781:5thナイトメア4thデイ-12
「さて、この辺でいいかしらね」
「そうね。良いとは思うわ」
「では、情報の確認ですね」
ザッハークから得たアイテムの分配は数度の殴り合いが発生したものの、概ね問題なく終了した。
なお、殴り合いと言っても、得たいアイテムが被ってしまったので、両者合意の下でルールを定め、ルールに従って正々堂々と行われたものだったので、そう考えると本当に何も問題は起きなかったと言えるだろう。
そして現在だが、『幸福な造命呪』率いる宝物庫軍及びゼンゼ率いる『鎌狐』たちの連合軍との戦いについて話し合うため、私の森と外の境界にまで来ている。
「とは言えそんなに出せる情報は多くないのよね」
「そうだな。『鎌狐』たちは情報統制がしっかりとされているし、宝物庫の人形たちはそもそも情報の類を漏らすような生態でもない。妙な動きをしている奴も見当たらなかった」
「敢えておかしい点を挙げるとするなら、やっぱり何で攻めて来たのか、と言う理由が不明瞭な点ですよね」
「まあ、そうよねぇ」
とは言え、前線で直接ゼンゼと戦っていたプレイヤーたちの認識範囲では、やはりこれと言った情報は得られないようだ。
まあ、こればかりは仕方がないだろう。
ザリアたちは敵を打ち倒すのに思考能力を割り振っているだろうし、ゼンゼたちなら情報の隠蔽ぐらいは出来ていて当然なのだから。
「そうなると、宝物庫に潜入したプレイヤーに話を聞きたいんだけど……誰か居る?」
「あ、検証班が何人か入りこめてます」
「『エギアズ』にもまあ、居るな」
「『光華団』も同様よ。とは言え、これと言った情報はまだ来ていないようだけど」
しかし、前線に怪しい場所が無いのであれば、宝物庫の中に怪しい何かがあるはずである。
最低でも、人形を複製している何かはあるはずなので、誰かが調べてくれているとは思ったが……うん、やはり調べているプレイヤーは居たようだ。
後は彼らが何かを見つけているかどうかだ。
と言う訳で、潜入しているプレイヤーたちと繋ぎが取れるプレイヤーたちが連絡を取ってみる。
結果。
「えーと、検証班は駄目だったようです。庭園に誤って踏み込んでしまったらしく、複数の人形に倒されてしまったようです。ただ、庭園の奥に、磔刑の樹呪らしき樹は確認したようです」
「あ、居たのね」
『居たんでチュか』
「アレも製作物扱いではあったのね」
検証班。
駄目だったと言っているが、磔刑の樹呪の存在を確認出来ているだけでも成果は上げていると思う。
後、やはり庭園は危険地帯であるらしい。
「『エギアズ』は現在交戦中だが……状況は芳しくないな。相手の感知能力が高すぎて、姿を隠して仕切り直す事が出来ない。地図も作っていたが、宝物庫そのものがカースであるらしいからな。道が短時間で変わってしまって、意味を為さないようだ」
「……。面倒な」
「これ、下手をするとそもそも宝物庫の中に居る時点で感知されているのかもな」
「無いとは言えないな」
『エギアズ』。
エギアズ・1の話からして、直に死に戻りしそうだ。
しかし道を宝物庫の意志で変える事が出来てしまうとなると、三日目に私が付けていたマーキングも意味がなさそうか。
「『光華団』は……やけに守りが堅いエリアを見つけたようね。ただ、その直後に死に戻りさせられたという報告が今上がってきたわ」
「なるほど。やはり何かはあるんですね」
「絶対に扉の前から動かない人形が居たと言うから、重要度は高いと思う」
「ただ、守っているのが何かは分からない、か。奴らの性格を考えると、囮と言う事もあり得そうだな」
『光華団』。
警備が厳重な場所は見つけた。
ただ、何を守っているか分からない以上は、スクナの言う通りブラフの可能性も否定はできないか。
「何というか、宝物庫ごと吹っ飛ばした方が早いんじゃないかと思えてくるわね」
こうなってくると、こういう事を言いたくなってくる。
「「「……」」」
『たるうぃ……』
「タル……貴方ね……」
「タル様……」
「タルさん……」
すると何故かこの場に居る全員から睨まれたと言うか、ジト目で見られると言うか……とりあえず空気が私を苛むような物になっている。
「タル」
「何かしら?」
「タルなら可能かもしれないけど、それは最終手段でお願いするわ。宝物庫ごと全部吹っ飛ばされたら、アイテムがどうなるか分からないし」
「心配しなくても最終手段よ。それぐらいは分かっているわ」
ザリアが頭が痛そうにしつつ私に話しかけてくる。
そして、私の返答を聞くと、どうしてかうなだれるプレイヤー、天を仰ぐプレイヤーなどが続出する。
いやまあ、宝物庫ごと吹き飛ばすのが常識外であることは理解しているし、やるなら最終手段だときちんと言っているのに、それでもこの空気になるのは流石に酷くないだろうか?
「そもそも、今の私は最大HPが10で固定されているから、これが戻るまではやりたくても出来ないわ」
「それもそうだったわね」
なんだろう、周囲から小声で『時間制限イベントが始まったか……』とか、『問答無用で消し飛ばされる前に……』とか、そういう声が聞こえてくるような気がする。
うーん、仮にやるにしてもちゃんと告知だってするし、色々と配慮はすると思うんだけど。
「とりあえずだけど、これから夜通しで攻め続けるべきじゃね? もうイベントの四日目も半ばまで終わっているんだしさ」
「そうですね。兄の言う通りかと」
「相手が何を狙っているにしても、数の暴力で押し切る方が確実性は高そうだよね」
「そうね。そうしましょうか」
まあ、何にせよだ。
これから積極的に攻めて行くと言うのなら、私はそれを森の奥から静かに見守らせてもらおう。