779:5thナイトメア4thデイ-10
「さて、これで安全は確保したかしらね」
「そうですね。確保したと思います」
『もう大丈夫だと思うでチュよ』
垂れ肉華シダによって作られた像は灰も残さず焼却した。
『呪憲・瘴熱満ちる宇宙』も利用して、妙な置き土産の類がないかも確認したが、問題はなさそうだ。
「それでタル様。これから先は……」
「私は此処で明日の朝まで待機かしらね。流石にHPの最大値が10の状態で何かをしようとは思わないし」
「まあ、そうですよね」
『でチュよねぇ』
さて前線の状況は……ザリアたちが戦場に着いて、組織だった行動を始めた事により、均衡状態になったようだ。
で、念のために森の中を一通り確認するが、『鎌狐』に属するであろうプレイヤーの影も、『幸福の造命呪』が率いる人形たちの影もない。
と言うか、『幸福な造命呪』たちにしろ、『鎌狐』たちにしろ、森の中に入る事を嫌がっているようだ。
しかし、こうなると妙だ。
「……。『幸福な造命呪』たちの攻撃目的は何かしらね?」
「攻撃目的ですか?」
「ええ、ゼンゼもそうだけど、『幸福な造命呪』たちだって、無意味に攻撃を仕掛けるタイプではなく、相応の目的があって動くタイプだと思うのよね」
『まあ、そうでチュね』
何故、このタイミングで『幸福な造命呪』たちも『鎌狐』たちも動いた?
昨日までなら皇帝であるザッハークを討つことで、帝国軍を瓦解させると言う目的で動いていたと言える。
だが、ザッハークは実質的に昨日の時点……黒い卵になっている時点で死んでいるし、それを『鎌狐』が知らない可能性は無く、『幸福な造命呪』たちが知らない可能性も低い。
と言うか、万が一『幸福な造命呪』たちが知らなかったとしても、それならば森の中に入る事は嫌がらないだろう。
となると別の目的があって動いていると考えるのが妥当。
「んー……宝物庫の外に出る道の確保、新たな人形の回収による戦力増強、プレイヤーと言う存在に対する威力偵察、帝国軍残党の始末、あるいはこの空間で人死にが増える事によって増強される何かがある?」
一番あり得そうなのは人死にが増える事、場合によっては単純な戦闘の積み重ねによって何かが増強される事だろう。
『幸福な造命呪』たちの主力は複製された人形たちなので、何千体倒されようとも尽きる事はない。
対するこちら側も不老不死の呪いを持つプレイヤーたちなので、何千人倒されようとも尽きる事はない。
だから、この戦いに決着がつくとしたら、宝物庫へ密かに入り込んだプレイヤーが複製の元を断つか、プレイヤーが戦う意欲を失って撤退するかの二択である。
「最後は……否定できませんね。過去に実例もありますから」
「そうね。デンプレロの件で味を占めてと言うか、死者数を稼ぐ事によって起きる何か狙いってのは割と妥当だとは思うわ」
さて、ここで思い出すのは、かつて大量のプレイヤーが根城で死ぬことに加えて、幾つかの条件を満たす事で『変圧の蠍呪』デンプレロ・ムカッケツが大幅に強化され、地上にまで進出したことだ。
結局デンプレロが地上に出現できるようになるほどに強化された原因の詳細までは一般には分かっていない。
再現するわけにもいかない案件なので、当然とも言えるが。
「そうなると森の中で戦うのを嫌がるのも分かるわね」
「と言うと?」
「この森、イベントマップに含まれているのか怪しいっぽいのよね。だから、この森の中で死んでしまうと目的を果たせない。場合によっては、私が強化される可能性すらもあると思うの。だから、『鎌狐』たちも『幸福な造命呪』たちも森の中で戦おうとしない。どうかしら?」
「ああなるほど」
『筋道は通るでチュねぇ』
なんにせよ、イベントマップ中で死人を増やすのが目的だと言うのであれば、この森の中で戦うのを拒否するのは妥当だろう。
この森は『呪憲・瘴熱満ちる宇宙』の影響によって生じ、完全ではないが私の支配下にある。
そして鑑定をしてみれば出てくるのは文字化けした鑑定結果。
マトモな場所ではない……と言うより、彼らの望む結果を得られない場所である可能性は高いだろう。
「まあ、筋道が通るだけで、これ以上の情報がないから、精査は出来ず、確定なんてもってのほかなのだけれどね」
「まあ、そうですね」
『おまけにやる事に大きな変化が生じるような話でもないでチュからねぇ……』
なお、どの道襲い掛かってくる敵は倒さなければいけないし、宝物庫に潜入して敵にとって重要な物を奪うなり破壊するなりも必要である。
そのため、ザリチュの言った通りではあるが、私たちがやる事に変化が起きたりはしない。
「うーん、考察も完了しちゃったし。掲示板に今の考察は……」
「もう上げてあります。あくまでも予測と言うか、予想の類としてですけど」
「そう。ただ、相手もプレイヤーだから、こちらが予測を立てることを前提に作戦を考えている可能性も忘れずにね」
「そちらももう上げてありますね。タル様」
「だったら問題ないわね」
さて、前線への注意喚起が終わったらならどうしようか?
今の私はザッハークが落としたアイテムの分配が終わるまでの見張り番みたいなものでもあるので、此処を離れるわけにはいかない。
けれど、これ以上にやる事など……。
「うーん、折角だしさっきのザッハーク戦で使われていた呪術や技術の詳細の確認や想像でもしていようかしらねぇ……」
「えーと、検証班撮影の映像は要りますか?」
「欲しいわね。幾ら?」
「いつも世話になっていますので大丈夫です。ではどうぞ」
うん、やらないといけない事はない。
と言う訳で、私は検証班が撮影していたザッハーク戦の映像を見る事にした。
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