832:チャムパレス-4
「此処が終点かしら?」
「それっぽいでチュねぇ」
素材屋を後にした私たちはその後も様々な店を巡っていく。
とはいえ、そろそろ時間もいいところだったので、装備品や体の色を呪いに影響せず変えられる染色屋のように気になる場所もあったが、ほぼ冷やかしな動きで見ていくことになったが。
で、大通りの最後にあったのは、他の建物よりも二階か三階ほど高い建物だった。
「此処は私の待機場所兼オイタをした方々を捕えておく監獄ですネ」
「へー。だったらお世話になる事はなさそうね」
「そんなァ。私に会いに来てもいいんですヨ?」
どうやら邪火太夫が普段詰めている場所らしい。
だったら、世話になる事はないだろう。
「行かないわよ。それより二点いいかしら?」
「なんですカ?」
「一つ、竜の遺骨で作られた塔と収奪の苔竜呪は何処? もう一つ、奥地に繋がるトンネルは何処? どちらも貴方なら把握しているはずよ」
「ああ、その事ですカ。では、案内させていただきますネ」
さて、大通りの最後までは来た。
だが、まだ見つけていないものが私たちにはあった。
なので、その二つが何処にあるのか邪火太夫に尋ねて、手っ取り早く見つけてしまう事にする。
「でしたら、二つともあの中ですヨ」
「はぁ……待機場所と監獄以外の役目があるじゃない……」
「相手が楼主様と言えど、表に出せない役目を尋ねられる前から答えるわけにはいきませン」
そして、その二つは終点の建物の中にあるようだった。
と言う訳で、私たちは邪火太夫の案内の下、建物の中に入り、入っているものが居ない監獄と武装した妓狼の竜呪の横を通り過ぎ、入り組んだ通路の先に隠されるように存在している扉を開ける。
「アレがここの塔と苔竜呪ですネ」
「「「……」」」
そうして何かしらのギミックを発動している竜骨塔とその竜骨塔に絡みついている収奪の苔竜呪が私たちの視界に入ってきたわけだが……。
「じだばぁ……」
「完全に寝てるわね……」
「やる気がないにも程があるでチュよ……」
「それでいいの、収奪の苔竜呪……」
「妓狼の竜呪さんたちと同じで、と言う事でしょうか……」
直径50メートルほどの空間の中央に竜骨塔と収奪の苔竜呪はあった。
竜骨塔は他の眼宮と違ってしっかりと組まれた立派なものであり、遠目には大きな灯篭のようにも見える。
竜骨塔に併設された台座には甘味とお香と言う捧げものも置かれているが、どちらも何日も放置されたものではなく、常日頃からきちんと手入れされているように見える。
で、竜骨塔の根元からは収奪の苔竜呪が顔を出しているのだが……葉も頭も床に横たえ、欠伸をしていて、完全にやる気がない。
「なんであんな事になっているの?」
「さア? 私にも分かりませン。あ、他と違って倒さなくても、トンネルには入れますヨ」
「本当にやる気がない……」
「あ、それと塔の方は便利なので壊さないでいただきたいでス」
「そう……」
どうやら此処の竜骨塔は壊さないでいいものらしい。
そして竜骨塔が壊さないでいいから、収奪の苔竜呪を倒す必要もないらしい。
だから、あんなにやる気のない状態のようだ。
それでもなお収奪の苔竜呪を倒すなら、あの魅了に関係のある収奪の苔竜呪の素材が欲しい場合になるのだろうけど……まあ、そうなれば、流石にやる気は出すと思う。
私に倒す気はないが。
「あ、タル様。他の方からの報告曰く、此処のギミックは呪詛濃度過多の無効化らしいです。なので本当に壊す必要はないかと」
「ああ、それなら本当に必要ないわね」
と、ここでストラスさんが魅了の眼宮の竜骨塔のギミックの内容について教えてくれた。
なるほど、それならば確かに壊す必要はないだろう。
この場で呪詛濃度過多になるとしたら、それは低異形度のプレイヤーぐらいなのだから。
「では続けてトンネルですネ。こちらでス」
私たちは竜骨塔の部屋を後にして、暫く道を戻り、それから分かりやすい位置にある扉を開く。
部屋のサイズは先ほどと同様。
違いは、部屋の中心に大きな穴が開いている事と、穴を囲むように武装した妓狼の竜呪たちが立っている。
ただし、彼女たちが向いているのは私たちの方ではなく、穴の先に向けてだ。
「何を警戒しているの?」
「奥地からやってくる竜呪たちですネ。滅多にある事ではありませんが、警戒しない理由にはなりませんのデ」
「……。つまり、ここのトンネルは最後の境界を抜けた後に、こちら側に帰ってくることが容易と言う事ね」
私たちはトンネルの中に入っていく。
そして、直ぐに気づく。
ここのトンネルは恐怖の眼宮のトンネルと違って、ところどころに円状の溝が入っていて、溝の内側を埋めている床が蓋になっているだけで、その先に空洞がありそうなことに。
「そうなりまス。それと、この先の空間の各地にある抜け道が此処に集合してもいるのでス」
「抜け道……」
「ショートカットと言う事でしょうか?」
「だったら奥地の攻略が少しだけ楽になりそうでチュねぇ……」
なるほど、ショートカットか。
それが本当なら、確かに少しは奥地の探索が楽になるかもしれない。
本当に少しだけだが。
「なるほどね。それじゃあ、この辺りで今日は切り上げましょうか」
私たちはトンネルの先に奥地が広がっていて、自由に出入り出来る事を確認すると、魅了の眼宮を後にし、他のメンバーと情報の共有をした後にログアウトをした。