777:5thナイトメア4thデイ-8
本日は三話更新になります。
こちらは三話目です。
「ふぅ、何とか勝ったみたいね」
「そうね」
『みたいでチュね』
戦闘終了のアナウンスは流れなかった。
だが、ブラクロの用いた『禁忌・陽呑』と言う呪術の性質が私の認識している通りなら、十全に効果を発揮した場合には偽神呪であってもただでは済まないものであり、ザッハーク程度にトドメを刺すならば過剰過ぎるものである。
だから、戦いは終わったと思って問題ないだろう。
そして、戦闘が終了したと言う裁定が正式に下ったのだろう。
「グバァ!!」
「う……タル!?」
『たるうぃ!?』
「タルさん!?」
「タル様!?」
まず私が盛大に喀血した。
まあ、二つの禁忌を立て続けに使用した負荷に加えて、『呪憲・瘴熱満ちる宇宙』による戦場の制御、そして『鑑定のルーペ』の破壊と引き換えにした無理やりの鑑定。
これらが加わって吐血しただけならば安い……あ、吐血だけじゃなかった。
「なんか最大HP10固定とか言う状態異常がスタック値4320で入ってる……」
「「「うわぁ……」」」
「つまりタル様は半日間、実質的に戦闘不能と言う事ですか」
「そうなるわねー……」
『まあ、無茶をした対価としては軽い方じゃないでチュか?』
いつの間にやら最大HP10固定と言う見慣れない状態異常が、スタック値4320……10秒で1減ると考えた場合、12時間持続する状態異常と言う形で付与されていた。
そして同時に仮称裁定の偽神呪から届いたメッセージによると、この状態異常は『鑑定のルーペ』を破壊したペナルティと再発行にかかる費用代わりであるらしい。
うんまあ、ザリチュの言う通り、無茶をした対価としては軽い方だし、得られた情報……『心動力式世界救済機構界境掘削竜』アジ・ダハーカの名前を考えると、むしろ安いまでありそうだ。
「ぎゃあああぁぁぁっ!?」
「ブラクロが潰されたぞ!」
「またブラクロ殿が死んでおられる……」
「まあ、あのブラクロが最後まで格好よく決められるとは思ってなかった」
「兄ぇ……」
続けてザッハークが消えた場所から大量のアイテムが出現し、地上でどや顔をしつつ佇んでいたブラクロの体に降り注いだ。
まあ、ブラクロらしいオチが付いたと言えるだろう。
「……。これはザッハーク討伐の報酬か」
「そのようだな」
「呪詛薬に料理に……ん?」
「メッセージ添付の形で別に報酬も飛んできているな」
「なんか不思議な事になってるなぁ」
降り注いだアイテムの内容については、ザッハークが服用あるいは食べていたと思われる呪詛薬や料理が大量に。
それ以外にも明らかに良質だと分かる武具の類や、ザッハーク自身ではなく部下に持たせていたであろう品々まで保護された状態で落ちていた。
また、ザッハーク討伐の報酬なのか、メッセージに添付される形で幾つかのアイテムが届いてもいる。
さて、こうなると内ゲバの開始が予想されるわけだが……。
「「「!?」」」
「なんだ!?」
「爆音!?」
「宮殿の方から聞こえて来たぞ!」
「あー……森の外縁で戦闘が発生しているわねー……」
どうやらそんな暇はないらしい。
森の外縁で戦闘が始まっているらしく、私が知覚できる範囲だと何十人かのプレイヤーが森の木々を盾代わりにする立ち回りで動いている。
そして、森の木々を盾にしているので、森に入りたくないらしい敵側は遠距離攻撃の類を仕掛けているようだ。
「掲示板情報を確認しました。『幸福な造命呪』および宝物庫軍、それと少数ですがプレイヤーと思しき人間がこちらに向かって来ているようです」
「ザリチュ……」
『本当みたいでチュよ。眼球ゴーレムの映像も今出るでチュ』
さて肝心の敵の姿は……うん、かなり多い。
一番目立つのは『幸福な造命呪』で、右腕が巨大なカノン砲のようになっており、先ほどの爆発音はそれが見掛け倒しではない事を示したと言えるだろう。
その周囲に控えているのは無数のフィギュアと人形の複製品であり、私そっくりなのも居れば、聖女様そっくりなのも居るし、あの筋肉像そっくりなのも居る。
で、プレイヤーと思しき人間は……まあ、見覚えがある姿と言うか、狐の仮面を付けて顔こそ隠しているものの、ほぼ間違いなくゼンゼである。
となれば、見覚えのないプレイヤーたちの正体もほぼほぼ『鎌狐』、それも本物の連中だろう。
「ええっ……あのクラスの強敵の直後に戦争はちょっと……」
「流石に疲れが酷いんだが……」
「装備の確認と回復を急いで! 連戦になります!」
「相手の詳細把握を急げ! 誰に喧嘩を売ったのかを分からせる必要がある!」
こちら側の反応はだいたい二通り。
余力がないプレイヤーは疲れ果てているので、休ませてくれと全身で訴えている。
余力と言うかやる気があるプレイヤーはせわしなく動き回っている感じだ。
私は……うん、ほぼ何も出来ないな。
最大HP10しかないし、『鑑定のルーペ』は再発行中だし、化身ゴーレムは『禁忌・虹色の狂創』の対価で壊れてしまっているから。
満腹度のみを消費する邪眼術で無理やり戦えなくもないが、精々が『瘴弦の奏基呪』による嫌がらせぐらいだろうか。
「とりあえずザッハーク討伐の報酬については、もう少し奥地の方に運んでおくから、前線が落ち着いたら見に来て」
「運んでおくって……」
「この量。インベントリに入れるだけでも一苦労だと思うんだが……」
「でもまあ、タルが運んでくれるならまだマシか」
「いやでもどうやって……は?」
前線での活動は無理。
そう判断した私はザッハーク討伐の報酬となるアイテムを大量の木々の操作によるリレー形式で、森の奥の方、前線からの飛び火がない場所にまで運ぶことにした。
うーん、凶悪な状態異常を喰らっている状態で呪憲の利用をしているためだろうか、なんだか側頭部が妙な痛みを感じる。
そんな事を思いつつも、私本体もまた森の奥へと移動していった。