789:5thナイトメア5thデイ-5
「む……」
「どうしたでチュか? たるうぃ」
宝物庫にはたどり着いた。
が、そこで私は一度止まる事になった。
「んー、リソース切れとでも言えばいいのかしら? この先に進むためには、何処かからか呪いとか原料とかを確保しないといけない感じね」
理由は単純。
先に進むために必要な物資が足りないのである。
「無理に進んだらどうなるでチュ?」
「私からリソースを持っていく事になるから、良くて異形度がまた上昇する事になるわねぇ……。ただでさえ角が生えたのに、これ以上、普段の異形度が増えるのはちょっと避けたいわ」
「今ももう28になっているでチュからねぇ」
なお、リソースが足りないのを補ったのにどうして呪いが増えるのかと言えば、自身の異形度の恒常的な増加がリスクでありデメリットでありマイナスであると世界的には勘定されているので、呪いを背負う事でその分だけリソースを得られるようになっているからである。
劣竜角を得てからの呪詛支配の感覚的に、この考え方に間違いはないはずだ。
まあ、呪詛薬のようにメリットとして呪いを得るものもあるので、一概にこうだと言い切れない話でもあるのだが。
「さて、どうやってリソースを回収しようかしらね……」
「そもそもどうやれば回収出来るんでチュ?」
「回収方法は……リソースと言っても要するに呪いだから、やり易い所だと、悲鳴、惨劇、怨嗟……」
「あ、だいたい分かったでチュ。はい」
話を戻そう。
今考えるべきは宝物庫の中へと私の領域を広げていく為に必要な呪いを何処から得るかだ。
これまでの拡大には、三日目から今日まで放置されていたと言う事実のおかげで蓄えられた呪いを使っていたが、それは底をついている。
その拡大で『宝物庫の悪夢-内苑』全体に森を伸ばし、それぞれの接触面から呪いの吸収はしているが、これで得られる呪いの大半は森の維持に使われてしまう。
つまり新たな供給源が必要となる訳だ。
「……」
しかしこうなると、やはり四日目の宝物庫側からの攻撃は呪いの確保が目的だったのだろうか?
あの戦闘で宝物庫側は少なからず呪いは得ただろうし、そうなってくると、ゼンゼと『幸福な造命呪』の最終目標は……案外、地上進出ぐらいの面白みのない目標だったりするのだろうか?
その辺は宝物庫にまで赴けば、自然と分かる事だが……この目標を潰す方向で動けば、何か面白い事でも起きないだろうか?
少し狙ってみてもいいかもしれない。
「うん、とりあえず『噴毒の華塔呪』と『瘴弦の奏基呪』を森の中に設置ね」
「まあ、そうでチュよね」
また思考が逸れた。
そして、特にこれと言ったアイデアも思いつかなかったので、順当な方法で何とかしてしまおう。
と言う訳で、とりあえずドゴストから『噴毒の華塔呪』と『瘴弦の奏基呪』を13体ずつ取り出す。
で、『宝物庫の悪夢-内苑』の各所へと枝葉に乗せて移動させ、移動後にはそれぞれを守らせるように森の木々を操り、枝葉を伸ばさせる。
「成長が随分と早いわね」
「環境がいいでチュからねぇ」
変化は直ぐに始まった。
『噴毒の華塔呪』は周囲から大量の砂を吸い上げて、直ぐに周囲の木々の高さを遥かに超えるような大きさにまで成長していく。
ただ、『噴毒の華塔呪』の効果範囲は自身の高さ×10メートルだったはずだから、『宝物庫の悪夢-内苑』の全域を覆うのは厳しいか。
いや、いつの間にか砂だけじゃなくて周囲の木々も取り込んで、『熱樹渇泥の呪界』の熱拍の樹呪のような、巨大な柱のようになりつつあるか。
とりあえず高さ100メートルは超えさせておきたいと思っていたが、この分だと1キロメートルぐらいにはなるかもしれない。
天井の類にぶつかってしまった時には……まあ、その時はその時でいいか。
「一応、プレイヤーじゃなくて人形優先で行きましょうか」
「分かったでチュ」
では次。
まずは眼球ゴーレムを各所に設置していき、『宝物庫の悪夢-内苑』全体の状況を把握。
そして、宝物庫側の人形を発見したところで、『瘴弦の奏基呪』の演奏による攻撃を人形へと行い、呪いを奪い取っていく。
なお、森の奥地に居る『瘴弦の奏基呪』がどうやって前線の人形に音を伝えているかと言えば、簡単に言えばスピーカーである。
「しかし、器用な事をするでチュね」
「ただの再現だし、自分の森の中だもの。でもまあ、完全再現とはいかないわね」
「それはまあ、仕方がないと思うでチュ」
『瘴弦の奏基呪』たちは森の奥地で音と呪いをよく伝えるように弄った植物に向けて演奏している。
演奏を受け取った植物は音と呪いを正確に伝達していき、私が望んだ場所で外に向けて音と呪いを放つ、と言う仕組みである。
ただ、安全圏から演奏しているためか、人形に与えるダメージはだいぶ少なくなっている。
今も眼球ゴーレムの視界には他のプレイヤーと戦っていた人形の全身が炎に包まれた姿が映っているのだが、燃え尽きるまでに結構な時間がかかってしまっている。
此処は今後も同じ手を使うならば、要練習だろう。
「さて、リソースが順調に貯まっていくわね」
「でチュね」
だが目的は果たせている。
と言う訳で、私は得た呪いを消費して、宝物庫の奥に向かって枝葉を伸ばし始める事にした。