827:タルウィチャム・3・3rd-4
本日は五話更新になります。
こちらは四話目です。
「随分と容赦がないな。『虹霓竜瞳の不老不死呪』タル」
「敵である時点で容赦をする理由がないのに、つまらない事を邪火太夫がしたからよ」
邪火太夫を包み込んでいた虹色の炎が消え、邪火太夫の姿も消え去った。
『悪創の偽神呪』が話しかけてくるが、それでも念のために周囲へ注意を払い、どこから邪火太夫が仕掛けてきてもいいように備えておく。
私のそんな姿を見たからだろう。
他のプレイヤーたちも警戒を続けている。
「そんなに心配しなくても、これで試練は終わりだ。安心しろ」
「安心したいけれど、あのレベルでつまらない振る舞いをした邪火太夫が相手だから、安心できないのよ。それこそ、『悪創の偽神呪』が試練には手を出せないのをいいことに、『悪創の偽神呪』の姿を騙るぐらいはしそうだし」
「確かにその行為の否定は出来ないな。アレの性格の悪さなら、それはしてもおかしくはない」
そして『悪創の偽神呪』も私の言葉を認めたと。
うん、疑心暗鬼に陥っているという自覚はあるが、そういうつまらない真似もしてくると分かってしまったのだから、仕方がない。
「いや、流石にそんな事はしませんヨ」
「ふんっ!」
と、ここで邪火太夫が傷一つない姿で現れたので、とりあえず呪詛の鎖で全身を絡め捕り、口を塞ぎ、逆さ吊りにする。
「ーーーーー!?」
「自業自得だな」
「自業自得ね」
「まあ、自業自得でチュよね」
「自業自得ですね」
「……。自業自得だ」
「ヒャッハー! スクショもしておけぇ!!」
「自業自得」
「満場一致の自業自得ですね」
「当然の結果だろう。これまでがこれまでだからな」
「そうですね。こういう扱いも当然の事です」
邪火太夫が何か言おうとしているが、『悪創の偽神呪』を含めた全員が自業自得と言う見解で一致したため、私は呪詛の鎖を緩めないし、他のプレイヤーたちも最大火力を叩き込めるように準備をしている。
「収拾がつかないから、私が宣言しよう。『虹霓竜瞳の不老不死呪』タル、貴様の試練は合格だ」
≪呪術『魅了の邪眼・3』を習得しました≫
「あっ、習得アナウンスが入ったわ」
「併せて、この場に居るものには褒美が渡される。元居た場所に戻った後に渡すから、各自注意書きに従った上で受け取るように」
「「「おおっ!」」」
『悪創の偽神呪』の言葉にようやく攻略成功がはっきりとして、それにより私たちの肩から力が抜け、歓喜の声が上がる。
なお、肩の力は抜けたが、邪火太夫を吊り上げる鎖はむしろ締まっている。
「さて、これは確認だが、『虹霓竜瞳の不老不死呪』タル。お前は最後の部分で、何故あそこまで苛烈に攻め上げた?」
「何故と言われても……そうね。邪火太夫は最後の方で私の事を楼主様候補ではなく、楼主様と呼んでいるのよ。あの時点で邪火太夫は内心で私の事を認めていたと思うのよ」
「ほう」
「それでまあ、私の事を認めて、試練があの時点で終了となるべきであったとしても、それでもなお邪火太夫が私と遊びたいというのなら、仕掛けてくる攻撃次第では受け入れようとは思っていたのよね。見たことがない攻撃の類があれば、私はそれを見たかったから」
「実にたるうぃな意見でチュねぇ」
「だと言うのに……」
私は逆さ吊りになっている邪火太夫へと目を向ける。
私の様子に何かを察したのか、他のプレイヤーたちは半歩ほど引くが、私はそれを無視して邪火太夫に近づいていく。
「出してきたのが、これまでの攻撃のマイナーチェンジのようなもの? そんなつまらないものを見るために割く私の時間は無いのよ! 出すなら新しい攻撃を出しなさい! 見たことがない攻撃を出しなさい! アンタのスペックならそれぐらいは出来る筈でしょうが! 出し惜しみしているんじゃないわよ!」
「なるほどな。実に貴様らしい経緯だ」
「「「……」」」
「本当にたるうぃでちゅねぇ……」
「ーーー!?」
で、とりあえずネツミテをフルスイングして、邪火太夫を一発引っ叩いておいた。
酷い? これまでの経緯が経緯なので、これぐらいは許してもらいたい。
「待って、楼主様待って。このアバターにはそこまでのスペックはないのですヨ」
あ、口部分の鎖が解除されたか。
「だったら本体の下で作り直してきなさい!」
「あああぁぁぁーーー……」
じゃあ、闘技場の外に届くように投げておこう。
これまでの私ではこの闘技場の外にまで相手を投げ飛ばすことは、物理的にも呪いの強度的にも出来なかったが、『竜活の呪い』発動中の私ならば、そう難しい事ではないのだから。
と言う訳で、邪火太夫は闘技場の外にまで飛ばした。
「いつの間にかタルさんの理不尽さが上がっている件について」
「まあ、アレは時間制限付きだそうですから」
「それに力を行使している相手が相手だし、問題はないだろう」
「どう見ても戻ってくるパターンだったしなぁ」
「まあ、私たちは報酬が貰えるならそれで問題ないと思いましょう」
さて、そろそろ試練終了で元の世界に戻る頃合いだろうか?
というかこれで帰れないなら、最初の方に言った話を真面目に検証する必要が出てきてしまうのだが?
「心配せずともこれで終わりだ。確認するべき事も確認出来たからな。ただ……」
「ただ?」
「言質を取られたのは迂闊だったな『虹霓竜瞳の不老不死呪』タル」
「はい?」
「では、時間だ」
「えっ、それはどういう……」
そうして私たちは元の世界に戻されたのだった。