794:5thナイトメア5thデイ-10
「さて、『幸福な造命呪』は何処まで逃げたのかしらね?」
「宝物庫の最深部、ダンジョンの核がある場所じゃないでチュか? 呪いが一番集まるのはそこでチュし」
「まあ、そうなるわよね」
筋肉像たちを撃破したザリアたちは、これまでに回収したアイテムを抱えると、宝物庫の外に向かっていった。
どうやらアイテムの確保を優先すると共に、少しでも生き残れる可能性が高い場所に移動する事にしたらしい。
うん、私が言っても説得力はないが、ダンジョンを吹き飛ばすのは最終手段であって確定事項ではない、よってこの場に残っても大丈夫だと思うのだが……。
「宝物庫ごと吹き飛ばすのはダンジョンの核を見つけてからにするでチュよ? 確実に吹き飛ばしたと判断するのが面倒になるでチュアアアァァァッ!?」
「宝物庫を吹き飛ばすのはあくまでも最終手段なんだけど?」
「た、確かに最終手段と言っていたでチュが、そうなる未来しか見えないのが現状なんでチュよ。たるうぃ」
私に抓られたザリチュは頬をさすりつつ、何処か呆れた目を私に向けている。
そんなに宝物庫ごと吹き飛ばす可能性が高いと言うのだろうか?
正直分からない。
「あ、やっぱりあったわね」
「宝物庫内の拠点でチュか。『鎌狐』のプレイヤーが居るかもしれないで……チュアァ……」
「拠点近くでは攻撃的行為は禁止よ。ザリチュ」
「いやこれこそが攻撃的行為……何でもないでチュ」
と、ここで『幸福な造命呪』の置き土産を処理しつつ進む私たちは拠点を発見した。
確保をしておきたいので、扉を開ける前に森による呪憲浸食を行って扉の向こうを把握しておく。
複製された人形は居たかもしれないが、既に消滅済み。
何人かプレイヤーが居るようだが、突然現れた毒々しい色合いの木々と黒い砂に怯えているのか、全員が壁に張り付いた状態で、扉の先に居る私に慄いているようだった。
「出来ている以上は攻撃ではないわ」
「そうでチュねー……」
とりあえず危険はなくなったので、中に入ろう。
「タルだ……」
「何でもありかよ……」
「アレが妖精? どう見ても邪神じゃないか……マトモなのは僕だけか……」
「とりあえず最後の一人にはボートを用意するべきかしら?」
「「同意する」」
「ネタ反応なので勘弁してください」
中に居たのは数人のプレイヤー。
先ほどの戦闘でザリアたちと戦っているのを見た覚えがあるのも居るので、やはり『鎌狐』たちのようだ。
で、緊張を和らげるためなのかネタに走ったプレイヤーも居るようだが、それは置いておくとして……。
「やる気はあるかしら?」
「これ以上無いから安心してくれ」
「あっても、残り時間を野次馬根性丸出しにするくらいだ」
「リーダーもアンタから喰らった呪いとやらで身動きが取れなくなったみたいだしな」
この場に居る『鎌狐』の面々は少なくとも表立ってこちらの邪魔をするつもりはないようだ。
ならば、私の方から攻撃をする必要はないだろう。
「ふうん。ちなみにゼンゼの容体は?」
「……。毒ダメージを喰らう度に何かしらの状態異常が入る呪いを受けているらしい。イベント終了までは身動きは取れないと俺は聞いている」
少し考えたそぶりを見せてから、『鎌狐』はそう答える。
まあ、たぶんだが嘘は言っていないだろう。
そういう感覚は鑑定カウンターでゼンゼを倒した時にあったし。
「情報提供ありがとう。報酬は……」
とりあえず情報を貰ったのは事実なので、報酬は支払うべきか。
えーと、今の私の手持ちで渡しても大丈夫なものは……拙い、特に思い当たらない。
いや、此処が拠点で、セーフティエリアに繋がる結界扉もあるのだから、入念に安全化の加工を施したアイテムを作る事も出来るか。
だったら宝石として単純に売却する事も出来そうな、凧形二十四面体の蛋白石を報酬として……。
「敗者が勝者の求めに応じただけなのでお構いなく。これで敗者の勤めを終了にしてくれるなら、それが最大の報酬だ」
「そう? ならいいんだけど」
あ、うん、本人が要らないと言っているなら、渡さなくてもいいか。
ぶっちゃけゼンゼの現在の容体以外で聞きたい事とか特に無いし。
「じゃ、私はちょっと用事を済まさせてもらうわ」
「お、おう……」
「あ、用事とかあったんでチュね」
では、折角拠点を見つけたのだから、用事を済ませてしまおう。
と言う訳で、振り直しの宝珠を使用。
イベントポイントの割り振りをやり直す事にする。
「えーと……」
私の所有するイベントポイントは3,080ポイント。
とりあえずステータス強化に2,000ポイントを割り振って、干渉力を20伸ばす。
ビークルに80ポイントでサンダル取得も変わらず。
残りの1,000ポイントは……これから行うのが『幸福な造命呪』との戦闘であると考えるなら、戦闘に関係する項目の強化が望ましい、ならばアイテム鑑定の強化をしておくとしよう。
他の項目よりは戦いに役立つはずだ。
「これでよし。さて行きましょうか。ザリチュ」
「分かったでチュ」
再分配完了。
これで今までよりもより戦闘に向いた状態になったはずだ。
それでは奥に向かうとしよう。
「ふんっ!」
「そっちからなんでチュか!?」
「はぁっ!?」
「ええっ……」
「アバァ……」
「ーーーーーー!?」
と言う訳で、私は拠点の壁を呪憲制御によって破壊すると、宝物庫の最深部に向かって一直線に移動を始めた。
ザリチュも『鎌狐』たちも驚いているが、逆に聞こう。
何故、待ち伏せや罠の類が高い確率で存在している通路を行く必要があると言うのか。
もうこの先に寄るべき場所もない。
だったら、最も安全、確実、短期のルートを行くべきだ。
そうして私は宝物庫の悲鳴が響き渡る中、突き進み続け……やがて見覚えのある庭園に出た。