788:5thナイトメア5thデイZ-2
「ぐっ……不意打ちか!」
「おっと」
いい一撃が入った。
致命傷になるほどに深くは無く、けれど無視できない程度には深い、それぐらいの傷を負わせたのが、武器である細剣を通じて入ってきた手応えで分かった。
そして反撃となるゼンゼの尾による攻撃を捌きつつ後退。
十分な距離を取れたところで改めて構え直す。
「また絶妙な深手を負わせて来るなぁ……性格悪いで、ザリアはん」
「私たちプレイヤーの場合、死ねば逃げられるじゃない。だったら当然の対応でしょう? それに貴方たち『鎌狐』相手にそういう気づかいをする気はないわ」
「へー、そうなんか……」
「ええそうよ。デンプレロの件は当時の前線に居た私を含めたプレイヤーたちの怠慢や非協力が根本的な原因ではあるけれど、最後のトリガーを引いたのはやっぱり貴方たちだもの。あの件については運営からの沙汰は既に下っているけど……私はそれを理由にわだかまりを解けるほどの大人じゃない」
ゼンゼも大鎌を構え直し、九本の尾も何時でも攻撃に使えるように備えている。
しかし、直ぐには仕掛けてこず、こうして会話に興じていると言う事は、何かしらの狙いがあると言う事だろう。
「ぐっ、くそ、どうなっている。手数も、攻撃の威力も、呪いの強度も我の方が上回っている事は明らかであるのに、何故我は黒の狼一人抜けるどころか、怯ませる事も出来ない!?」
「経験の差って奴だな。あるいは立ち回りか? それとも心持か? どちらにせよ、此処を抜かせる気はないぞ。お前を倒せるほどの余裕はないしな」
一瞬だけブラクロとタエドの方へ注意を向ける。
どうやらタエドは未だにブラクロに妨害され続けていて、宝物庫の奥へと向かえていないようだ。
で、ブラクロの調子はそこまで良くなさそうなので、だからこそタエドを抜かせる事も早々なさそうである。
何を言っているのかと、私の心の声が聞こえたら色んな人から言われそうだが、ブラクロだからそういうものである。
「……。通さんぞ」
「吹き飛べ!」
「回復します!」
他のメンバーの状態も確認。
どうやら順調に取り巻きの人形の撃破、あるいはプレイヤーの無力化を図れているようだ。
私やタルの姿をした人形が吹き飛ばされては、最初から存在しなかったように消え去っていく。
「ま、わだかまりとかは好きにすればええと思うで。ウチも好きにさせてもらうからなぁ!」
「っ!?」
何本もの鎌が私の方へと飛んでくる。
私にはブラクロのように危険なものだけ弾くような実力はない。
ただそれでも、弾けるだけは弾いて、ダメージを抑えていく。
「タエド! 強硬突破や! 抜けられん方が被害が出るんやから、損切りするんや!」
「ぐっ……分かりました! 我が師よ!」
「二人がかりか。いいぜ、被害覚悟程度で抜けられる物なら、抜いてみろ」
しかし、私がゼンゼの攻撃に対処している間に、ゼンゼ自身はタエドの隣に並び、声を掛け、それから直ぐにブラクロへと向かっていく。
タエドもゼンゼに一拍遅れる形で、ブラクロへと向かっていく。
普段のブラクロなら確実に抜かれるとして、今のブラクロだと……読めない。
だから、私は援護に向かうべく、攻撃を凌ぎ終えると同時にブラクロの下に向かおうとする。
「っ!?」
そこで私は視界の端に映ったものを認識して、思わず硬直した。
「ついでに一つ情報をくれてやるなら、怖いのはもうそこまで来てるぞ! お二人さん!」
そこは宝物庫の外の方へと繋がる通路だった。
石で出来た床、壁、通路があり、扉も幾つかはあったはず。
しかし、私の視界に今映った通路は、私の記憶に残る通路は面影くらいしか残っていなかった。
「あの樹は!?」
「くっ、予想より遥かに早いな!」
気が付けば、通路の表面を埋め尽くすように毒々しい色合いの木が伸びて来ていた。
通路に接触している部分に根を張り、枝葉を伸ばし、幹の周囲から黒い砂が溢れ出し、熱く乾いた空気が私たちの居る場所に送り出している。
間違いない。
アレはタルの森だ。
アレが伸びてきていると言う事は、前日にタルが言っていた最終手段……宝物庫ごと吹き飛ばすと言うのを、本気でやるつもりであり、その下準備としてまずはダンジョンそのものを奪い取ろうと言う事だろうか?
とにかく、私たちはともかく、ゼンゼとタエドが巻き込まれればただでは済まないのは確実だろう。
「ちぃ、止むを得へんか。イジン・トーデスフェス!」
「むん!」
「ぐっ……流石にきついか!?」
そうして私がタルの森に気を取られている間に、ブラクロの側の状況は大きく動いていた。
ゼンゼが濃密な呪詛を纏った鎌を振るってブラクロの剣を破壊し、タエドの拳がブラクロの体を脇に吹き飛ばす。
「行く……!?」
「急がなければ……!?」
「ま、問題ないけどな。アオオオォォォン!!」
しかし、ゼンゼとタエドが逃げ出す事は出来なかった。
二人が逃げ出すよりも早くブラクロの遠吠えと共に衝撃波が放たれ、二人が通路に入る事を阻止する。
「せいっ!」
「ーーー!?」
「むんっ!」
「岩の男もか!?」
その間に私はゼンゼに向かって針を投げて沈黙状態にすると共に動きを止め、ロックオがシールドバッシュをタエドに仕掛ける事でさらに奥に繋がる通路から引き離す。
「何となくこっちの方かなと思って森を伸ばしてみたんだけど、正解だったようね」
「「!?」」
「来たわね」
そして、毒々しい色合いの木に覆われた通路の方から、タルの声と恐怖を煽るような音楽が聞こえてきた。
どうやら私たちは足止めに成功したらしい。