825:タルウィチャム・3・3rd-2
本日は五話更新になります。
こちらは二話目です。
「『竜活の呪い』発動」
「では、開始だ」
私が『竜活の呪い』を発動、変身する。
同時に私の眼前に『悪創の偽神呪』が呪詛を集め、それを取り囲むようにシロホワ、ロックオ、ライトローズさん、エギアズ・1と言った面々が動き、戦闘の準備を進めていく。
「同じ展開ではつまらないと思うのですヨ」
「「「!?」」」
邪火太夫の声が聞こえた。
ただし、『悪創の偽神呪』が集めた呪詛の中からではなく、私の背後側の上空、恐らくは全方位を見ている私以外には誰も目をやっていなかったであろう位置だ。
そして、一切の前触れなく、腕を振り下ろそうとしている火酒果香の葡萄呪操る屋敷巨人のカースの姿が現れ、合わせて千支万香の灌木呪の影響を受けた無数の小型カースたちが屋敷巨人の中から出現し始めている。
うん、今から対応したのでは、絶対に間に合わない。
屋敷巨人のカースの攻撃は直撃したプレイヤーに致命的なダメージを与え、小型カースたちによって戦線は致命的に乱される事だろう。
「そうね。私もそう思うわ。『選択する呪い』、『熱波の呪い』」
「「「!?」」」
「おおっ、流石は楼主様候補でス」
が、邪火太夫の性格の悪さまで含めて考えれば、この程度では不意打ちでもなんでもない。
と言う訳で、私は『呪憲・瘴熱満ちる宇宙』を混ぜ込む形で呪詛を操り、幾つかの行為を同時に行う。
攻撃的な呪憲を混ぜた呪詛の鎖によって、屋敷巨人の腕の動きを完全停止させる。
同じく攻撃的な呪憲を混ぜた呪詛の嵐によって、僅かな時間ではあるが小型カースの動きを止める。
防御的な呪憲を私、ザリチュ、シロホワたちに対して展開することによって、邪火太夫たちから飛んでくる呪憲を防御する。
そして、金属同士をこすり合わせ、ガラスが割れるような音を伴いつつも、私の目論見は全て達せられた。
「総員、再展開急げ!」
「前回までの俺たちとは違うところを見せろ!」
「ヒャッハー! やってやるぜぇ!!」
「ふふふ、そうでなくてハ」
思考が冴えていく感覚がある。
私が『噴毒の華塔呪』と『瘴弦の奏基呪』を展開する中、プレイヤーたちが淀みなく動き回り、陣形を整え、遠距離攻撃から始めていく。
いや違う、こちらが本来であって、これまでの二戦の方がおかしかったのか。
推測されていた通り、邪火太夫の能力によって、私たちの思考にバイアスの類がかかっていたのだろう。
「ですが、これでようやく戦いになるだけですヨ」
「ええ、そうでしょうね。そうでしょうとも。『淀縛の邪眼・2』」
「ーーーーー!?」
「屋敷巨人の方が可哀そうになっているでチュね……」
そしてこの程度では邪火太夫は満足しない、と。
まあ、それならば、屋敷巨人の頭上よりもさらに上の空間、そこでこちらを眺めつつ寛いでいる邪火太夫をどうにかして引きずり下ろすとしよう。
なので、その前段階として屋敷巨人の全身を鎖で絡め捕ると同時に、『呪法・貫通槍』を乗せた伏呪付きの『淀縛の邪眼・2』を叩き込んで、動きを封じ込む。
「「「ーーーーー!」」」
「戦列を乱すな! 突っ込んできたやつから順番に対処しろ!」
「抜けてきた奴は囲んで叩きなさい! スペックはそこまで高くないわ!」
「回復と支援を切らさないように! 声かけを欠かさないでください!」
小型カースたちとプレイヤーたちの戦闘は……拮抗を保っているか。
いや、少しずつ押してもいるか?
うーん、小型カースを倒せば倒すほど屋敷巨人の中から出てくるせいで、強制的に拮抗にされている気もする。
それと、その湧き出しのせいで、一部プレイヤーによる屋敷巨人の中への侵入が出来ていないようだ。
少し試すか。
「宣言する。千支万香の灌木呪の影響下にあるカースたち、貴方たちを心の底から靡かせてあげる。esipsed『魅了の邪眼・1』」
「「「!?」」」
『呪法・感染蔓』を含む各種呪法を乗せた『魅了の邪眼・1』によって、小型カースたちに二桁程度のスタック値かつ急速に減っていくが、魅了(畏怖)が入っていく。
「これは……」
「まさか……」
「気づきましたネ」
そして、こちらに魅了されている相手をわざわざ攻撃する必要もない、攻撃するならば魅了が解けてからでいいと、プレイヤーたちの攻撃ペースが落ちた。
すると、攻撃ペースの低下と同時に、屋敷巨人から小型カースが出てくるペースも落ちた。
これで察せられないほど、この場にいるプレイヤーの察しは悪くない。
つまり、小型カースは倒したら倒した分だけ、復活するカースだったという事だ。
「さあ、受け入れなさい」
「タル様!?」
「タルさん!?」
「……!?」
だが、そこで思考を止めてはいけない。
もう一歩踏み込むべきだ。
だから私は最も近くに居た小型カース……兎型のそれに向かって急降下し、拳を振り上げる。
そして、周囲が唖然とする中で拳を振り下ろし……
「『虹霓外の瞳』! からの……」
「チュラッハァ!」
「!?」
拳が触れたタイミングで『虹霓外の瞳』を小型カースに付与。
直後に私の意図を察したザリチュが小型カースの首を刎ねて撃破。
「……。そこか」
「なるほど、こういう使い方があるんでチュねぇ」
撃破されたカースは、普通ならそこで終わりであり、『虹霓外の瞳』も解除される。
だが、『虹霓外の瞳』は解除されなかった。
それどころか、茨で構築された屋敷の一室が私の新たな視界に映り込んだ。
それはつまり、撃破された小型カースが本当にそのままリポップしているという事である。
「見つけたわよ」
「あら、怖いですネ」
「!?」
だからこそ、私の視界に映ったもの……私たちの姿の見え具合から推定される屋敷巨人内の位置と、その部屋の中で脈打っていた赤い果実のようなものは重要になる。
「ふんっ!」
「ーーーーー!?」
「「「!?」」」
小型カースに付与した『虹霓外の瞳』が私の意思以外の理由で解除されると同時に、私は攻撃的呪憲と呪詛を練り上げて作った長さ100メートル近い呪詛の剣を、屋敷巨人の胸に突き立てた。
私の攻撃を受けた屋敷巨人は……闘技場全体に響くように絶叫した。




