85:クロムダイオプサイト-2
「んー、足に付けてた真鍮の輪、呪われたクロムダイオプサイト、毒噛みネズミの前歯。この辺でいいかしらね」
真鍮の輪の幅と宝石のサイズはほぼ同じで、厚みも同じような物。
となると輪を削って嵌め込むだけで作り上げるのは無理があるだろう。
なので、輪の表面を少し削って凹ませつつ、毒噛みネズミの前歯を削って、宝石を止めるための爪を作る。
「で、このバーナーを点火っと」
『気を付けるでチュよ』
「もちろん。体に引火したりしたら、私の耐性的に洒落にならないわ」
私は細工道具に含まれているバーナーに火を点ける。
このバーナーはガスの代わりに周囲の呪詛を利用して火を点けられるようで、火力としては真鍮の輪を部分的に柔らかくする事ぐらいは出来るようだ。
「これでよし」
そうして一時間ほど作業する事で、毒噛みネズミの前歯を爪とし、削りカスの真鍮も利用して、呪われたクロムダイオプサイトがセットされた輪が出来た。
なお、作業中に私が毒にかかることは無かった。
まあ、呪われたクロムダイオプサイトの与える毒では私の毒耐性を抜けないので、当然の結果だろう。
「後はこれを呪うだけね」
『どう呪うでチュ?』
さて、このままでは宝石の付いた輪が出来ただけで、特別な効果は有さないただの装飾品である。
特別な装備品にするためには、呪怨台に乗せて呪いをかけなければいけない。
では、どういう呪いをかけるかだが……。
「そうねぇ……。とりあえず身に着けていたら馬鹿になると言うのは御免だわ」
『まあ、そうでチュよね』
今回はザリチュと一緒にしっかり考えてから望むとしよう。
まず、宝石のパワーストーンとしての効果が反転しているのについては、部分的でいいから解除あるいは変質させておきたい。
だが解除と言うのは……呪いで呪いを解除すると言うのは少々厳しいか。
ならば変質の方向で考えるのが良いだろう。
「変質……所有者をリラックスさせ、叡智を授ける石。デメリットの毒。鑑定者への反撃。現状は変調と拒絶になっていると認識するのが良さそうかしら」
『変調と拒絶でチュか?』
「ええ。変調は毒から。拒絶は鑑定者への反撃から、そう判断したわ。うーん、変調はともかく、拒絶は困りものねぇ」
『チュ? 拒絶はむしろ便利そうでチュけど?』
「不便よ。コミュニケーションにおいて自分を知られることを一方的に拒絶するような奴はハブられるだけだもの。人間だと特にね」
『不便でチュねぇ。人間は』
では、どう変質させるか。
変質である以上、比較的近い効果に曲げる方がやり易いのは確かだろう。
となると反撃の対象と方法を弄繰り回すのが良さそうか。
「じゃ、折角だしいつものように一度毒液に漬けてからっと」
『折角……』
私はセーフティーエリアの外に出ると、『ダマーヴァンド』の核である毒鼠の杯から湧き出た毒液によって作られた噴水に向かうと、噴水の中に真鍮の輪をしばらく漬けておく。
「んー、『ダマーヴァンド』には特に変化なし。立地が悪いから入口のセーフティーエリアも碌に使われないのよね」
『チュ!? 花が咲いたでチュ! 向か……』
「向かわないわよ。数の暴力に勝てないし、どう足掻いても花の回収は出来ないから」
『チュアアアァァァ……』
私はこの間に『ダマーヴァンド』及び『ダマーヴァンド』下のビルについて管理ツールと掲示板で調べる。
その結果として、『ダマーヴァンド』は特に変化なしだが、どうやったら中に入れるのかと言う議論は掲示板で起きていた。
下のビルについては毒ネズミと垂れ肉華シダ関係のアイテムが回収できる場所として認識されるも、垂れ肉華シダは養殖が容易なので、既に別の場所での生育が始められており、そのためにほぼ用なしになっているようだ。
「侵入者はなし。平和なのはいい事ね」
なお、『ダマーヴァンド』の内部に入る権限の取得方法だが、私が許可を出す以外にも、実はこの噴水の液体が下のビルにまで流れているので、それを一定量以上飲むか浴びる事で一時的に取得可能であるようだ。
