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『Curse Nightmare Party』-邪眼妖精が征くVRMMO  作者: 栗木下
3章:『サクリベス』
86/1000

86:七つの大呪-1

『DC?』

「正確にはDigitize Curse。和訳するならデジタル化された呪いね」

 本当に……本当に今更な話だが、『CNP』にも通貨と言うのは存在している。

 まあ、物々交換だけで全てを済ませると言うのは難しい物があるし、それを考えれば当然の事なのだろう。

 ただ、このDCだが、中々に厄介な代物でもある。


『デジタル化? よく分からないでチュね』

「んー……なんと言えばいいのかしら。私も掲示板経由でしか知らないけれど、呪いから個の要素を抜き、スタックして一つにまとめられるようにするの。で、こうする事で、エネルギーとして役立てる事が出来るようになるから、通貨としても利用可能になるようね」

『それ、必要でチュか?』

「ぶっちゃけ人相手の取引に使うくらいかしらね。後は細工道具のバーナーがあったでしょ、アレの火力を一時的に上げたりする用途があるようだから、そう言う意味では必要ね。それと……上手くやれば一時的にその場の呪詛濃度を上げるくらいは出来る気がするのよね」

『案外使い道があるでチュね』

「確かにあるわね」

 呪いのエネルギー化と言えば聞こえはいいし、呪詛に満ちた『CNP』の世界では無限に使える夢のエネルギー源になりそうではある。

 現に多くのプレイヤーが拠点としているサクリベスでは、このDCを上手く活用する事によって生活が成り立っているようだ。

 だが、これだけ便利な物にデメリットが無いなどと言う事があるのだろうか、ましてや元は誰かに害をなす呪いなのだ。

 それは当然の思考であり、正しい思考でもあった。


「でも、問題も当然あるわ」

『具体的には?』

「器のDCを貯め込んでおける量は器ごとに決まっていて、それ以上の呪いを貯め込もうとすると、もれなく周囲に高濃度の呪詛を撒き散らして、何かしらの異常現象を引き起こす」

 問題は器以上に呪いを貯め込んだ時に起きる。

 爆発のような一過性の現象で済めばいいほうで、酷いとある種のゴーレムになってザリチュのように動き出したり、周囲に厄介な呪いを撒き散らし続けて壊す事も出来なくなる場合もあるようだ。

 そして、こうなってしまえば、何処かに捨てに行くか、あるいはその土地を捨てるかと言う話になり、この手の廃棄物が溜まっていけば、人の生活可能圏は狭まっていくことになる。


「……」

『たるうぃ?』

「いえ、ちょっと思ったことがあっただけよ」

 と言うか、もしかしなくても一部のダンジョンについては、この手のアイテムが核になって生じているのではなかろうか。

 世界に満ちている呪いを自身の方へと引き寄せ、自身を維持・強化・拡張していくのが、獲物が来ない時のダンジョンと言う物だろうし。

 金銭欲の類を核にすると言うのも極めて分かり易いことだ。

 うん、普通にありそう。


「ま、詰まるところがきちんと扱わないと危険な物質と言う話に落ち着くわね」

『当たり前の話でチュねぇ』

「そうそう当たり前。当たり前ついでに、サクリベスで貨幣またはエネルギー源として使えるDCは一定基準らしくて、基準外のは偽造貨幣のような扱いを受けるらしいわ」

 ま、ダンジョンの核どうこう、一般的な用途どうこうという話はこれくらいにしておこう。


『……。たるうぃはその基準とやらを知っているでチュ?』

「知らないでチュー。そもそも私が取引できる相手なんてプレイヤーだけだし、それなら物々交換で十分でしょ」

『チュアアァァ……。じゃあ、これまでの話は何だったでチュか。と言うか、いったい何を作る気でチュか……』

「DCを貯めるアイテムなのは間違ってないわよ」

 私は垂れ肉華シダの蕾を持ってくると、解体用アイテム一式に含まれているナイフを使って、側面に切り込みを入れる。

 そして、そこへ『ダマーヴァンド』が『ネズミの塔』だった頃にはダンジョンの核であった日記帳に垂れ肉華シダの苔をまぶした上で挿入。

 で、この蕾を、葉が付いたままの垂れ肉華シダの蔓を裁縫セット一式を使って編んで作った袋に入れ、口を別の蔓でしっかりと締める。

 その後に毒ネズミたちの骨を幾つか袋に差し込んで、自立できるような支えにする。


「『ダマーヴァンド』にしろマイルームにしろ、改良にはエネルギーと資材が必要よ。この内資材については今後地道に集めていけばいいけれど、エネルギーについては周囲の呪詛をかき集めるから、どうしても時間がかかるわ」

『そうだったでチュねぇ』

 私はそうして出来上がった人間の頭より一回り大きい物体を、緑透輝石の足環を作った時と同じように毒液の噴水に暫く漬ける。

 とは言え、足環と違って水より軽いためか直ぐに浮いてしまうのだが。

 だが代わりに、垂れ肉華シダの葉っぱが血のように赤い色……蘇芳色に染まっていく。


「で、そこで少し気になったのよ。ダンジョンの管理者に与えられた専用のインターフェースで、ダンジョンは一通り弄れるけど、その一通りで全てなのかな? と」

『チュ?』

「具体的に言えば、どれぐらいの呪詛を集めていて、どれぐらいの呪詛を何に使っているのか、所謂出納表みたいなものがあった方がいい気がしたのよ。で、そのついでにDCモドキのようにエネルギーを貯蓄する手段も得ておきたいと思ったのよね」

