837:バブルホールD-2
「「「グルアアァァッ!!」」」
「さて、色々と窺わないといけないわね」
「でチュね」
三体のドラゴンは体を覆う鱗の色がそれぞれ違っていた。
具体的には深緑、赤、鉄紺だ。
その三体の内、赤と鉄紺は私たちの方に突っ込んで来て、深緑は咆哮を上げてからその場で大きく息を吸い込む。
「ガアッ!」
「グルアッ!」
「『熱波の呪い』」
「チュアッッ!」
赤と鉄紺のドラゴンによる爪の振り下ろし攻撃を私とザリチュは難なく避ける。
そして、私は『熱波の呪い』発動後に呪詛の剣を二体のドラゴンの目に当て、ザリチュは赤のドラゴンの腕を切りつける。
結果は……ほぼ効果なし。
傷一つ付いていない。
「ボボボボボオオオォォ!!」
「む……」
「チュア……」
と、ここで深緑のドラゴンの口から、鱗と同色の炎が放たれる。
そして、その炎は単純な熱だけではなく毒を伴っているらしい。
炎に巻き込まれた赤と鉄紺のドラゴンには僅かかつ直ぐに治ってはいたが、毒の状態異常が入っていた。
で、深緑のドラゴンの炎のおかげで、赤と鉄紺のドラゴンの手が止まったので、その隙に鑑定を行ってみる。
△△△△△
毒竜 レベル40
HP:1,065,937/1,065,937
有効:なし
耐性:毒
▽▽▽▽▽
△△△△△
灼熱竜 レベル40
HP:1,072,332/1,072,362
有効:なし
耐性:灼熱
▽▽▽▽▽
△△△△△
暗闇竜 レベル40
HP:1,089,019/1,089,121
有効:なし
耐性:暗闇
▽▽▽▽▽
「カースじゃない!?」
「本物のドラゴンってことでチュか」
相手の名称は毒竜、灼熱竜、暗闇竜。
名称からして、私の『毒の邪眼・3』、『灼熱の邪眼・3』、『暗闇の邪眼・3』の影響を受けているのは間違いない。
だがそれよりも重要なのは、こいつらが竜呪ではなくただの竜であること。
つまり、地上ではまず遭遇しえない、それどころか呪限無でも会えるか怪しい本物の竜なのだ。
「「ボボボボボオオオォォ!!」」
と、私が驚いている間に灼熱竜と暗闇竜がそれぞれの鱗の色の炎を吐き出す。
距離が近く、狙いも正確であったため、完全に避ける事は出来なかった。
「これは……狩りがいがあるわねぇ……」
「あ、そうなるでチュよね。うん」
「「「!?」」」
が、私の邪眼術にこの竜たちが対応している以上、そのブレスの属性は火炎と呪詛。
故に私は呪詛支配も利用して、ダメージを抑える。
多少の状態異常も受けたが……いやぁ、そんなものがどうでもよくなるような素晴らしい未知が来た。
「ふふふふふ……」
「南無でチュ」
「「「グ、グオッ……」」」
竜、竜だ!
他のゲームでは散々狩ってきたが、それらのゲームでも純粋なドラゴンと言うのは割と珍しいというかエンドコンテンツ部類で気軽に戦えるようなものではないし、『CNP』では言うまでもなく初めて戦う相手。
果たして『CNP』ではどのようなアレンジや背景を加えているのだろうか?
どういう能力を持たせているのだろうか?
倒した後にはどのような素材を得られるだろうか?
肉は、爪は、鱗は、角は、翼は、目は、血は、心臓は、ブレスに関わる部位は、『CNP』のリアリティならば、きちんと描写してくれるに違いない。
ああ、どうしてか少し怯え始めているようにも見えるが、これは是非とも狩らなければいけない。
「『毒の邪眼・3』」
「「グオウッ!?」」
「ガウッ!?」
私は『呪法・感染蔓』を使って、三体の竜に『毒の邪眼・3』を撃ち込む。
深緑色の蔓が三体の竜に巻き付き、毒を与えていき、灼熱竜と暗闇竜には十分な毒が入った。
だが、毒竜には一切の毒が入らなかった。
なるほど、どうやら自分の持つものに対応する状態異常、それともしかしたら属性もだが、それに対して完全無効化能力を有しているらしい。
「グルオオオオォォ!」
「たるうぃ!」
「あら……タイミングが悪い」
と、ここで四体目のドラゴンが乱入してくる。
鱗の色はレモン色、気絶竜と言うところか。
そして気絶竜の背後には橙色の竜と紫色の竜も居た。
どうやら新手らしい。
「これは地道に戦うしかなさそうね」
「まあ、そうでチュよね」
「「「グルオオオォォォ!!」」」
六体の竜が一斉に襲い掛かってくる。
爪を振り下ろし、牙を剥き、尾を振るい、突進を仕掛け、ブレスを吐く。
私もザリチュも回避を第一にして動き回り、竜の攻撃後の僅かな隙を突くように、あるいは竜同士に同士討ちをさせたり、呪詛の鎖で竜の挙動を阻害することによって、少しずつ相手のHPを削り取っていく。
「『魅了の邪眼・3』」
「!?」
特に有効なのが『魅了の邪眼・3』だ。
耐性がないから簡単に入るし、私の味方として行動する竜の一撃は、他の竜に多大なダメージを与えてくれる。
他の竜の反撃と高い回復能力のせいで長くは効かないが、十分な成果を上げている。
やがて、一体二体と竜たちは倒れていき……。
「グルォ……」
「ふぅ、ようやくね」
「でチュね」
十数分に及ぶ激闘は私たちの勝利で終わった。
「さて回収して……」
「戦った感想はどうだったでチュ?」
「んー……雑魚竜だと特に何かと言うのはなさそうだったわね。完全無効化は厄介だと思ったけど」
私は直ぐに竜たちの死体を回収していく。
竜の死体ならば、使い道は幾らでもあるはずだ。
そして回収を終えると同時にこちらへとゆっくりと近づいてくるそれを見た。
「グ……ギ……ゴゴ……」
それは見た目だけならば、頭からユリ科の植物を生やしている毒竜だった。
だがその目は白目をむいているし、口からは深緑色の涎を垂らしていて、まるでゾンビのようにも思えた。
いや、ある意味では正しくゾンビ……使役者の意のままに動く死体なのかもしれない。
どう見ても頭の上のユリ科植物に操られているっぽいし。
「暗幕の梟呪のようなランダム枠ってやつでチュか?」
「そうなるでしょうね。まあ、相当厄介そうな気がするけど」
「ガダァァグリイイィィ!!」
そして、先の六体の竜の回収を終えた私たちは、きちんと休む暇もなく次の竜と戦う事になった。