831:チャムパレス-3
「次は此処ね」
「でチュね」
さて、武器屋を出た私たちは各種素材の加工屋、日常使いが出来そうな服を売る服屋、豪華な装飾付きの簪を売る専門店、魅了の眼宮に長期滞在する場合の申請を行うための役所などを見つつ、魅了の眼宮の奥へと向かっていく。
そして、新しい店の前に立って、中に入っていった。
「此処は素材屋ですヨ」
「素材屋ねぇ。鼠毒の竜呪の素材を売っていたりする……は?」
「えぇ、これは……」
「ザリア、ストラスさんどうしたの?」
店の中は閑散としていた。
店番の妓狼の竜呪もどことなくやる気がなさそうで、眠たそうにしている。
で、素材が入っているであろう陳列棚を見たザリアとストラスさんが何故か絶句しているようだった。
何か妙な素材でもあったのだろうか?
私も見てみよう。
「ああなるほど」
で、見て納得した。
そりゃあ、ザリアたちもああいう反応をするだろうと。
とは言えだ、見た目通りとは限らないし、もう少し調べてみるとしよう。
「店主さん、素材を鑑定してみても?」
「どうぞー……出来れば買って欲しいけどねー」
では、許可を貰えたので、『鑑定のルーペ』を陳列棚の中に入っていた、妓狼の竜呪の素材と言う札が付いているアイテムたちに向けてみるとしよう。
△△△△△
妓狼の竜呪の牙
レベル:40
耐久度:100/100
干渉力:135
浸食率:100/100
異形度:20
妓狼の竜呪の小さくも鋭い歯。
戦いに役立つかは分からないが、その美しさは多くのものを魅了するだろう。
この世ならざる存在である竜の歯は、見る者の多くを魅了する。
なお、本品は自然に抜け落ちたものであるため、含まれる呪いが薄い。
注意:異形度19以下のプレイヤーが鑑定すると、魅了(10)を与える。
注意:周囲の呪詛濃度が15以下の空間では存在できない。
▽▽▽▽▽
△△△△△
妓狼の竜呪の髪
レベル:40
耐久度:100/100
干渉力:135
浸食率:100/100
異形度:20
妓狼の竜呪の美しく滑らかな髪。
戦いに役立つかは分からないが、その美しさは多くのものを魅了するだろう。
この世ならざる存在である竜の髪は、見る者の多くを魅了する。
なお、本品は身だしなみを整えた際に自然と出たものであるため、含まれる呪いが薄い。
注意:異形度19以下のプレイヤーが鑑定すると、魅了(10)を与える。
注意:周囲の呪詛濃度が15以下の空間では存在できない。
▽▽▽▽▽
△△△△△
妓狼の竜呪の爪
レベル:40
耐久度:100/100
干渉力:135
浸食率:100/100
異形度:20
妓狼の竜呪の小さくもしっかりとした爪。
戦いに役立つかは分からないが、その美しさは多くのものを魅了するだろう。
この世ならざる存在である竜の爪は、見る者の多くを魅了する。
なお、本品は身だしなみを整えた際に自然と出たものであるため、含まれる呪いが薄い。
注意:異形度19以下のプレイヤーが鑑定すると、魅了(10)を与える。
注意:周囲の呪詛濃度が15以下の空間では存在できない。
▽▽▽▽▽
△△△△△
妓狼の竜呪の珠
レベル:40
耐久度:100/100
干渉力:140
浸食率:100/100
異形度:21
妓狼の竜呪が、自らの持つ呪いを凝集させて作り出す、桃色の球体。
戦いに役立つかは分からないが、その美しさ、柔らかさ、香りと言った諸要素は多くのものを魅了するだろう。
この世ならざる存在である竜の生成物は、見る者の多くを魅了する。
なお、本品は手習いの品として作られたものであるため、含まれる呪いが薄い。
注意:異形度19以下のプレイヤーが鑑定すると、魅了(50)を与える。
注意:周囲の呪詛濃度が19以下の空間では存在できない。