『んー、まあ、要するに餌を貯めておく場所を作るついでに、餌を管理するための道具を作る感じでチュかね』

「まあ、そんな所ね」

 私は十分に毒液が染み込んだと判断したところでセーフティーエリアに持ち帰り、呪怨台に乗せる。

 呪い方としては、毒液、垂れ肉華シダ、毒ネズミたちと言う『ダマーヴァンド』中に広がっている三つとの繋がりを利用して、『ダマーヴァンド』内部と外部の呪詛の計測機能を。

 日記帳と言う人の言語が記されている物を利用して、それの言語化を試みる。

 日記帳自体、『ダマーヴァンド』に縁があるものなので、これは上手くはいくだろう。


「呪いを為すためのエネルギーだけを貯め込んで、私の自由に使えるように出来ますように……余ったら適当に花でも咲かせますように……」

 呪怨台の霧が晴れていく。

 そして出来上がったのは……人の頭より一回り大きい、所々に棘のような物が生えた、奇妙な球形オブジェとしか評しようのないものである。


『妙な物が出来上がったでチュ。またたるうぃが変な物を作ったでヂュアアアァァァァ!』

「または余計よ」

 とりあえず鑑定をしよう。

 私はザリチュの縁を軽く抓り捻った後、呪怨台から何故か重さが十数キロに増しているであろうオブジェを下ろすと、『鑑定のルーペ』を向ける。



△△△△△

呪詛管理ツール-『ダマーヴァンド』

レベル:10

耐久度:100/100

干渉力:100

浸食率:100/100

異形度:12


『ダマーヴァンド』とその周辺に存在する呪詛を管理するためのツール。

手をかざす事で使用できる。

呪詛貯蓄量:125/1,000,000

注意:呪詛を貯め込み過ぎると暴走します。

▽▽▽▽▽



「……。まあ、とりあえず使い物にはなりそうね」

 私は呪詛管理ツールを両腕で抱えると、セーフティーエリアからいつもの噴水に持って行き、オブジェらしく噴水の一番上に置く。

 すると、不思議な事に呪詛管理ツールの突起部分から垂れ肉華シダの蔓のような物体が伸びて、噴水及び天井の垂れ肉華シダと一体化。

 飾り気のなかった噴水が少し華美な物になると同時に、奇妙な光景が出来上がる。


「未知ではあるけれど、反応に困るわね。これ……」

『たるうぃが変な物を作るからでチュよ』

 とりあえず呪詛管理ツールに向けて手をかざしてみる。

 すると、これまでと同様のダンジョン管理画面だけでなく、『ダマーヴァンド』とその周囲の呪詛について、動向と用途まで詳しく記された画面が表示される。


≪称号『七つの大呪を知る者』を獲得しました≫

「げっ、なんか変なのが……」

『たるうぃが変な物を作るからでチュよ』

 そして、画面が表示されると同時に、なんか見るからにヤバそうな称号が手に入ってしまった。

 未知ではあるのだが、こうも立て続けに来られると消化しきれなくて困るのだが……とりあえずステータス欄から詳細を確認してみるか。



△△△△△

『蛮勇の呪い人』・タル レベル10

HP:652/1,090

満腹度:72/100

干渉力:109

異形度:19

 不老不死、虫の翅×6、増えた目×11、空中浮遊

称号:『呪限無の落とし子』、『生食初心者』、『ゲテモノ食い・1』、『毒を食らわば皿まで・2』、『鉄の胃袋・2』、『呪物初生産』、『毒使い』、『呪いが足りない』、『暴飲暴食・2』、『呪術初習得』、『かくれんぼ・1』、『ダンジョンの支配者』、『意志ある道具』、『称号を持つ道具』、『蛮勇の呪い人』、『1stナイトメアメダル-3位』、『七つの大呪を知る者』


呪術・邪眼術:

毒の邪眼・1(タルウィベーノ)


所持アイテム:

毒鼠のフレイル、呪詛纏いの包帯服、『鼠の奇帽』ザリチュ、緑透輝石の足環、真鍮の輪×3、鑑定のルーペ、毒噛みネズミのトゥースナイフ、毒噛みネズミの毛皮袋、ポーションケトルetc.


所有ダンジョン

『ダマーヴァンド』:呪詛管理ツール設置

▽▽▽▽▽


△△△△△

『七つの大呪を知る者』

効果:特定NPCとの友好度変化率上昇(中)

条件:この世を為す七つの呪いの名前を知る


貴方はこの呪われた世界の根幹、その一端を知る事が出来た。

だがそれは幸福ではなく、むしろ不幸と言ってもいいだろう。

知るとは知られる事でもあり、貴方を知ったものが貴方に友好的であるとは限らないのだから。

いずれにせよ、知らなかった事にはもう出来ない。

そして、この件については同じ称号を得た者にしか告げてはいけない。

▽▽▽▽▽



「想像以上にヤバいのだわ。これ」

『たああぁぁるうぃぃぃがああぁぁへんなぁぁものをおおぉぉ……ヂュアアアアアァァァァァァァ!! ごめんなさい! 調子に乗ったでチュ!! 謝るから、謝るから高速回転は許してでチュウウウゥゥゥ!?』

 私は頭の上でザリチュを高速回転させつつ、視線で呪詛管理ツールの記された内容を見ていく。

 そして、この世を為す七つの呪いとやらの名前を見つけた。

 それは……不老不死、蠱毒、再誕、転写、反魂、魔物、風化であるようだった。

04/27誤字訂正

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― 新着の感想 ―
ザリチュは癒し。はっきりわかんだね
[良い点] 高速回転ザリチュかわいいでチュー
[良い点] タルが「知らないでチュー」って言ってるの可愛い(笑)
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