821:ユーズオパール-5
「えーと、『虹霓鏡宮の呪界』の鏡扉除け。これを基にしましょうか」
「大丈夫なんでチュか?」
「たぶん大丈夫よ」
私は自分の腰から『虹霓鏡宮の呪界』の鏡扉除けを外して作業台に乗せる。
で、ここに私の森で回収した黒虹のレンズ、後は虹の螺旋も使おうか。
「渇猿の竜呪の素材は……無理に使う必要はないでチュか。他の竜呪の素材もでチュが」
「そうね。使う必要はないわ」
私は三つの素材を並べてみる。
うん、これでは私が目的としている呪憲の制御を補助する装飾品を作るのは厳しいと思う。
鏡扉除けは私の血も使って作っているので、私との親和性はそれなり。
虹の螺旋と黒虹のレンズも親和性と言う意味では悪くないし、私の『呪憲・瘴熱満ちる宇宙』とも関わりがあって、悪くはないだろう。
しかしこれだけでは、呪憲を制御するという部分に関わりのある素材が足りていない。
だから、何かが欲しいのだ。
「私の角をちょっと削りましょうか」
「チュ? えっ、たるうぃ、今何を言ったのか、よく分からなかったんでチュが……」
「『風化-排斥』と『交信-選別』を使い、安全を確保した上で、私の角を削った粉を回収します」
うん、私の角、『劣竜式呪詛構造体』の劣竜角を削って、素材にしてしまおう。
「たるうぃぃぃ!? 呪詛制御能力に問題が起きたらと言うか、恒常的な問題の類が発生したらどうするんでチュかぁ!?」
「大丈夫大丈夫。血と一緒で回復するわ」
「大丈夫な気がしないんでチュけどぉ!?」
と言う訳で、私は自分の角を削り、その粉を回収していく。
なお、腕ゴーレムの高速回転を利用して角を削ったのだが、頭が震える感じはしたが、痛みは特になかった。
「さて組み立てるわよー」
「……」
で、削った角が元に戻ったところで作業開始。
鏡扉除けの眼球部分に私の角の粉をかけ、その粉を密封するように黒虹のレンズを被せ、虹の螺旋を縫い付ける事で固定。
最後に『暗闇の邪眼・3』によって距離を離した場所に発生させた虹色にして漆黒の炎の熱で、ほんの少しだけ焙り、固定を強める。
では、呪怨台に乗せよう。
「……」
虹色の呪詛の霧が集まる。
『呪憲・瘴熱満ちる宇宙』の制御に役立つようになることを願って念じる。
そして呪詛の霧が晴れた。
「出来上がったわね」
「みたいでチュね」
呪怨台に乗っているのは、側面から翼の生えた真っ黒な眼球。
だが、見る角度を少し変えれば、眼球部分が虹色に輝いているようにも見える。
感覚的にカースと化しているのは分かるがさて……。
まあ、まずは鑑定しよう。
△△△△△
『虹憑きの根付呪』ニネナナ
レベル:着用者のレベルと同じ
耐久度:100/100
干渉力:着用者の干渉力と同じ
浸食率:100/100
異形度:25
『虹霓竜瞳の不老不死呪』タルが作成したアクセサリーのような何か。
この世ならざる者に通じる気配を漂わせており、正当な所有者以外が着用すれば、恐ろしい呪いに襲われる事だろう。
暗闇完全無効化。
着用者が『虹霓鏡宮の呪界』の鏡の扉を通り抜ける際に照射される邪眼の効果を無効化する。
着用者の呪憲の制御能力を大幅に向上させる。
周囲の呪詛濃度に応じて強度が向上する。
周囲の呪詛、エネルギーの一部を吸収する事で耐久度が回復する。
耐久度が0になっても、一定時間経過後に復活する。
自己意思こそないが、呪いの塊であるその身は幾つかの呪術を習得しており、装備者がトリガーを引くことで使用が可能。
『選択する呪い』『虹霓外の瞳』
注意:この装飾品をタル以外が着用した場合、1秒ごとに毒(10)、灼熱(10)、気絶(10)、恐怖(10)のいずれかを付与する。
注意:異形度19以下のプレイヤーが鑑定すると、毒(100)、灼熱(100)、気絶(100)、恐怖(100)を与える。
注意:着用中、浄化属性を利用した状態異常に対する耐性が低下する。
注意:無効化される鏡の扉は、内部でカースを倒した眼宮に限られる。
注意:一度無効化したら、3分間無効化は出来ない。
▽▽▽▽▽
「うん、問題なさそうね」
「問題……ないんでチュかね?」
「このくらいなら問題なしよ」
私は『虹憑きの根付呪』ニネナナを腰に着ける。
と同時に私の呪憲へニネナナが干渉をしてこようとしてきたので、その方向性を調整し、私に従う方向で従えていく。
で、落ち着いたところで改めて確認するべきことを確認する。
「さて、浄化属性を利用した状態異常の耐性低下ねぇ……」
「呪術を一時的に使えなくするとか、呪詛の操作が出来なくなるとか、そういう状態異常が確認されているようでチュよ」
「受けたら致命傷ね。受けたらだけど」
「でチュね」
デメリットはまあいいか。
位置的には他の装備で言うところの防御不可のようだけれど、私は元々浄化属性に弱いので、どの道である。
「呪憲の制御は……確かにやりやすくなっているわね」
「それはいいことでチュ」
目的である『呪憲・瘴熱満ちる宇宙』の制御はやりやすくなっている。
どの程度効果があるかは分からないが、敵対的な呪憲への対処もしやすくなるだろう。
「で、『選択する呪い』と『虹霓外の瞳』ねぇ……なんとなくだけどヤバい予感がするわね」
「あ、これは本当にヤバい奴でチュね」
最後に気にするべきは『選択する呪い』と『虹霓外の瞳』か。
ドロシヒやネツミテとは全く命名法則が違う名前。
そして、『選択する呪い』の読みは『無差別の祝福』の逆さ読みだが、『虹霓外の瞳』は普通の読み。
敢えてこうなっているとしたら……厄介な何かが潜んでいるかもしれない。
トテロリの呪術と合わせて、じっくり検証していくとしよう。