▽▽▽▽▽
「心配しなくてもザリアたちが思っているようなことはないみたいよ」
「そう、みたいね」
「良かったです」
「まあ、不安に思う気持ちは分かるでチュ」
どうやら此処で売られている妓狼の竜呪の素材は、妓狼の竜呪たちが人型であることを考えると少しだけ躊躇いを覚えるものの、持ち歩いていても特に問題はない品のようだ。
「楼主様、ちなみにですが、この街の中に居る彼女たちを傷つけても、これらの素材は手に入りませン。覚えておいてくださいネ」
「それは重要な話ね。ストラスさん、掲示板に挙げておいて」
「分かりました。直ぐに挙げておきます」
で、身だしなみのついでに出たものや手習いの品でないものを手に入れるためには、妓狼の竜呪の討伐以外の手法を取る必要があると。
まあ、どういう方法を取ればいいかはだいたい分かる。
「傷つけても手に入らないけど、親しくなれば手に入るのかしら?」
「はい、正解でス。楼主様がお望みならば、血でも肉でも私は喜んで差し上げますヨ」
「あ、邪火太夫のは要らないわ。なんとなくだけど、こっちが汚染されそうだから」
「そんなァ……楼主様が酷いでス」
はい、と言う訳で、ここでも好感度稼ぎが重要になるようだ。
そして、邪火太夫の言葉からして、十分に親しくなれば、血や肉も手に入る、と。
そう言えば、ここに来る前に寄った役所では身請けの類も出来るようだったし……。
うん、深くは突っ込まないでおこう。
「好感度を上げたら貰える素材……貰った当人にとっては都合のいい素材になりそうだけど、重たい感じになりそうよね」
「親しくなった妓狼の竜呪さんの髪や爪が入った装備品……そうですね、重いと思います」
「そもそも迂闊に加工に出すのも躊躇われそうでチュよね」
「そこはー……先に加工する人に会わせておけばー……いいんじゃないー?」
ザリアたちもその重さには気づいたようだが、それでも私は突っ込まないでおく。
「とりあえずこの珠だけ購入させてもらうわ」
「あ、折角だからー……私のを買っていってー……楼主様なら上手く使ってくれそうだしさー」
「……。分かったわ。こっちのが良さそうだし」
「まいどー」
とりあえず素材屋の店番を務める妓狼の竜呪が作った珠……指の長さぐらいの直径がある桃色の球体を購入した。
値段は他のものと変わらなかったが、手に取った時点で込められている呪いの量が鑑定したものよりも明らかに多い品だった。
明らかに手習いではないが、それがあっさりと買えてしまったのは楼主様補正なのだろうか……。
「パクリ」
≪呪い『劣竜式呪詛構造体』がアップデートされました≫
「おー」
まあいい、購入した目的はとっとと果たしてしまおう。
と言う訳で、私は妓狼の竜呪の珠を口の中に運び、丸呑みした。
珠そのものには味はなかったが、この香りと柔らかさは悪くなかった。
味のない餅と言うか、柔らかいが甘くない飴と言うか……なんにせよ悪くはない。
で、こうする事で呪いを取り込み、『劣竜式呪詛構造体』をアップデートした。
これで食べた竜呪は8種類と言えるはず。
1つ目の鼠毒の竜呪で『劣竜式呪詛構造体』を取得し、5つ目の暗梟の竜呪で目に見えて強化されたことを考えると、きっと次で再び目に見えるレベルでの強化が為されるはずである。
「普通に食べたわね」
「普通に食べましたね」
「たるうぃならいつもの事でチュよ」
「ううっ、悔しいでス」
「どやー」
「爪や髪の毛を食べるよりは健全だと思うのよ。さ、次に行きましょうか」
では素材屋での目的は果たしたので、次に行くとしよう。
なお、これは余談になるが、他の竜呪の素材も割高、私が自分で解体するよりも低品質、数量限定ではあったが、一応売られていた。
02/20誤字訂正