これは侵入不可エリアからの一方的な攻撃を防ぐための仕様を逆利用するものであるが……まあ、無いと不公平すぎるので、当然とも言える。
勿論、『ダマーヴァンド』内部から私が『毒の邪眼・1』を放って外への攻撃を行っても、同様に許可が下りるので、今後もやるならば最低でも『ダマーヴァンド』外のビルから狙撃はするべきだろう。
「じゃ、呪いましょうか」
『そうでチュねー……』
そろそろいい頃合いか。
私は噴水の中から、呪われたクロムダイオプサイトの放出しているオーラが微妙に緑がかったものに変化しているように見える真鍮の輪を取り出すと、セーフティーエリアに向かう。
そして、呪怨台の上に乗せる。
「変質しますように……変質しますように……」
私は真鍮の輪が赤と黒と紫の霧に包まれたことを確認すると、頭の中で仕様を思い描きつつ、どういう呪いにするかを呟く。
『ざりちゅも守るでチュよー』
「効果量そのものは控えめでもいいから……使えそうな物に……」
とは言え、そこまで真面目に作らないといけないアイテムでもない。
失敗したら最悪捨て置いてもいいのだ。
「上手くいきますように……上手くいきますように……」
なので、私はここ最近の製作物に比べると、だいぶ控えめな感じの念を注ぎ込み続ける。
そして、霧が晴れた。
「出来たわね」
見た目の変化としては呪われたクロムダイオプサイトがオーラを放出しなくなっているくらいか。
とりあえずHPバーに問題が無いことを確かめてから、鑑定を行う。
△△△△△
緑透輝石の足環
レベル:12
耐久度:100/100
干渉力:100
浸食率:100/100
異形度:10
クロムダイオプサイトと呼ばれる深緑色の宝石が付けられた真鍮製の足環。
石が帯びる強い呪いは所有者を傷つけたものへと容赦なく襲い掛かるが、所有者もまた呪いに晒されるからこその力である。
極めて丈夫であり、普通に扱っている分には傷がつく事も汚れる事もまずないだろう。
所有者がダメージを受けた時、受けたダメージと距離に応じた毒を与えたものに返す(限度20)
注意:所有者に一定時間ごとに毒(1)を与える。
▽▽▽▽▽
「ふむ。思った通りの物が出来たかしらね」
『カウンターアイテムと言うところでチュね』
私は鑑定結果に問題が無いことを確認すると、足を通して装着する。
レベル不足の為に少々重たいが、この辺りはゲームとしての力が働いているようで、外そうと私が思わなければ、外れることはなさそうだ。
なお、毒については包帯服で無効化できる範疇なので、あってないようなものである。
もしかしたら、無効化できる毒の量が常に1減っているかもしれないが……まあ、それぐらいなら誤差で済ませていいだろう。
「さて、それじゃあ、もう一つアイテムを作るわよ」
『分かったでチュ』
これで予定外のアイテムは出来た。
なので、次は予定通りの……この世界のお金であるDCを収納するためのアイテムを作ろうと思う。
△△△△△
『蛮勇の呪い人』・タル レベル10
HP:652/1,090
満腹度:72/100
干渉力:109
異形度:19
不老不死、虫の翅×6、増えた目×11、空中浮遊
称号:『呪限無の落とし子』、『生食初心者』、『ゲテモノ食い・1』、『毒を食らわば皿まで・2』、『鉄の胃袋・2』、『呪物初生産』、『毒使い』、『呪いが足りない』、『暴飲暴食・2』、『呪術初習得』、『かくれんぼ・1』、『ダンジョンの支配者』、『意志ある道具』、『称号を持つ道具』、『蛮勇の呪い人』、『1stナイトメアメダル-3位』
呪術・邪眼術:
『毒の邪眼・1』
所持アイテム:
毒鼠のフレイル、呪詛纏いの包帯服、『鼠の奇帽』ザリチュ、緑透輝石の足環、真鍮の輪×3、鑑定のルーペ、毒噛みネズミのトゥースナイフ、毒噛みネズミの毛皮袋、ポーションケトルetc.
所有ダンジョン
『ダマーヴァンド』
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04/26誤字訂正