847:タルウィボンド・3-5
「アイムさん! とりあえず概要だけ伝えるわ! 厳密に黒い液体が存在しない部分だけを攻撃しなさい!!」
「「ビビイイィィ!!」」
目玉を抉り取られた馬ドラゴンは激しく暴れ始める。
対する私は即座に距離を取る事で安全圏に移動しつつ、アイムさんへ直ぐに必要となる情報を伝える。
「それにしても面倒な性質ね……」
で、改めて考察。
馬ドラゴンは見られているから見れる。触られているから触れる。認識されているから認識できる。
つまりは、馬ドラゴンとそれ以外の誰かで、相互に認識し合っていないと、正しく認識できない。
相手を正しく認識できていないから、攻撃をしても効果がなかった。
馬ドラゴンは私の所在と糸の位置をきちんと認識していて、私は馬ドラゴンが何処かに居ると認識していたから、捕らえる事が出来た、という事だろう。
私の認識がどの程度必要なのかは分からないが、いや、本当に面倒くさい。
「まあ、淀みの性質を考えれば納得はするけれど」
それと認識の問題以外にも、馬ドラゴンに攻撃が当たらなかった理由はある。
淀みは人なら程度の差はあれど、誰もが持っている性質であり、それが発露される時はだいたいにおいて個人が特定できない形で無秩序、無差別に放たれるもの。
それへ対処しようと力を振るっても、相手がはっきりとしないのだから、上手くいくはずがない。
そして、その性質が馬ドラゴンにも表れているのだ。
「ふんっ!」
とは言えだ。
今の馬ドラゴンは私とアイムさんへの攻撃と言う明確な目標を持った状態で動いている。
その状態で動いているならば、全体の流れを変える指揮官や顔役と言った部分は必要であり、それが私の抉りだした目玉の正体なのだろう。
で、そういう存在だからこそ、きちんと認識されてしまった個については、私でも握り潰せてしまうほどに弱いようだが。
「「ビビギャアァ!?」」
「流石はアイムさんね」
と、そんなことを考えている間に、アイムさんによって馬ドラゴンのドラゴン側の目が射貫かれ、破壊され、馬ドラゴンは痛みを訴えるような大きな鳴き声を上げつつその場に倒れ、姿を消す。
推測だが、どうやらアイムさんは相手の目を潰す事に特化した罠を利用する事で、馬ドラゴンの目だけを攻撃したのだろう。
流石の罠使いである。
「さて、これで種は割れた。後は幾つの核が相手に存在しているか次第ね」
私は念のために馬ドラゴンの核に触れていた右手をきちんと焼いておき、馬ドラゴンには絶対に寄生されていないと言う認識を共有させておく。
それと、アイムさんが攻撃しやすいようにと、ある程度地面に近づいておき、馬ドラゴンが絶対に通らなければいけない部分を制限しておく。
「「ブルルルグ……」」
「出てきた……」
馬ドラゴンがだいぶ離れた場所に姿を現した。
馬もドラゴンも目が一つずつ欠けており、欠けた目を補うかのように馬とドラゴンの胸元には赤い宝石のようなものが生じているようだった。
そして馬ドラゴンのドラゴン部分が持つ棒は刃が無くなっており、その先端は私に向けて真っ直ぐに向けられていた。
その姿に私は恐ろしく嫌な予感がした。
「『転移の呪い』」
だから私はほぼ反射的に準備していた『転移の呪い』を発動し、右手の甲の目の5メートル先に移動する。
「「グルガァ!!」」
「!?」
直後、馬ドラゴンの棒から爆発音とともに何かが発射され、先ほどまで私が居た場所を影しか追えない速さで何かが駆け抜けていき、闘技場の地面が轟音とともに抉られた。
「そう……竜騎兵だったわけね」
「「ブルル……」」
馬ドラゴンの持つ棒の先からは黒煙が上がっている。
その姿はどう見ても、銃を放った騎兵のようにしか見えない。
確かに銃を持った騎兵の事を竜騎兵と呼ぶが、まさかこの場面でそんなものを出してくるとは。
嫌な予感に従えてよかった。
威力も恐るべきものだが、馬ドラゴンの能力的に直撃したら追加の効果でどうなるか分かったものではない。
「精度と威力は言わずもがな。後は頻度の方だけど……あまり期待はしない方が良さそうね」
「「ルールルーブルルールルー……」」
私は呪詛の星を幾つも生み出すと、馬ドラゴンに向かって飛ばす。
馬ドラゴンへの攻撃はピンポイントで仕掛ける必要がある。
私の邪眼術を普通に撃った場合には相手の全身を対象として考えてしまう。
なので、この二つの要素の兼ね合い上、『呪法・増幅剣』、『呪法・貫通槍』、『呪法・破壊星』の使用が必須であり、だから呪詛の星を飛ばしたのだが……距離がある事もあって、馬ドラゴンは普通に避けていってしまう。
そして、こちらの攻撃を避けつつも、馬ドラゴンは棒をまるでバトンでも扱うかのように素早く右手で回転させ続けている。
恐らくだがアレがリロードの動作なのだろう。
で、当然ながらこちらに近づこうともせず、私が近づいても、同じだけ離れていく。
「「ブルルルググルガァ!!」」
「来た!」
馬ドラゴンが棒の先端を私に向けた。
それと同時に私は素早く横に跳んだ。
直後、先ほどと同じように、轟音と共に闘技場の地面が抉れた。
「面倒ね。でもさっきまでよりははるかに楽しいとは思えるわ。ふふっ、ふふふふふ……」
「「ブルル……」」
馬ドラゴンの持つ仕掛けの種は割れた。
だが、種が割れても、それらを組み合わせる事で未知を生み出している。
安全圏から一方的に攻撃したいだけの淀みではなく、何かしらの個が表に出てきてくれたおかげだろうか?
なんにせよ、戦闘開始時よりはよほど楽しい。
私はそう思いつつも、馬ドラゴンに攻撃を当てるべく、そしてアイムさんが仕掛けているであろう何かを発動させるべく、馬ドラゴンを追いかけ始めた。