791:5thナイトメア5thデイ-7
「そんなに身構えなくても大丈夫よ。聞けるなら聞きたい事があるから、それが聞けるまでは仕掛ける気はないわ」
「はっ、信用出来へんな」
「我が祖と話す事ですか。おおよその事は先日出会った時に話し終えたと思うのですがな。今更話し合う事があるとは思えませんな」
ゼンゼも『幸福な造命呪』も私と話す事は拒否か。
それでも私はザリチュに命じて、『瘴弦の奏基呪』の演奏効果が二人に対して発揮されないようにしておく。
また、邪眼術のチャージは始めているが、チャージが終わっても撃たないように気を付けて行動する事にする。
こちらから仕掛けたのでは、話をするも何もないからだ。
「そちらにはなくてもこちらにはあるの。そういう訳だから、ザリア、悪いけど少し時間を貰うわよ」
「構わないわ。戦闘態勢を解く気はないけれど。ああでも、宝物庫の奥には向かわないでおくわね。そっちの方がタルにとって都合がいいでしょう?」
「助かるわ」
ザリアたちは宝物庫の奥に繋がる通路の前に陣取ると、ゼンゼと『幸福な造命呪』、そして二人の仲間であるプレイヤーたちと複製された人形たちへの警戒を続ける。
当然ながらゼンゼたちも、私とザリアたちに対する警戒をしており、少しでも不穏な動きをすれば直ぐにでも戦闘が再開されるであろう不穏な気配が漂う。
なお、お互いに戦闘再開に備えてHPや満腹度の回復、補助呪術のかけ直しをしている点については、私は敢えて気にしない。
それはしていて当然だと思うので。
「くっ、話をするしかなさそうやな……」
「……」
そうして状況が整ったからだろう。
ゼンゼは悔しそうに、『幸福な造命呪』は無表情で私の方を向く。
うん、呪いの流れからしてどちらも何かしらの呪術の準備は始めている。
しかし、これも敢えて気にしないでおこう。
『幸福な造命呪』には裏で準備をするなら、ザリアたちを挟んで向かい側に居る九尾の師匠のように、一見そうとは分からないように準備をしろとは言いたいが。
「で、結局のところ何を聞きたいんや? まあ、聞かれたからって答えるとは限らへんけどな。こうして明確に敵対しているわけやし」
「そんなに大した話ではないわ」
では、お互いに準備が整ったところで、話をするとしよう。
あ、折角だからザリチュの奏でる音楽の内容は威圧感を伴うような物に変更で。
「ゼンゼ、タエド。貴方たちはいったいどうやって『不老不死』の呪いを排除しようと言うのかしら?」
「自前の音響装置、展開される自分の領域、圧倒的な上位者感を漂わせつつの質問、ラスボスかな? タルだったわ。ウグゥ!?」
「ふっ、そんな事かいな。そんな正直に質問されてウチが答えて……あー、答えて……」
「どうやってですと? そんなもの……我が祖よ。これ、一度待った方が良いですか?」
「ゼンゼ、タエド、ごめんなさい。でも、ちょっと待ってて。そこの犬を永遠に黙らせるから」
「タル、殺すのは勘弁してあげて、こんなのでもウチの戦力として重要だから」
話を始めようとしたらブラクロが茶々を入れてきたので、とりあえず『淀縛の邪眼・2』を撃ち込んで黙らせる。
その後、ザリアの懇願もあったので、『沈黙の邪眼・3』を撃ち込んで、沈黙の状態異常によって無理やり黙らせておく。
これによってブラクロの呪術の一部が封じられてしまい、戦闘再開後が少し困るかもしれないが、実際に困った場合にはブラクロのせいにするだけである。
実際、ブラクロが悪いのは誰の目にも明らかなので。
「ごほん、では改めて。貴方たちはいったいどうやって『不老不死』の呪いを排除しようと言うのかしら? デンプレロの一件で、『不老不死』の呪いを排除しようと思っても、そう簡単ではない事は分かっているはずよ」
「「……」」
「そう。仮にこの場で私たちを退け、宝物庫を地上に出現させ、サクリベスに攻め入り、滅ぼしたとしても、『悪創の偽神呪』あるいはそれに類するものが出て来てなかったことにされる。その可能性は決して低くないはず。貴方たちはどうやって、そこを切り抜けようと言うのかしら?」
「「……」」
では改めて質問しよう。
お前たちはどうやってこの先を進めるのか、と。
「教えると思っとるんか? タルはん」
「教えるわけがないでしょう。我が祖よ。我は我の目的を果たすために如何なる手段をも用いりますが、その詳細を敵である我が祖に明かすわけがない」
「まあ、そうよねぇ」
まあ、当然ながら二人とも答えない。
しかし『幸福な造命呪』の驚きが薄い反応からして、『幸福な造命呪』は『悪創の偽神呪』の事も、巻き戻しの事も知っているらしい。
恐らくはゼンゼが教えたのだろう。
さて、そうなると後は聖女ハルワと『不老不死の大呪』の関係性を知っているかどうかが気になるところだが……そこを知っているかは流石に怪しいか。
で、一番重要な事としてはだ。
「でも分かったわ。私の言葉を否定しなかったと言う事は、やっぱりそういうつまらない方法を取るつもりなのね」
「「!?」」
やっぱりゼンゼと『幸福な造命呪』はデンプレロの時と変わらない方法を使うつもりと言う事である。
うん、やはり既知しかなく、つまらない事になりそうだ。
「そういう……」
ならばもう用はない。
そう私が判断して動き出そうとした瞬間だった。
「ふんっ!」
「むんっ!」
ゼンゼの尾からは複数の円筒形の物体が投じられ、『幸福な造命呪』の腕からは三人分の人影が出現した。
そして、周囲一帯が轟音と閃光に包まれた。
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