856:バブルホールF-1
「さて、とっとと奥へと向かうわよ」
「でチュねー」
『泡沫の大穴』へと移動した私は、結界扉前に眼球ゴーレムを隠しておくと、前回と同じように奥へと向かっていく。
「あ、毒竜たちは基本的に無視で行くわ」
「狩るのに時間がかかる割に、たるうぃ的には美味しくない素材でチュからねえ……」
「「「グルアアアァァァッ!!」」」
すると直ぐに毒竜や灼熱竜と言ったドラゴンたちが私たちへと襲い掛かってくる。
が、前回と違い、真面目に対処はせず、攻撃を避けながら森の中を飛んでいき、さっさと振り切ってしまう。
ザリチュの言ったとおり、戦ってもあまり美味しくない相手だからだ。
「ガダグリイイィィ……」
「あ、ストップ。寄生の片栗呪は狩っていくわ。もう一体分くらいはストックを準備しておきたいから」
「分かったでチュ。他のドラゴンたちは……追って来てないようでチュね」
「ガダグリィ!?」
が、紫色の鱗を持つ恐怖竜の死体に寄生した寄生の片栗呪は見かけたので、こちらは狩っておく。
勿論前回と同じように念入りかつ丁寧な処理を施してだ。
恨みに思うなら、片栗粉と言う何かと有用な素材になる自分の事を恨みに思って欲しい。
「お、あっちは白っぽいドラゴンね。もしかして小人竜……違うっぽいわね」
「あれは飢渇竜みたいでチュねぇ」
後、前回の探索で見かけなかったドラゴンも居たので、それらには近づき、鑑定をして、狩っておき、死体は回収した。
その結果として分かった事だが、どうやら此処には私が参の位階に上げた邪眼術に対応するドラゴンしか生息していないらしい。
それと飢渇竜だが、確かに鱗などは透明だが、ガラスほどに透明度が高くなく、何層にも積み重なった結果として、周囲の色と血の赤が幾らか混ざった白っぽい鱗を持つドラゴンと言う見た目になっている。
どうやら、光の拡散の都合で、白っぽく見えるようになっているらしい。
「ところでたるうぃ」
「何? ザリチュ」
さて、そうして時折足を止める事はありつつも、私たちは順調に『泡沫の大穴』の奥へと向かっていく。
だが、下れども下れども、敵にも環境にも変化は生じない。
そんな中でザリチュが話しかけてくる。
「『泡沫の大穴』がたるうぃのステータスを参照するなら、いずれ敵が呪憲を使ってくる可能性もあるんじゃないでチュか?」
「あるでしょうね。と言うより、むしろ使ってくれないと困るわね」
「どういう事でチュか?」
「「「グルオオオォォ!!」」」
毒竜の群れが横から襲い掛かってきて、深緑色の炎を一斉に放つ。
対する私たちは適当な木の陰に入って攻撃を凌ぐと、移動を再開して毒竜たちの認識範囲の外へと向かっていく。
「呪憲関係の素材なんて、現状だと此処以外に手に入る可能性がある場所がないもの。全ての邪眼術が3になった後に強化する項目としては装備に並ぶくらいには重要だし、強化素材ぐらいは確保しておきたいわ」
「なるほどでチュねぇ」
「ただ、どんな素材なのかまるで分からないのが問題なのよねぇ」
「底の方でイベントの時と同じようにすれば、何かが採れるんじゃないでチュか?」
「それだと楽でいいわねぇ」
おっと、今度は桃色の鱗……魅了竜か、それに気絶竜、暗闇竜、淀縛竜とかなりの数が集まってきている。
そして、その全てが一斉に、それぞれの属性の炎を放ってきている。
どうやら、姿や強さ、環境に変化はないのに、敵の知性はいつの間にか上がっていたようだ。
いつの間にか包囲もされていたし、全方位から隙間なく炎が迫ってきている。
「ざりちゅは盾で突貫するでチュ」
「頑張って」
ザリチュが盾を構えて炎に突っ込み、それなりのダメージと引き換えに炎の壁を突き抜ける。
私もザリチュの後に続いて炎の壁に迫るが、ザリチュの受けているダメージから考えて、私が考えて居るこちらの方法の方が消費は少ないだろう。
「『転移の呪い』」
と言う訳で、炎の揺らめきによって見えづらくはあるが、全く見えないわけではないと言う事で、前方5メートルの地点に向かって転移。
炎の壁を無傷で通り抜ける。
“ゴトン”
「ん?」
「チュア?」
お礼参りではないが、此処まで集まってしまったなら一度対処をした方が安全。
そう考えた私は全てのドラゴンを一気に無力化するべく、『呪法・感染蔓』の準備をしつつ『魅了の邪眼・3』を撃とうとした。
だが、その前に妙な音が聞こえた。
“hpトン”
「ザリチュ!」
「分かってるでチュよ。たるうぃ」
また聞こえた。
気のせいではない。
私は急いで音の出元を探ろうとする。
だが、森の木々に邪魔されて、音の出元は見えない。
だから私は邪眼術の準備を切り替えた上で、ザリチュと背中合わせに近い状態になる。
“ゴypン”
「「「グルルル……」」」
ドラゴンたちも何かしらの異常事態を感じ取っているのだろう。
私への攻撃を止め、ドラゴン同士で身を寄せ合い、しきりに周囲を窺っている。
いや、窺っていた。
“ゴトm”
「「……」」
私たちの近くに居たドラゴンの首が落ちた。
何の前触れもなく、首が切り離され、頭が黒い砂に覆われている地面に触れた。
落とされたドラゴンの顔は、自分の身に何が起きたのかを全く理解できていないようだった。
“hpypm”
「やっちゃったわねぇ……確率的にはまだまだ低いと思ってたんだけど……」
「まあ、やってしまったものは仕方がないでチュよ。たるうぃ」
だが、あまりにもあり得ないその現象のおかげで、私は何が今起きているのかを察した。
良からぬものだ。
『転移の呪い』に関わる良からぬものがこの場に現れようとしている。
その前兆として、どうしてかドラゴンたちの首が落とされているのだ。
“j@うq、”
「逃げる事は不可能として……さて、何処までやれるかしらね?」
「やれるだけやるしかないでチュね」
「「「hrcrvtbyぬlp、hrcrvtbyぬlp……」」」
気が付けば全てのドラゴンの頭が落ちていた。
そして、落とされた部分から水平に、胴の半ばにまで届くように切り傷が刻まれ、その傷を口とし、首の骨を舌とするように広げられる。
全身から黒い液体が溢れ出て体表を覆い、奇妙な鳴き声を輪唱する。
「「「hrcrvtbyぬlp、hrcrvtbyぬlpーーー!!」」」
「さあ、来るわよ!」
「分かってるでチュよ!」
そうして一見すれば黒いカエルのように見えるそれらは、私たちに向かって一斉に跳躍した。
03/17誤字訂正




