826:タルウィチャム・3・3rd-3
本日は五話更新になります。
こちらは三話目です。
「さあ! 道は指し示したわ! 貴方たちの力を私に見せなさい!!」
「「「!?」」」
「あらあラ」
屋敷巨人の絶叫が途絶えると同時に、私は声を張り上げ、錫杖形態にしたネツミテの先端を屋敷巨人の胸に向ける。
そして、この場に居るプレイヤーにとってはこれだけで十分な指示になった。
「プレイヤーを二班に分けます! 何かしらの足止め手段を持っているプレイヤーは外で! そうでないプレイヤーは敵の数が十分に減ったと判断出来たタイミングで突入します!」
「ヒャッハー! 拘束だ! 拘束しろ!! 倒すんじゃねぇぞ!!」
「敵をまとめろ! それから範囲状態異常だ!!」
ストラスさん、ザリア分隊の隊長、私が見知らぬプレイヤー、彼らの言葉を受けて、プレイヤーの動きが変わった。
一部が突破力を高めるための準備をする中で、それ以外のプレイヤーは小型カースたちを倒さずに吹き飛ばし、複数の狭い領域にまとめていく。
すると小型カースたちはお互いの体を踏みつけ合い、体をぶつけ合い、まともに身動きを取ることが出来なくなっていくと共に、同時に戦える数が制限されることによって、その数を生かすことが出来なくなっていく。
「やれ! 今だ!」
「仕掛けます! フリーズサークル!!」
「『CNP』のデバッファーがタルだけじゃないってのを教えてやるよぉ!!」
「まさか此処に来て倒さないが正着とはな!」
そこへ周囲から攻撃が降り注ぐ。
だがそれは小型カースを倒すための攻撃ではなく、妨害を主としたもの。
ある集団に対しては冷気による凍結が行われ、身震い一つ取れなくなった。
ある集団に対しては鋼鉄の檻と柵が張り巡らされ、その場に拘束された。
ある集団に対しては地面から無数の蔓が生え、同じく蔓で出来ている小型カースたちの体に絡み合う事で、地面に縫い付けていく。
ある集団に対しては何かしらの粉のようなものが振りかけられて、不意に動きが止まる。
ある集団に対しては集団全体に及ぶように小波のエフェクトが出現して、小型カースたちが倒れていく。
ある集団に対しては光が降り注ぎ、すると小型カースたちは何かに怯えるように震えながら、その動きを止めた。
私の知らない、あるいは扱えない状態異常が幾重にも降り注ぎ、小型カースたちの動きが止まっていく。
「突入!」
「……。蹴散らすぞ!!」
「目指すはタルが剣をぶっ刺した辺りだ!」
「敵の数がこれだけ減っているなら、ごり押し万歳だぁ!!」
小型カースたちの動きが止まると同時に、屋敷巨人の中に選抜されたプレイヤーたちが突入していく。
勿論、動きが止まっていない小型カースたちも居る。
だが、先ほどまでと比べて明らかに数が減っているため、突入部隊の足は止まらない。
最低限の労力で立ち塞がる相手を蹴散らし、奥へと進んでいくのが、突入メンバーに選ばれたロックオが拾っておいてくれた眼球ゴーレムから伝わってくる。
「ふふふ、素晴らしいですね。楼主候補様。では、ご褒美をあげまス」
「「「!?」」」
邪火太夫が立ち上がるのが見えた。
視線の先に居るのは……私か!?
