813:ダイアログ-1
「はい、と言う訳で、満場一致で『虹霓鏡宮の呪界』奥地攻略のためにプレイヤーを増員する事に決定しました」
「ドンドンパフパフー! 私の犠牲は無駄じゃなかった!」
「まあ、奥地の様子を考えたら当然の結論ね」
「この人数ではどう考えても足りませんからね」
「最低でも数百人は欲しい規模だったからなぁ」
「先行探索の恩恵はもう十分受けたと思う」
情報と物のやり取りの結果、『虹霓鏡宮の呪界』奥地を攻略するにあたっては、これまで『虹霓鏡宮の呪界』に入ることが出来なかったプレイヤーを新たに招き入れる事を決定した。
まあ、当然の結論だろう。
クカタチたちが調査をしてくれた『虹霓鏡宮の呪界』奥地の難易度は、眼宮とは比較にならないほどに高いのだから。
とりあえず私はアレをこの場にいるメンバーだけで攻略できるとは思っていない。
「と言うか、アレを正面から単独でどうにか出来るのって変身したタルくらいじゃね? 人数が増えた程度でどうにか出来るのか?」
「ブラクロの言う通り、『竜活の呪い』を使えば確かに対処は出来るでしょうけど、アレは時間制限がある上に効果時間終了後のデメリットが酷いから、軍勢であっても雑魚敵には使えないわ」
「人数が増えた後に指揮系統をどうするかとかは、実際に人数が増えてからでいいと思うわ。それよりも……」
なお、『竜活の呪い』については制限時間の都合で、禁忌と付く呪術については私以外が持つもの含めて効果範囲が単体ばかりなので、今回のような状況には使えない。
「問題はどうやってプレイヤーを増やすのか、そこじゃないの? タル」
「そうですね。私たちとの契約の時のように、一々タル様が直接サインしてなどと言っていたら、どれほどの時間がかかるのか分かったものではありません」
「希望者は多そうだが、実力面と性格面の両面から篩をかけないと後々問題になりそうだしなぁ」
「まあ、そうよね」
では、ザリアたちから賛成を得られたところで、どうやって人数を増やすかを考えよう。
とは言え、そのために必要な一手は既に打ってあるのだが。
「でも大丈夫よ。元々枠を増やしたいと思っていたし、それに伴うプレイヤーの選別については聖女様に協力を仰ぐ予定だったから。そのための手紙ももう出したし……ザリチュ?」
「あー、今現在はサクリベスの神殿前まで来たでチュね。たぶん、問題なく受け取ってもらえると思うでチュ」
「「「……」」」
私とザリチュの言葉を聞いた瞬間、ストラスさんたちの視線がサクリベスがありそうな方を向く。
そして、何かを哀れむような視線を向けている。
まあ、聖女ハルワに迷惑をかけるのは事実なのでおかしな反応ではない。
なお、ザリアについては、額に手を当て、天を仰いでいる。
まるで何時かの発言を後悔しているかのようだ。
別にザリアから現実世界で『虹霓鏡宮の呪界』の進入枠拡大を求める話を聞いていなくても、同じことになっていたと思うのだけどなぁ。
「ま、まあ……枠が拡張されるなら問題はないと思います。多少人数が増えた程度でパンクするような場所でもありませんし」
「そうだな。増員自体は俺たちが求めたことでもある。否はないな、うん」
「そもそも『虹霓鏡宮の呪界』自体がタルのものだしな」
「うん、今更今更」
「サクリベスとの協力は元々必要。何も問題はない」
さて、折角だからサクリベスに居るネズミゴーレムの視界をきちんと認識してっと。
今は神殿の門番に持ち上げられ、ケージに入れられたところか。
「たるうぃ、どうにも直接話し合いになりそうでチュから、移動するでチュよ」
「そうね。そう言う訳だから、私はちょっと自分のセーフティーエリアに籠るわ。いい返事があったら後で教えるから、この場はこれで解散ね」
「ハーイ」
「分かった」
「分かったわ」
「分かりました」
で、そのまま聖女様のところまで運ばれるらしい。
どうやら手紙を手渡すところで終わるのではなく、もうこのまま直接交渉することになりそうだ。
うん、手っ取り早いので、私としては好都合である。
そして私は交渉に集中するべく、自分のセーフティーエリアに移動して、楽な体勢をとる。
『ハルワ様。今、よろしいでしょうか?』
『どうぞ』
ネズミゴーレムの視界内の扉が開けられ、その向こう側が見える。
居たのは……表面上は微笑みを浮かべているように見えるが、内心では割と不機嫌そうな聖女ハルワただ一人。
聖女アムルはどうやらこの場には居ないようだ。
おかげで私の近くに居る化身ゴーレムが小躍りしている。
『不機嫌そうね』
『何処かのアンノウンが前触れなく訪ねてくるからよ』
『それはごめんなさい。でも今日はアポ取りだけの予定だったのよ?』
とりあえず手紙を渡してしまおう。
と言う訳で、ネズミゴーレムを運んできた人物が部屋の外に去り、室内にいるのがネズミゴーレムと聖女ハルワだけになったタイミングで、ネズミゴーレムの体内にしまっておいたズワムの毛皮を利用した手紙を渡す。
聖女ハルワはそれを一読し、告げた。
『詳細を詰めましょうか。ただ、こちらにメリットがなければ断るとは先に言っておくわ』
『感謝するわ。それでは話しましょうか』
では話し合いの時間といこう。




