778:5thナイトメア4thデイ-9
「ここら辺でいいかしらね」
「そうですね。この辺でいいと思います」
『前線の爆音も微かにのレベルでチュね』
一応の監視兼護衛として付いてきてくれたストラスさんと一緒に森の中を移動すること暫く。
戦場から十分に離れたと判断できるところで、私は周囲の木々を操って広場のようになっている場所を作る。
うん、『呪憲・瘴熱満ちる宇宙』の扱いにも、その影響で生じた森の扱いにも、だいぶ慣れてきたものである。
「さてまずはザッハーク討伐のメッセージ報酬の方ね……」
『でチュね』
念のために森を介した知覚で、周囲に不審者がいないかを確認。
うん、問題なし。
「えーと……ちっ、しけているわね」
『まあ、あの皇帝だから仕方がないでチュ』
「タル様……」
では報酬確認。
まずはザッハーク討伐の報酬だが、どうやら『傀儡の竜人呪』ザッハーク・イキイサンダ・タタロジマを討伐した報酬は存在せず、『収蔵の劣竜呪』ザッハークの討伐報酬しかないようだ。
『傀儡の竜人呪』の素材が無いのは、ブラクロがトドメに使った『禁忌・陽呑』が影響した可能性も排除できないが、それよりもザッハークと言うカースがそういうしけた報酬しか渡さない可能性の方が高いと思う。
元が元だし。
「まあ、あの爆発力の元になったであろう火薬なら、悪くはないか」
『でチュねー』
さて『収蔵の劣竜呪』ザッハークから得られた素材だが、こちらも量についてはしけている。
三種類のアイテムが一つずつだけだ。
だが、具体的な名称を上げるなら、『収蔵の劣竜呪』ザッハークの木炭、『収蔵の劣竜呪』ザッハークの硫黄、『収蔵の劣竜呪』ザッハークの硝石となり、黒色火薬を作れと言わんばかりの組み合わせである。
「ちなみにストラスさんの報酬は?」
「私の方は石英と鉄ですね。検証班で確認出来た限り、誰もが2~3種類程度の固形物を報酬で得ているようです」
「なるほどねぇ」
どうやら『収蔵の劣竜呪』ザッハークの報酬は、その体を構成していた各種物体であるらしい。
だから恐ろしい程の種類があるらしく、現時点でも30種類を超える素材が確認されているようだ。
効果としては呪いを集めると共に、自己の範囲を広める事で、他の素材に馴染みやすい素材であるらしい。
なお、らしいと付けたのは、私が報酬の名前は確認したが、実体化はしていないからだ。
『鑑定のルーペ』の再発行は最大HP10固定の状態異常が治るまで出来ず、現状では鑑定行為が出来ないため、実体化をしても仕方がなく、だから実体化しなかったのである。
「さて、後は他のアイテムの分類ね。ストラスさん」
「ご安心ください。最初の移動の時点から生放送と録画をして、タル様が誤魔化しの類をしていない事は証明し続けてますから」
では次の作業に移ろう。
私はザッハーク討伐後に現れた大量のアイテムを、見た目から判断したジャンルごとに分類していく。
つまり、呪詛薬は呪詛薬で、料理は料理で一まとめにしていく。
勿論この際には、周囲の呪詛を吸い込むなどの不自然……と言うよりは、危険な挙動を見せているアイテムがない事を確認して、そういうアイテムを見つけた時は呪詛支配によって黙らせていく。
ちなみにストラスさんの目が無くても、私にはこれらのアイテムを独占する気はない。
独占する意味がなく、ただただ不義理な行いであるからだ。
「んー、鑑定が出来ないから正確な判別はつかないけれど、たぶんこの薬は一時的なもので、こっちは恒常的なもの。これはただの傷薬かしらね」
「良く分かりますね。タル様……」
「まあ、何と言うか慣れね」
『慣れで済ませていいんでチュかねぇ……』
そして、ある程度の分類が済んだところで、私は自分の直観に従ってさらに細かく仕分けていく。
例えば薬のジャンルならば、恒常的に異形度を上げるもの、一時的に異形度を上げるもの、異形度に関わらない効果を持つ物といった具合にだ。
こうしておけば、後で他のプレイヤーが取りに来た時に目的の物を回収しやすいし、開催するべき殴り合いの頻度も下げる事が出来るだろう。
盗人対策は……周囲の木々を操って、全方位隙間なく囲っておけば大丈夫だろう。
「さて問題はこいつね」
『まあ、問題でチュよね』
「これ、明らかに拙い品ですよね」
では最後に残った問題。
ザッハーク討伐の報酬アイテムたちの中に混ざっていた問題児をどうするかを考えよう。
「そうね。許されるなら、これだけは今すぐにでも焼却処分したいところかしら」
「その気持ちはすごく分かります」
その品を簡単に述べるなら、三つ首のドラゴンを象った緑色の像、と言う、出来は良くても問題にはならない美術品である。
もう少し詳しく述べるなら、『収蔵の劣竜呪』ザッハークの頭をドラゴンのものに変えた緑色の像であり、周囲の呪詛を自分の近くに引き寄せると共に、縁と言うか道と言うか……とにかく今回のイベントにおける帝国軍周りのギミックを担っていたであろうアイテムである。
詳細を述べるならばだ。
垂れ肉華シダの葉を一枚一枚潰さないように切り離し、繋ぎ合わせ、積み重ねることによって作られた、遠目に見た『心動力式世界救済機構界境掘削竜』アジ・ダハーカそっくりの姿をした、制作者の狂気が限りなく感じられるアイテム。
垂れ肉華シダの葉の性質を限りなく効率的かつ高い応用性を持って利用する事により、一時的な異形度上昇薬の効果を恒常的なものに変える、像と繋がりのあるアイテムが所有者不在になった時に自動回収する、固形物限定と言えど敵対的なものすら取り込んで己の一部にする、などの理不尽とも言える現象を引き起こす異常な像。
今でこそ私の呪憲の範囲内にあり、呪憲も混ぜた『禁忌・虹色の狂眼』で焼いたから大人しいものの、放置すれば本体との繋ぎを取って、同クラスあるいはそれ以上のカースを再び生み出しかねない危険物。
と言う事になる。
「していいわよね?」
「していいと思います。詳細までは分かりませんけど、これだけは本当に危険だと私でも感じるくらいですから」
『燃やすでチュよ。たるうぃ』
うん、ほぼ間違いなく、アジ・ダハーカから今回のイベントの空間に伸びていた蔓の内、一番目か二番目に太い蔓はこいつと繋がっていただろう。
私が言うのもなんだが、この世にあっていい物とは到底思えない。
そして万が一『幸福な造命呪』側によって複製されれば、大惨事になる事は間違いないだろう。
と言う訳で、私はこの像だけ入手処理をし、所有権を手にすると、呪憲込みの『灼熱の邪眼・3』をHPに気を付けつつ発動。
灰も残らないように焼いてしまうのだった。