811:ハングパレス-5
『あ、タルさんから許可を貰えました。此処から様子を見るだけでなく、踏み込んでもいいそうです。ではこの四人で早速行きましょう!』
『『『おー!』』』
さて、私は現在二つの画面を開いている。
一つはクカタチの配信を最初から追っていく画面であり、そちらにはクカタチ視点で例のトンネルの出口から、その先を窺う映像が流れている。
『ヒヤアアアアァァァァッ!? なにこれえええぇぇぇ!?』
そしてもう一つは現在のクカタチの視点を映しているものであり……そちらにはまあ、中々に混沌とした状況が映し出されている。
「いやぁ、私の呪限無だけど、それでも言いたいわ。ナニコレ?」
「酷いなんてものではないでチュねぇ……」
「まあ、分かる範囲で真面目に考えましょうか」
「でチュね」
では、お茶を啜りつつ、クカタチが得てくれた貴重な情報についてまとめていこう。
まず、トンネルの一番奥だが、以前まで存在していた紫色の半透明な壁は消滅しており、プレイヤーについては自由に出入り出来るようになっていた。
で、抜けた先だが、出口の周囲はトンネルに入る前同様に墓地が広がっている。
問題はその先からだ。
「たぶん、トンネルの出口が一番外縁であり、正面に進むと中心にたどり着く、のよね」
「だと思うでチュ」
前提として、トンネルを抜けた先の呼称を奥地としておく。
この奥地だが、トンネルを出て、後ろを振り返ってみると、天を衝くような巨大な壁がそびえており、それ以上退くことは出来ないようだ。
右手は暫くは墓場が続いているようだが、幾らか進むと、こちらも天を衝くような、けれど色は虹色の壁がそびえており、恐らくだがそれ以上は進めない。
左手に進むと、こちらも暫くは墓場だが、やがてつい先ほど見た覚えがある虹色の砂と岩で構築された砂漠が入り混じり始め、やがて完全に砂漠に変化するようだ。
そして、正面に進むと……右手と同じような虹色の壁が柱のようにそびえている他、ジャングルや草原のようにも見える地形が入り混じっていて、混沌としている。
「で、左手のこれは飢渇の眼宮。右手のこれは『淀縛の邪眼・2』の位階が3になったら解放される眼宮に対応している感じかしら」
「でチュね。そうなると奥は毒の眼宮や沈黙の眼宮が混ざっている感じでチュかねぇ」
「そうなると思うわ」
つまり、『虹霓鏡宮の呪界』の奥地の環境は、最終的に13の眼宮の環境が入り混じる場所であり、13の眼宮の解放によって中心に向かえるようになる場所、と言う事だろう。
で、順当にいけば、中心には何かしらのボスがいるに違いない。
『うわあああああぁぁぁぁ!?』
『エリゴールさああぁぁん!』
「あ、やっぱり侵入したら駄目なエリアなのね」
「貴重な情報感謝としか言えないでチュねぇ……」
なお、未開放の眼宮に対応する場所に存在する虹色の領域だが、触れると蒸発して死に戻り、おまけに何かしらの状態異常が重症化するレベルのスタック値で復活後に付与されるらしい。
検証班っぽい女性プレイヤーが検証のためだからと触れてくれた動画が、後追いの方でちょうど流れた。
うん、彼女には後で特別手当を出してあげたい。
『敵があぁぁ! 敵があぁぁ!!』
『くっくっく、これはどうしようもないな』
『笑っている場合じゃないと思うですけどぉ!?』
『笑っている場合だろう。と言うより、ここまで酷いと笑うほかないぞ。くっくっく』
「「……」」
で、ここまでの話は地形に関するものであり、敵についての話はここから。
そして、私がナニコレと称したのも、この敵についてが原因だ。
「恐羊の竜呪が試練サイズなのは事前に分かっていた事。他の眼宮に生息している竜呪が入り混じっているのも事前に分かっていた事。とはいえ、これは酷いわねぇ……」
「完全に徒党を組んで攻撃を仕掛けているでチュからねぇ……」
エリゴールと言う女性プレイヤーが死に戻った後、クカタチたち残り三人のプレイヤーは勇敢にも、あるいは無謀にも恐羊の竜呪に挑みかかった。
試練サイズの恐羊の竜呪はサイズが大きくなっただけでなくレベルも上がっており、そのレベルは45。
となると当然ながら耐久力も増しており、クカタチの初撃では倒せなかった。
しかし、その場で戦い続けようとは思わない程度には手傷を負ったらしい。
クカタチと戦っている恐羊の竜呪は遠距離攻撃による牽制を行いつつ退いていく。
『ぐはぁ!?』
『ぎゃあっ!?』
『ううっ、無謀なのは分かっていたけども、ここまで酷いなんて!?』
で、そうして恐羊の竜呪が引いていくと同時に、鼠毒の竜呪と虎絶の竜呪がクカタチに接近して攻撃を開始。
続けてクカタチたちが二匹の攻撃によって足を止めたところへ、渇猿の竜呪が上空から、暗梟の竜呪が地中から、兎黙の竜呪が背後から強襲。
さらには撤退していった恐羊の竜呪を含む複数体の恐羊の竜呪と牛陽の竜呪による遠距離攻撃が降り注ぎ始める。
うん、明らかに竜呪同士で役割分担が行われ、協力が行われている。
結果、クカタチ以外の二人は呆気なく吹き飛ばされ、今現在はクカタチ一人で地形を利用した隠密戦闘によって地道に削る状態に移行しているが……ライブ画面の様子からして、そう遠くない内に死に戻りすることになりそうだった。
「で、たるうぃならどうやってこれを攻略するでチュ?」
「どうしようかしらね? 正直に言って、真面目に正面からやりあうなら、数百人単位のプレイヤーが必要になるし、一人で挑むとなると今のクカタチのように立ち回るしかなさそうだけど……」
「『竜活の呪い』じゃ駄目なんでチュ?」
「駄目駄目ね。その先まで考えたら、『竜活の呪い』無しで対処できないと、結局詰むわ」
「まあ、そうなるでチュか」
いやぁ、本当にどうやって攻略したものだろうか?
一回の戦闘につき10を超える数かつ異なる種類の竜呪と同時に戦う環境。
とりあえず試練仕様でない個体を大した手間暇をかけずに一蹴出来るぐらいのスペックは要求されるような気がする。
『あばあああああぁぁぁっ!?』
「あ、死んだわね」
「最後は恐羊の竜呪たちによるクロスファイアでチュかぁ」
と、そんな事を考えている間にクカタチは倒されたようだった。
なお、クロスファイアとザリチュは言ったが、放たれたのは墨カッターであり、放たれた方向も三方向からであった。
さて、ザリアたちも戻ってきたようだし、情報や物をやり取りするとしよう。
02/04誤字訂正