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『Curse Nightmare Party』-邪眼妖精が征くVRMMO  作者: 栗木下
11章:『盗賊恐れる宝物庫の悪夢』
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769:5thナイトメア4thデイZ-3

ザリア視点です

「え、いや、そんなの……」

 『CNP』と言うゲームにおいて夜空を見る事は殆どない。

 『CNP』にはきちんと昼夜が存在しているし、呪詛の霧による視界制限も異形度上昇やアイテムによって排除することはできる。

 しかし、それでも夜空を見る事は殆ど出来ない。

 いや、いっそ皆無と言ってもいいだろうか?

 少なくとも私はこれまでに見た覚えはなかったと思う。


「んなアホな……」

 では、何故見れないのだろうか?

 それは呪詛の霧が光源として、昼夜問わず仄かな灯りを発しているからだ。

 その光は眠りを妨げない程度には暗く、夜間行動するものの助けになる程度には明るく、宇宙に浮かぶ星々の光を妨げるには十分すぎるほどに眩しい。

 だから、『CNP』の中で夜空を見るには、普通には不可能なはずだ。


「一体何が起きてるの……」

 しかし今、私たちの眼前、森に体を突っ込んで暴れているザッハークの頭上数百メートルと言う場所には、手の形をした宇宙としか称しようのない物が浮かんでいた。


「「「……」」」

 分かっている。

 宇宙そのものが見えるはずがない。

 宇宙そのものに見えるほどに黒い何かで構築された手があそこには浮かんでいるだけだ。

 そして、あの黒い何かの中で星のように輝く何かや、星雲と言われてイメージするような虹色の帯のような物があるから、宇宙に見えているだけだ。


「っ!?」

「ひっ!?」

「っが!?」

 燃え上がるような寒気、そんな有り得ない感覚を覚えた。

 あの宇宙の中にある何かと目が合ったと思った。

 そんな感覚を覚えたのは私だけではなく、周囲に居る全員がそうだったのだろう、シロホワもマントデアも、ザッハークと戦っているプレイヤーの大半も自分の体を抑え込むような姿で怖気づいていた。


「ふははははっ! 脆い! 脆いぞ!!」

「頭が高いのだ貴様らは! 一人残らず喰らって我が肉としてくれるわ!」

「げははははっ! 森の中におびき寄せたからには伏兵の一つもあると思っていたが、目くらましを期待しただけか!!」

 ザッハークは宇宙に気づいていなかった。

 気付かずに森の中で暴れ続けている。

 他のプレイヤーが薙ぎ払われる中で、スクナさんやブラクロと言った一部のプレイヤーだけが、宇宙に気づきつつもザッハークの攻撃への対処と反撃を続けている。

 けれど、ザッハークが暴れ、スクナさんたちが反撃をする度に、宇宙から放たれる燃え上がるような寒気は強まっていて、スクナさんたちの動きは僅かだが鈍る。


『頭が高い……か』

「「「!?」」」

 声が聞こえた。

 羽衣のものによく似た、けれど不機嫌さ、悪意、殺意、あらゆる否定的な感情が含まれているのを欠片も隠していない、明らかに別人の声だった。

 その声の恐ろしさにザッハークと戦っていたプレイヤーたちですら動きを止める。

 だがそれでもザッハークは動きを止めなかった。

 下卑た笑みを浮かべながら、動きを止めてしまったブラクロに前足を振り下ろそうとしていた。


『呪いに飲み込まれる程度の分際で私の眠りを妨げる貴様がそれを言うか』

「がっ!?」

「ぎっ!?」

「げっ!?」

 宇宙が落ちて来た。

 ザッハークは宇宙と地面の間に挟み込まれ、三つの頭からは苦悶の声を上げる。


『朝まで消えていろ。三つ首蜥蜴』

「なん……なんだこれは……!? なんなのだこれは!?」

「沈む!? 吸えぬ!? 理解出来ぬ、いったい何が起きているのだ!?」

「有り得ない!? 有り得ない!? 我がものとならぬ物がこの世にあるなど……」

 ザッハークの体が消えていく。

 宇宙が沈む度にザッハークの体も体の下の方から消えていき、もがく事すらも許されずに消失していく。

 そしてザッハークの体が完全に消えると共に宇宙も霧散して消え、燃え上がるような寒気も消え失せた。

 後には最初から何もなかったかのように、あの森特有の黒い砂が広がっているだけだった。


「「「……」」」

 誰もが言葉を失っていた。

 これからどうすればいいのかも分からなかった。

 そんな中でマントデアが口を開いた。


「あー、ゲームとかでさ、邪神の類を正しい手順で呼び出さなかったから、邪神が暴れ出して酷い事になる。とかよくあるよな。なんであんなに暴れるのかなと思っていたんだが……熟睡中のところを無理やり叩き起こされたら、そりゃあ機嫌も悪くなるよな」

「「「……」」」

「ついでに言えば、タルって確かイベント中でもきちんと睡眠はとるタイプだったはずだし、あの森の中で起きている出来事は全部タルに筒抜けだったはずだよな。眠っている時に通知が大量に来たら……どう感じるんだろうな?」

「「「……」」」

 私も含めて全員が何も言えなかった。


「とりあえずタルを無理やり起こすのは無しだな」

「アレを向けられたくはないですもんね……」

「と言うか、一体何がどうなれば、あんな事が出来るんだろうな……」

 それぞれがそれぞれに勝手な事を言い始める。

 それと同時に緊張が解けて来たのか、腰を下ろすものや、肩の力を抜くものも増える。

 ただそんな中で私はさっきまでの事を思い出す。


「アレは本当に……」

 そして思った。

 あの声は本当に羽衣のものだったのだろうか? と。

 夜明けまでは後4時間と言うところだった。

12/26誤字訂正

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