784:5thナイトメア5thデイ-2
『で、検証するのはいいんでチュが、何をするんでチュ?』
「そうねぇ……」
拠点の外に出た私はとりあえず森の中に異物の類がないかを改めて確認。
うん、やはり何もない。
『幸福な造命呪』たちや『鎌狐』たちが私が寝ている間に何かを仕掛けていてもおかしくないと思っていたのだが、何も仕掛けていないようだ。
ザリアたちが一晩中攻め続けていたからなのか、森の範囲外に仕掛けているから感知できないのか、森に飲み込まれて分解されたか……まあ、無いなら気にしなくていいか。
それよりも劣竜角の検証だ。
「呪憲の制御をして、何かしらのアイテムを生成しようかしら?」
『チュアッ!? たるうぃ!? 正気でチュか!? 瘴熱の黒砂毒木剣を忘れたんでチュか!?』
私の言葉にザリチュが驚きの声を上げ、必死な様子を見せつつ、私の事を止めようとする。
うん、ザリチュがこういう反応を示すのは理解できる。
今思い出しても、瘴熱の黒砂毒木剣の性能は狂っているとしか称しようのない物だったし、特に何も考えずに攻撃へ振り切った物を作ろうとすれば、アレと同等か、アレ以上におかしいものが出来上がるのは私でも予想が付く。
だから、ザリチュが反対するのは当然とも言えるだろう。
「安心しなさい。私も考えてはいるわ」
『本当でチュかぁ……』
しかし、私も成長していると言うか、今回のイベント中に学んだことが色々とあるのだ。
「呪憲はその性質上、攻撃と防御に用いるのはあまり良くないと言うか、メインの使い方じゃないのよ」
『そうなんでチュか?』
「ええ、そうなのよ。まあ、これが全ての呪憲に共通するのか、それとも私の呪憲である『呪憲・瘴熱満ちる宇宙』だけなのかは、他の例が出てこないと確定出来ないけど」
学んだのは、私の呪憲である『呪憲・瘴熱満ちる宇宙』は直接的な攻撃や防御に用いるよりも、観測や計測に用いる方が相性が良いと言う事。
具体例として、呪憲をネツミテに纏わせたり、邪眼術に含ませたりすると、裏で何かが削れるような感覚がしてくる。
そして、この感覚が積み重なっていくと、『劣竜角』が生えたように、何かしらのペナルティと言うか変化が生じる事になるのだろう。
しかし、呪憲を利用して森の中を知覚したり、光の屈折率を弄る事でレンズのようにする際には、何かが削れるような感覚は一切なく、少しの問題も生じなかった。
「まあ、その件については他のプレイヤーを待つとして、とにかく私の呪憲は観測関係に用いてこそ。だから、その方向でアイテムを生成すれば、そこまで酷い代物は出来ないと思うのよ」
『うーん、まあ、理屈としては通るでチュか……』
「更に、それ単体で機能するものではなく、素材の形で作り、他の素材と組み合わせて目的のアイテムを作るようにすれば、安全性は飛躍的に高まるはずよ」
『なるほどでチュ』
だから、瘴熱の黒砂毒木剣のような攻撃に特化したものではなく、得意とする分野でアイテムを生成すれば問題は起きない筈である、たぶん。
「と言う訳で、作っていきましょうか」
『分かったでチュ』
では、理論が整ったところで、実際の作成をしていこう。
「……」
私はまず周囲の木々を操り、適当な大きさの祭壇のような物を形成する。
そして、その祭壇に向けて、周囲の呪詛を支配し、呪憲を絡めつつ集めていく。
「まずは呪憲をより詳しく知るための手助けになるような物を……この呪憲の全てを表わすような物を……」
呪詛の集まりに合わせるように、祭壇となっている樹から新芽が伸びていく。
合わせて樹の表面を黒い砂が張っていき、新芽に絡みついていく。
やがて黒い砂は凝集して黒い結晶体と化していき、新芽はそれを包み込むように虹色の二重螺旋に似た形を形成していく。
で、長さ30センチ程の棒になったところで祭壇から切り離され、私はそれを手に取った。
「出来たわね」
『不思議な形状でチュねぇ』
「でも、込めた願い的には割と妥当な形よ」
何というか、生物の設計図であるDNAによく似た形状である気がする。
いやでも、梯子を捩じっても、緩やかな螺旋を軸として、急な螺旋が巻き付くような形状にはならないか。
なお、二重螺旋はそれぞれ色が違い、緩やかな方が色が薄く、虹霓の霓の側のような色をしており、急な方が色が濃く、虹霓の虹の側のような色をしている。
「ん? これは……あ、本格的にDNAっぽいわねぇ」
『離せるんでチュか。それ』
私は二重螺旋の端を両手で持つ。
するとジッパーを開くように、あっさりと二重螺旋は離れた。
それぞれの螺旋だったものには黒い結晶体がくっついていて……やはりこの物体はDNAではないだろうか?
まあ、呪憲を詳しく知ると言う意味では、これ以上に良い形もないだろう。
「折角だし、離した状態で呪怨台へ乗せて、安定化させましょうか」
『分かったでチュ』
と言う訳で呪怨台で呪う事で、呪憲の外にも持ち出せるようにする。
ちなみにだが、呪怨台で呪う際にも安定と安全を優先した。
「さて、鑑定してみましょうか」
では虹の螺旋と霓の螺旋、それぞれ鑑定してみよう。
△△△△△
霓の螺旋
レベル:40
耐久度:100/100
干渉力:150
浸食率:100/100
異形度:28
薄い虹色の螺旋状物体。
緩やかな螺旋を描く薄い色の枝はまるで、あり得ざるほどに長く、けれど退屈な時を過ごしてきたかのようである。
外天呪の領域に近づくものよ、この螺旋の意味を深く考えよ。
注意:『呪憲・瘴熱満ちる宇宙』を有さないものが鑑定すると、ランダムな呪いを得て、恒常的に異形度が1上昇する。
注意:周囲の呪詛濃度が19以下の空間では存在できない。
▽▽▽▽▽
△△△△△
虹の螺旋
レベル:40
耐久度:100/100
干渉力:150
浸食率:100/100
異形度:28
濃い虹色の螺旋状物体。
急な螺旋を描く濃い色の枝は、まるで瞬く間のような短さの、けれど忙しない時を過ごしてきたかのようである。
外天呪の領域に近づくものよ、この螺旋の意味を深く考えよ。
注意:『呪憲・瘴熱満ちる宇宙』を有さないものが鑑定すると、ランダムな呪いを得て、恒常的に異形度が1上昇する。
注意:周囲の呪詛濃度が19以下の空間では存在できない。
▽▽▽▽▽
「……。こう、何と言うか、太く短くか、細く長くか、と言う感じの素材ね」
『まるで人生でチュねぇ……』
無事に出来上がりはした。
しかしこれ……どう使うかは割と悩ましい気がする。
どういう素材なのかと言う情報が殆どない気がするし。
まあ、危険物にはならなかったので良しとしよう。
「さて、他にも何か作りましょうか」
『え、正気でチュか!?』
「たぶん、考え方次第で、他にも作れるものはあると思うのよねー」
『嫌な予感がしてきたでチュ……』
では、他にも色々と作るとしよう。
きっと今後の為に役立つはずだ。
01/08誤字訂正