817:ユーズオパール-1
「ログインっと」
「あ、来たでチュか」
火曜日。
私はいつものように『CNP』にログインした。
「で、たるうぃ、昨日のアレは何だったんでチュか?」
「アレ?」
「別人の姿になっていたことでチュ。いや、他にも聖女とのやり取り中に急に姿が消えた事とか、色々と気になる事はあるんでチュが、まずはあの変身でチュ」
「ああ、その事」
で、ザリチュから質問をされたので、私は自分を構成する呪いを弄って姿を変えてみせる。
つまり、6枚の虫の翅、11個の目、2本の角を消し去り、浮いている体は地上に降り、虹色の瞳は黒く、髪の色もオレンジから黒になった上で腰まで伸びていき、肌の色もリアルの私のそれと変わらないものになる。
要するに、服装を除けば、リアルの私そのままの姿になった。
「色々と気づいたのと、呪詛と呪憲の制御能力が上がったからかしらね。これぐらいなら変えられるようになったみたい」
「なるほどでチュ」
「見た目の異形度も相応に下がっているように見えるし……この格好ならば街中をうろついても大丈夫かしらね?」
「いや、異形度的には大丈夫でも、服装の問題でアウトだと思うでチュ」
「まあ、そうよね。自分で言っていても途中で無理だとは思っていたわ」
なお、現在の服装は傍目には三角帽子、前開きのスカート、局部は別だが基本的には半透明や透明の羽衣、それに両手両足と首に継ぎ目のない輪と言うものである。
身に着けている私が言うのもなんだが、現実だとプールや浜辺、コスプレ会場でしか許されず、それ以外でしたら手首の辺りでロックがかかる音が聞こえる事だろう。
「で、何の役に立つんでチュ?」
「さあ? 上に羽織るものでも用意すれば、サクリベスに行くのに使えるかもだけど、その必要性も薄いし、何の役にも立たないかも」
ちなみに役に立つイメージは一切浮かばない。
空中浮遊を解除して地上に降り、体を安定させ、その状態で作業をするのに一瞬使えると思ったが、今の私にとってはその程度で起きる変化は誤差の範疇である。
「後、それが出来るようになったことで、ステータスの類に変化は起きたでチュか?」
「それが怖いことに何の変化もないのよねぇ」
「それは逆に怖いでチュねぇ……」
余談だが、翅を消しても異形度は下がらないし、この技能がどこかに記載されていることもない。
もしかしたら、これも一種のプレイヤースキルになるのだろうか?
「さて今日は何をするでチュか?」
「とりあえずはザリチュの改修かしらね」
さて、そろそろ今日の活動を開始するとしようか。
と言う訳で、いつもの諸々を行い、それからザリチュの改修をするべく素材の確認をしていく。
使うのはザリチュ自身、渇猿の竜呪の鱗皮に角に骨、『幸福な造命呪』の心臓こと『呪喰の心臓呪』が変化したもの、瘴熱の樹絹糸。
以上である。
なお、元『呪喰の心臓呪』の鑑定結果はこのようなものになっている。
△△△△△
人形たちの王冠
レベル:40
耐久度:100/100
干渉力:145
浸食率:100/100
異形度:20
『幸福な造命呪』の心臓だったもの。
現在は全体が宝石化しており、緑色の大きな宝石の周囲に幾つもの小さな宝石が付いているような見た目である。
見方によっては虹色に輝く宝石のようにも見えるだろう。
濃密で、濃厚な、あらゆる苦痛を凝集したような呪いが限界まで込められており、彼らはこの地獄から解放されることを求めている。
▽▽▽▽▽
「さて、それでザリチュ自身のお望みは?」
「そうでチュねぇ……」
レベルや耐久度、干渉力といったものが落ちてはいる。
しかしこれについては安全性を無視して作られた『呪喰の心臓呪』と、素材として他の何かに用いる事を前提としている人形たちの王冠では、差が生じるのは当然の事とも言える。
ちなみにこの素材を使う事を求めたのはザリチュ自身である。
恐らくだが、自分に関わりが深い素材であると考えたからだろう。
「とりあえずたるうぃの角を通す穴は付けてほしいでチュ。こすれて痛いんでチュよ」
「はいはい」
では、竜呪素材によって強化された生産道具を使って改修していこう。
まずはザリチュの要望通りに、つばの部分に私の角を通すための穴を開ける。
ただしギリギリではなく、少し余裕を持たせてだ。
その後、渇猿の竜呪の鱗皮を瘴熱の樹絹糸で縫い付け、角と骨で骨組みの強度を上げ、人形たちの王冠を三角帽子の根元部分に瘴熱の樹絹糸で縫い付けて固定する。
「これで後は呪怨台に乗せればいいのかしら?」
「問題ないでチュ」
と言う訳で物理的な改造は終了。
呪怨台に乗せるとしよう。
「さあ、ザリチュ。これまで以上に貴方の好きなようにするといいわ。『太陽の呪い』、『砂漠の呪い』。後、『七つの大呪』への干渉開始」
「勿論好きにやるでチュよ。たるうぃ」
呪怨台の上に居るザリチュへと呪詛の霧が集まっていく。
だがその色はいつもの赤、黒、紫の三色ではなく虹色。
どうやら『七つの大呪』を完全排除した上に私が近くに居ることで、『呪憲・瘴熱満ちる宇宙』の影響が大きく出ているようだ。
なお、化身ゴーレムは既に停止している。
「……」
そうしてザリチュが呪詛の霧にのまれ、おおよそ一時間ほど経った頃。
呪詛の霧はゆっくりと晴れていき、少し大きめの宝石が付いたこととつばに穴が開けられたこと以外には特に変化がない見た目のザリチュが現れた。
「とりあえず成功したわね」
そして私は新たなザリチュを手に取ると、鑑定を行った。