806:現実世界にて-21
「こんにちは、芹亜」
「こんにちは、羽衣。リアル時間で考えればそうでもないのに、イベントを挟むと久しぶりに感じるわね」
「本当ですね」
本日は2019年9月23日月曜日。
祝日だが、私もザリア……芹亜は大学へとやってきている。
と言うのも、今日で大学の夏休みが終わるので、色々とあるのである。
「で、昨日のイベントの五日目、自分以外の宝物庫に居たプレイヤーを全員を消し飛ばした件について何か言っておくことはある?」
「特にはないですね……必要だからやっただけの事ですし。あ、でも」
「でも?」
「宝物庫が消えた後のドロップアイテム、アレは私ではなく運営でお願いします。私は何もしていないので」
「あああの、ドロップアイテムと言う名のメテオレインね。分かったわ。とりあえず書き込んでおく」
さて、話題は当然ながら『CNP』公式第五回イベント『盗賊恐れる宝物庫の悪夢』についてであるが……うん、やはり五日目の件については聞かれるか。
「芹亜の為に謝意とか出しておいた方がいいですか?」
「んー、掲示板を見る限りでは出さなくても良さそうよ。どうして羽衣がああいう行動をとったのかだいたいのプレイヤーが察しているし、文句があるならとっとと『幸福な造命呪』を倒せばよかっただけの話、と言う流れに大きく傾いてもいるし。むしろ変なのを寄らせないために黙っておいた方が良さそうね」
「分かりました。なら私は黙っておきます」
しかし、芹亜的には割とどうでもよい案件らしく、この件に関する追求はこれ以上はなさそうだ。
「て、あれ? 今の話の流れだと、芹亜の所に私への質問や要求の類が流れてません?」
「……」
「流れているんですね。お手数をおかけしてすみません」
「大丈夫よ、羽衣。心配しなくても見ず知らずあるいは恥さらしな連中からの要求は耳にも入れてないから。今やっているこれも、それなりに私への得があるからやっている事だしね」
「ならいいんですけど」
芹亜はそう言うとスマホを幾らか弄って、それから置く。
どうやらドロップアイテムの件について書き込んでくれたようだ。
「ちなみに一番多い質問や要求は?」
「『虹霓鏡宮の呪界』に入りたいから、タルとの繋ぎを取って欲しいと言う要求や、遭遇する方法についての質問が多いわね」
「なるほど。でも……」
「あそこはドロップする物が物だけに、一般開放は厳しいでしょうね……」
「その通りですね」
『虹霓鏡宮の呪界』への新規入場か……。
確かに今の限られたプレイヤーしか入れない状態は健全とは言い難いと思うし、あれらの素材から作られる未知の幅も狭めてしまっていると思う。
けれど竜呪たちの素材は一般的には危険物ばかりだからなぁ。
誰にでも渡していい物ではない。
「ま、別に開かなくてもいいんじゃない? 羽衣は所詮一プレイヤー、その一プレイヤーが正当な権利に基づいて、一般開放はしないと判断しているんだから、誰にも文句を言われる筋合いはない。どうしても欲しいなら、中に入ったプレイヤーが持ち帰ったものを交渉して手に入れればいい。あるいは羽衣と同じように入手できるダンジョンを作ってもいい。そういう話でしょう?」
「それもそうですね。とは言え、私自身へのメリットもありますので、枠を増やす方法自体は考えようと思いますけど」
「そう、羽衣がそうしたいなら、そうすればいいんじゃないかしら」
いっそ、聖女ハルワ辺りと交渉して、聖女ハルワが問題ないと判断したプレイヤー限定で入れるようにしてしまうのもありだろうか?
聖女ハルワなら、本当に駄目な連中についてはきっちり弾いてくれるだろう。
許可を得てからの契約については芹亜たちと交わしたものと同じでいいだろうし……うん、どうにかして交渉をしてみるだけの価値はありそうだ。
「それで羽衣。イベント中に新しい第三段階の邪眼術を手に入れたようだけど……」
「飢渇の眼宮なら私はまだ入っていないです。今晩潜る予定ですね」
「分かったわ。同行させてもらっても?」
「勿論構いません」
となると問題はどうやって聖女ハルワに会うか。
今の私が『サクリベス』に赴くのは論外であるし……眼球ゴーレムと鼠ゴーレムを持たせた化身ゴーレムを向かわせるのが一番いいか?
何処かで渇砂操作術が弾かれて操作不能になりそうな予感もあるが、一応試してみよう。
「問題は飢渇の眼宮を一通り探索した後なんですよね。やる事が立て込んでいて……」
「邪火太夫は?」
「それはちょっと後回しで。強化が終わってからにしたいです。後、迂闊に名前を出さないで。色々と怖い相手なので」
「そう?」
「そうですよ。偽神呪はそういう相手です」
私たちはその後についても少し話す。
どうやら芹亜も芹亜で、『虹霓鏡宮の呪界』探索に並行して、聖女アムルからのクエストや、西の第三エリアの探索予定などが入っているらしい。
また、他のプレイヤーもイベントを受けて『ユーマバッグ帝国』がどう変化したかの確認などもあって、中々に忙しいようだ。
「まだまだ楽しめそうですね。『CNP』は」
「そうね。まだまだ楽しめると思うわ」
そうして、今回の昼食会兼情報交換会は終わったのだった。




