだ重力ブレスとなって、私の方へと飛んでくる。
この状態の重力ブレスに巻き込まれたらどうなるかなど考えたくもない。
故に私は全力で駆け続け、首だけ竜の攻撃から逃げ続ける。
「etoditna『毒の邪眼・3』!」
「せいー」
「ジャゴ!?」
隕石が降り止む。
それと同時に首だけ竜の側面へ回り込むことに成功した私は『毒の邪眼・3』を撃ち込み、エヴィカも何かしらの攻撃を放ち、首だけ竜を怯ませる。
此処からはアレの準備をしつつ、この位置を維持する事で、準備のための時間を稼ぐ。
私がそう思った矢先だった。
「プラネーシャー……」
「っ!?」
首だけ竜が私の方を向き、その大きな口を開く。
鋭い牙が何十本と生え揃い、真っ赤な舌が炎のように揺らめき、存在しないはずの喉の奥に闇が広がっているのが見えた。
だが、そうして目視で得られる情報以上に私が感じたのは……濃厚な死の気配。
それは噛み砕かれればどうなるかを如実に表していた。
「楼主様ー!」
「『転移の呪い』!」
「インッ!!」
私は咄嗟に後方5メートルの位置へと転移。
転移と同時に私が先ほどまで居た場所で首だけ竜の口が閉ざされ、火花と風圧が周囲へ撒き散らされる。
「ひゅうっ……ふうっ……危ないわね……『熱波の呪い』!」
「ジャゴオォ!?」
私は直ぐに呪詛の剣による反撃を行う。
首だけ竜から逃げる事は叶わないが、首だけ竜から退くことは出来るらしく、首だけ竜は少しずつ私から離れていく。
だが、距離が開き過ぎれば、私よりも首だけ竜に有利な状況になってしまう。
「シャアッ!!」
「っ!?」
そんな私の想像通りに首だけ竜が重力ブレスを放ち、私はそれを避けるために折角離した距離を自ら詰める事になる。
けれど此処に来てようやく準備は整った。
私は首だけ竜の側面へと回り込み……
「thgil『重石の邪眼・2』」
「ジャゴッ!?」
乗せられるだけの呪法を乗せた『重石の邪眼・2』を首だけ竜に放ち、首だけ竜の体が灰色の蔓に覆われる。
そして、その中でスピードを緩めず私は駆け続け、首だけ竜の背後、花のがくや花托と呼ばれるような部分が見える位置にまで移動する。
攻撃を避けるべくエヴィカもまた同じような位置に移動しており、これで首だけ竜の視界から全ての敵対者が居なくなった。
すると最初の時と同じように首だけ竜の姿が消え去る。
「楼主様ー……これはー……まずいと思うんですけどー?」
首だけ竜はまた私たちから100メートル程離れた場所に姿を現す。
その背後にはやはり最初の時と同じように宇宙空間が開かれている。
やはりと言うべきか、あの隕石攻撃は首だけ竜の視界から全ての敵対者が消え去ると使ってくるらしい。
「大丈夫よ。さっきとは状況が違うから」
「と言いますとー?」
だから利用しやすい。
「ブップラジョクガァ……ジョガガガガガガッ!?」
首だけ竜の背後から放たれる隕石は私たちの方へと飛来しようとして……首だけ竜の背中を絶え間なく打ち据えていく。
「おー……では追撃をー」
「あの隕石は重力の影響を大きく受ける。なのに『重石の邪眼・2』の影響下で使ったら、そうなるのも当然よね」
「ジョガガガガアアアァッ!?」
この隙を見逃す理由はない。
エヴィカは私の邪眼術の劣化版であるらしい、眼球型のアイテムを使い潰し、首だけ竜へとダメージを与えていく。
そして私も『熱波の呪い』によって攻撃能力を持った呪詛の剣を何十本と撃ち込んでいく。
前後からの絶え間ない攻撃に、首だけ竜は花弁を少し動かすだけで反撃もままならずに叫び声を上げ続け……。
「ジョグブプラァ……」
「よしー」
「ふぅ……」
隕石が止むと同時に首だけ竜の体は浮力を失い、力なく横たわった。
首だけ竜はまだ何かを隠し持っていたのかもしれないが、これで私たちの勝利である。




