824:タルウィチャム・3・3rd-1
本日は5話更新になります。
こちらは1話目です。
「アレは無理」
「ですよねー」
「でっチュよねー」
翌日水曜日。
ログインすると直ぐに『虹霓外の瞳』を付けたザリアから連絡があった。
と言う訳で、『虹霓外の瞳』を解除した上で感想を述べてもらったのだが……。
「タルがログインしていない時でも気配と言うかなんというか、とにかく不穏な感じが常に後頭部の辺りにあるのよね。で、タルがログインすると、タルの目だとは思えないほどにねっとりとした感じの視線が纏わりついて……正直なところ気持ち悪いのよ。私は出元が分かっているから大丈夫だったけど、NPCだと気が狂う事もあるんじゃないかしら……」
「まあ、そうよねぇ」
「ざりちゅも不快だったでチュからねぇ……」
うん、極めて不評だったらしい。
この感じだと、『劣竜瞳』で一応は援護が可能と言っても、受け入れてくれるプレイヤーは居なさそうだ。
かと言ってゼンゼのような敵対的なプレイヤーに使えばいいかと言われると……ゼンゼだと私のログイン状態を確かめる事とかに利用されるだけな気がする。
うーん、使い道が難しい。
「それでタル。今日はどうするの? 私たちはタルが許してくれれば、気絶の眼宮に居る収奪の苔竜呪討伐を目指すつもりなんだけど」
「そうね……気絶の眼宮攻略は私としてはむしろやって欲しいからいいとして、ここ数日放置していた邪火太夫に挑もうとは思っているわ。予定は今から20分後くらい」
それはそれとして、今日の予定はまず邪火太夫を倒して『魅了の邪眼・3』習得を狙うつもりである。
少し放置してしまったせいで、機嫌を損ねていそうだし。
「……。そう、頑張って」
「あら、呼ばれると思ってないの?」
「これまでに呼ばれていないなら今回も呼ばれないと思うわ。タルとの関係的にも」
「ああ、ざりあだったら、どこか別の機会に呼ばれそうでチュよね。ぶらくろ、あいむ、すくな辺りもそんな予感がするでチュ」
ザリアは別の機会に呼ばれる、か。
まあ、確かにありそうではある。
ザリア自身の能力的には……『出血の邪眼・3』の時とかありそうな気がする。
ブラクロ、I'mBoxさん、スクナも実力的に何時呼ばれてもおかしくなさそうだし。
だが選定は『悪創の偽神呪』なので、実際にどうなるかは、あちら次第だろう。
「じゃ、ザリアは頑張ってね」
「ええ、頑張ってくるわ」
邪火太夫の後は……成功なら解放される魅了の眼宮探索、そうでないなら『泡沫の大穴』探索だろうか。
「ザリチュ」
「分かっているでチュよ」
ま、今は目の前に集中するべきだし、そのために必要な準備を進めよう。
と言う訳で、私は掲示板に書き込みをしてから、邪火太夫に対応するための準備を進めていく。
そして20分ちょっと経った。
「では、挑みましょうか」
「でチュね」
『死退灰帰』とブースターを服用、素の異形度を32にまで上昇させる。
それから呪術『魅了の邪眼・3』のスープを飲む。
すると直ぐに私とザリチュの周囲に格子が出現し、地面の中へと沈んでいった。
「来たか。あれが暇を持て余している事にして、ふざけていたぞ」
「暇を持て余してじゃないのね……」
「実際のところ、私たちの中で最も余裕がないはずなのだが……まあ、役目は果たしているから問題はないのだろう」
いつもの闘技場に到着。
『悪創の偽神呪』が話しかけてくる。
その内容を真面目に考えるなら、邪火太夫の役目は偽神呪たちの中で最も忙しい、と言う事になるのだろうか。
……。
地味に攻略上の大ヒントなのでは?
いやと言うかだ。
「忙しいねぇ……」
「ああ、忙しいはずだ。特に今は」
「今は特にねぇ……」
私はシロホワたちがやってくる間に今の言葉について考える。
偽神呪は『CNP』と言うゲームの各種システムに関わっている存在のはず。
現に『悪創の偽神呪』なら巻き戻しと『悪創』と言うペナルティに関わっているし、今この場にいる事から呪術の習得回りもたぶん担当だ。
仮称裁定の偽神呪ならば『鑑定のルーペ』と『理法揺凝の呪海』が担当範囲で、そこから考えるとマップや転移も担当か近いところだろう。
銀髪メイド服白衣と、黒一色輪郭不明も、何かしらの役目は担っているはず。
となれば、邪火太夫もそれは同様。
「うーん……」
邪火太夫は女悪魔ジャヒーが混ざっている。
戦闘スタイルはこちらの魅了、呪憲と思しきものによる攻撃、悪魔のタルウィとザリチュを元にしたであろう植物型カースの召喚あるいは生成。
女としての能力を生かしている……と考えるのが妥当なのだろうか?
「うわっ、本当にタルだ……」
「本当にタルの試練なんだな……」
「PVで見たまんまの姿だ……」
PV? ああ、第五回イベントの出来事を運営が撮影していたのか……ん? PV? 忙しい? 今だけ? 女……いや、母親?
『交信の大呪』の管轄範囲も併せて考えると……なるほど、そういう事か。
「ああ、そういう事」
「何がそういう事なんでチュか?」
「禁則事項で話せないことが増えただけよ」
「じゃあ聞きたくないでチュ」
試練の手助けになるかは分からない。
けれど邪火太夫の正体と言うか、役目についてはたぶん掴めた。
邪火太夫は母なのだ。
それも全てのプレイヤーの。
キャラメイキングが邪火太夫と言う偽神呪の管轄範囲なのだ。
「さて、人数は十分に集まった。『虹霓竜瞳の不老不死呪』タル、貴様の行動開始と同時に始めてやろう」
「分かったわ」
だとすれば、今挑むなら誤差のレベルではあるが、こちらにとって有利かもしれない。
私はそう思いつつ、残り僅かとなった凧形二十四面体の蛋白石を手にした。




