809:ハングパレス-3
「ふんっ!」
「おらぁ!」
「ヒャッハァ!」
「ハン……ガァ……」
スクナの剣が腕を切り裂き、マントデアの拳が首をへし折り、ブラクロの剣が胸を貫く。
そして追撃として私を含む多くのプレイヤーたちからの攻撃が殺到し、渇猿の竜呪の巨人部分は倒れた。
と言う訳で、死体をドゴストに回収して第二別解の証明完了である。
「いやぁ、やっぱり長期戦を前提とした倒し方もあったわね」
では詳細説明。
渇猿の竜呪の壺部分にダメージを与えると壺は水を生み出し、この水によって巨人部分が出現するのは先述の通り。
で、この巨人についてだが、試練の時に霧骨巨人と言う呼び方をしていた事からも分かるように、実体を持たない竜の頭を持つ巨人のスケルトンであった、初期段階では。
そう、初期段階ではだ。
壺へのダメージが増え、水の供給量が増えていくにつれて、実体のなかった骨は実体を有するようになった。
そして、骨が実体を有している状態で更に壺へ攻撃すると、巨人に霧の肉が生じ、肉が実体を持ち、肉の上に霧の皮が張られ、皮が実体を持ち、最終的には竜頭の巨人のミイラとでも呼ぶべき存在が現れ、ここまで復活するとミイラ壺が限界を迎えたのか浜に打ち上げられた海月のようにふやけて潰れて消滅したのである。
その後、巨人部分がどう倒されたかは、先ほどの通りである。
「そうね。で、この分だと倒し方によるドロップ品の差もありそうね」
「そうですね。確実に違うと思います。壺と違って骨も肉もありますし、よく乾いてもいますから」
「まあ、確実に変わるでしょうね。あれだけ苦労させられたわけだし」
なお、この検証で最も大変だったのは巨人を倒すことではなく、実体を有するようになった巨人を倒さず弱らせず無視をしていながら、その手の中に納まっている壺へ攻撃を当てる事だった。
実体がはっきりすればするほど巨人がアグレッシブかつダイナミックに動くようになるし、巨人に攻撃を当ててしまうと回復が優先されてしまうので本当に大変だった。
最後の方とか、私の邪眼術、ザリアの針、レライエの狙撃と言った、精度と速度を兼ね備えた攻撃しか当てられなかったし。
「つうか腹減ってきたな」
「本当だな。まあ、あれだけ走り回れば仕方がないんじゃないか?」
「いや、ちょっと待て。なんか満腹度の消費がおかしいぞ!?」
「ああ、飢渇の眼宮の仕掛けは満腹度消費の加速か、これ……」
「飢渇の邪眼……空腹……うっ、頭が……」
と、完全な空き時間が出来たし、この空間の鑑定をしておこう。
一部プレイヤーがトラウマを発症している事から仕掛けの内容もほぼ確定と言えるが、一応確認はしておかないと。
△△△△△
虹霓鏡宮の呪界・飢渇の眼宮
限り無き呪いの世界の一角に築かれた虹霓に輝く城。
離宮の一つ、飢渇の眼宮、そこは飢えと渇きに満ちた世界であり、満たせる者だけが勝利する世界でもある。
ひしめくは猿と乾燥の力に満ちた竜の呪いであり、彼らは全てに食らいつこうとする。
呪詛濃度:26 呪限無-中層
[座標コード]
▽▽▽▽▽
「ふむふむ。まあ、予定通りね」
「変わらずでチュねぇ」
鑑定結果はこれまでとそんなに違わないか。
フレーバーテキストの内容は……渇猿の竜呪の倒し方で良さそうだ。
壺を一撃で満たすか、巨人が実体を持つまで満たすかの差はあれど、どちらも満たしていることに違いはないのだから。
「タル様。満腹度の回復が完了したので、奥に進めますが、どうしましょうか?」
「あら早いわね」
「飢渇と言う時点で全員備えていたのよ。飢餓状態は誰かさんのおかげで、みんなのトラウマ扱いだし」
「ソウナノネー、私にトラウマはないんだけどねー」
「そりゃあそうでチュよ。元凶なんでチュあああぁぁぁぁ!?」
さて回復も済んだところでこれからどうしようか?
とりあえずザリチュを抓ることで注目は集めたので、指針は出しておかないと。
「そうね。じゃあまずは収奪の苔竜呪の位置を確認。その後は各自自由行動で」
「分かりました。あ、収奪の苔竜呪が見つかるまでに渇猿の竜呪について検証しておきたいことがあるので、皆様協力してもらってもいいでしょうか?」
「勿論、協力ができる事ならさせてもらうわ」
では、指針も出したところで出発である。
ちなみにだが、検証班による渇猿の竜呪に対する追加の検証事項と言うのは、骨が実体を有した時点で壺と巨人を切り離すとどうなるのか? とか、巨人が十分な実体を得てから乾燥させるとどうなるのか? 壺が健在の状態で巨人を先に倒すとどうなるのか? 切り離した壺と巨人を再接触させるとどうなるのか? と言った事柄である。
「いや、かなり面倒くさいなコイツ……」
「素材集めがしんどい……」
「そもそも素材として優秀なのか? こいつら」
で、検証結果だが、実体を持った時点で切り離しは可能。
ただ、この状態で壺を先に倒してしまうと、巨人は実体を持った部分も霧に戻して、最後の足掻きである超高速ウォーターカッターを放ってしまうため、素材は壺からのみ。
壺と巨人が再接触すれば普通に回復。
巨人を乾燥させると、それだけ実体を失う。
巨人を先に倒すと、巨人の素材は得られるが、壺が巨人を再生成する。
などと言った、割と面倒な能力持ちであることが判明した。
「とりあえず時間がない時、消耗を抑えたい時は一撃必殺狙いで行った方が良さそうではあるわね」
「そうね。私も同意するわ」
やがて私たちの視界に枯草のような姿をした、けれど確かに生きている収奪の苔竜呪の姿と、満腹度低下を加速させている原因である竜骨塔が見えた。
近くには若干の緑とオアシスのようなものも見えている。
まあ、対策が不十分なので、流石に今日挑む気はない。
「じゃ、ここからは自由行動で。私は先に戻って、解体をしてみるわ」
「分かったわ。タル、可能なら巨人の方も何体か持ち帰ろうと思っているから、その時はお願い」
「ええ、任せて頂戴」
と言う訳で、私は収奪の苔竜呪に背を向け、飢渇の眼宮を後にした。