「『転移の呪い』」
邪火太夫の姿が消え、次の瞬間には腕を広げた姿で私の目の前に現れていた。
そのタイミングで私はトテロリにずっと準備だけはさせていた『転移の呪い』を発動する。
「あラ?」
移動した先は私の足の甲にある目から5メートル先。
つまりは、斜め前上方に転移した。
結果、邪火太夫の腕は空振り、さらには私の姿を見失った。
「ふんっ!」
「っウ!?」
そして、転移完了直後に私はその場で体を前に倒し、上下逆さまの状態となりつつも、体の向きを反転。
その状態のままドゴストの側面を叩き、動作キーによる『竜息の呪い』を発動。
射出された恐羊の竜呪の牙は私の呪憲も纏いつつ真っすぐに飛んで、邪火太夫の背中を打ち据える。
隙だらけの背中に、私の呪憲付きの攻撃は流石にノーダメージとはいかなかったのだろう。
邪火太夫は少しだけだが仰け反り、空中で何回転かした後に、こちらの方を向くように宙に立つ。
「「「ーーーーー!?」」」
と、ここで突入部隊が屋敷巨人の核のような部分を傷つける事に成功したらしい。
屋敷巨人も小型カースたちも断末魔の叫びのようなものを上げながら、崩れ落ちていく。
突入部隊は……うん、眼球ゴーレムの視界を見る限りでは無事なようだ。
「ふふふ、楼主候補様はつれないですネ」
「私はそう言うのに興味はないのよ」
さて、屋敷巨人と小型カースは退けた。
私に対する評価も悪くなさそう。
邪火太夫にとってはジャブにもなっていないかもしれないが、一撃見舞う事にも成功した。
その状態で、私に向かって意味深な笑みを浮かべる、か。
次の段階に移行するのか、それとももう一度屋敷巨人を出現させるか、あるいは他プレイヤーを魅了する戦術に戻るか……どう来る?
「あら、楼主候補様は未知をお望みではないのですか? これもまた未知ですヨ?」
「いいえ、そんなものは既知よ。強大な敵によって自分あるいは味方が操られて酷い目に合うなんて、古今東西に多くの話があるもの」
「「「……」」」
会話ときたか。
これは難しい。
唐突に戦闘が再開される可能性もあるから、一切の油断と不注意をしないまま、言葉を紡いでいくしかない。
これで終わりでないなら、とりあえず眼下のプレイヤーたちの立て直しが完了するまでは長引かせたいところだが……。
さてどうなる?
「本当につれないですね。こんなにも魅力的な一時を与えているのニ」
「魅力的? 何処が? 悪いけど、魅力的かどうかも、未知であるかどうかも、私が定めるものよ。貴方に何かを言われる筋合いはないわ」
「ふふふ、そうですか。では、楼主様が見たことがないであろうこれで終いにしましょうカ」
そう言うと邪火太夫の姿が消える。
そして代わりに現れたのは……。
「「ーーーーー!!」」
「「「!?」」」
火酒果香の葡萄呪と千支万香の灌木呪を絡ませ合って作ったように見える、巨大な双頭の狼、植物で出来たオルトロスとも言うべきものだった。
その姿に他のプレイヤーたちは恐れ戦き、どうすればいいのかと怯む。
だが私にしてみればだ。
「ああ゛んっ?」
「チュアッ!?」
「「!?」」
それは一目で見掛け倒しだと分かるものであり、本当につまらないものだった。
だってそうでしょう?
頭が二つある程度の異形など腐るほど見てきたし、動物を植物で作っているのももう見たこと。
呪詛の濃度と堅牢さからして急造なのも見て取れるし、誇れるものと言えば耐久ぐらいだろう。
だから動作キーで『竜息の呪い』を発動し、昨日作ったカートリッジをブレスにして、『灼熱の邪眼・3』によって火をつけ、一瞬で吹き飛ばした。
その上でだ。
「さす……ブッ!?」
「本当につまらないわよ。邪火太夫」
ブレスを放って隙だらけになったように見える私に組み付こうと、虚空から邪火太夫が現れる。
私はそれを予期していたので、邪火太夫が私に触れるよりも早く、ネツミテの呪詛の紐を操り、絡みつかせ、ネツミテを振るう事で邪火太夫を地面に叩きつける。
その上でだ。
「どうせ本体じゃないんでしょうけど。本体じゃないからこそ、切断してあげるわ」
「!?」
呪憲によるルール無視によって『交信の大呪』の力をこの場に招き入れ、『交信-選別』を含んだ呪詛の剣を邪火太夫の胸部に突き刺し、邪火太夫がこの場に居るために必要だったであろう何かを粉砕。
邪火太夫は虹色の炎に包まれて燃え上がった。




